第三十二話 アサシン/ラケッティア、暗殺と水盤。
カドナイ王国の太守クルガンはつい今さっき、次期宰相の内諾を受けて、いまは美しい王宮の庭園をただ何をするというわけでもなく、さまよっていた。
皮なめし人を処刑し、葱商人を処刑し、中流貴族を処刑し、そして第二王子を処刑した彼は、もはやその権勢並ぶものなくありつつある。
『処刑』という言葉に魅せられ、報告書に『処刑』とあるだけで幸福になれる、この官僚は次は『拷問』の文字に魅せられようとしている。
彼の明晰な頭脳は処刑と拷問を同時に行える〈車裂きの刑〉を行う場所に特化した素晴らしい宮殿をつくるべく、その図面を描いた。
一階に帯状装飾を施し、その入り口を五人の人像柱で支えるのだが、その像は実在した五人の死刑人を象る。
庭園はただ車裂きの台だけを置いておく。その車裂き刑を見に来た美女たちが花と咲く。
音楽家専用の園亭は死刑囚の叫び声をもとに作曲をさせる。
だが、それは叶いそうにない。
叫び声の音曲をききながらまどろむ夜を想像しているころにはクルガンの首はその胴と離れていたのだから。
絞首用のワイヤーを手に走り込んだヨシュアが、クソッ、先をこされた、と毒つき、首を蹴飛ばすと、未来の悪宰相の首は処刑の夢とともに噴水に沈んだ。
――†――†――†――
水盤占いに強い占星術師たちが、水を掻き出してはまた新しい水を注ぎこんでいるのだが、何をしているのかと言ったら、間違った占いが出てきて困っていると言ってきた。
「なんで?」
「カドナイ王国の太守クルガンがつい今さっき殺されたという印が出てきている」
「名前だけはきいたことある。すげえゲス野郎だって。ふーん、殺されたんだ」
「いや、それが単独のアサシンによるものだというのだが、そんなはずはない。困難な任務で島で最良のアサシンによる特殊暗殺部隊を編成する予定だったのだ」
「女にハメられたんじゃね? ジョン・デリンジャーはバイオグラフ・シアターでクラーク・ゲーブル主演の『男の世界』を観た後にGメンが張り込んでるとも知らず、外に出て蜂の巣にされたが、それというのも国外追放寸前のポーランド女がデリンジャ―の居所をFBIにチクったからだった」
「よく分からないが、たぶん、今日は水の調子が悪いのだろう」




