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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アサシン・アイランド 名探偵は真犯人編
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第十三話 アサシン、窓は全てを解決する。

「くんくん。要人が暗殺された香りがするね。ククク」


 クレオはそう言うが、ヴォンモとジャックには朝日を浴びた乾いた藁のにおいしかしない。


「まさにそれだよ。要人を殺すと、血の他に案山子を切り裂いたときのにおいがする」


 と、言っているまさにそのとき、藁を積んだ荷馬車が通りがかっている。


「勘違いじゃないのか?」


「僕の勘はよく当たるのさ」


「ベリーの出来高とかもですか?」


「分かる。でも、母さんには敵わないかな」


 朝のお祈りが終わり、三人は横町へと出ていた。少女暗殺者専門の店にヴィンチェンゾ・クルスがやってきていないか見に行く。


「よおよお。あんたらかい?」


「そうですけど」


「じゃあ、おれ、ヴィンチェンゾ・クルスちゃん。ヴィンちゃんって呼んでくれ」


「ホントの名前は?」


「おれがそうなんだって。世界をビビらす犯罪王だ。それに宝箱でもある」


「え?」


「だから、おれは宝箱なんだって! おれのなかには人間を老化させるガスがあって、何があっても、おれは開いちゃいけないんだ。それにおれはミナミトビウオでもある。普通のトビウオじゃない。南に住んでるんだ。普通のトビウオよりもな。すげえだろ? な?」


 男はシラフだったので、酒が入れば正常な思考ができるのかもしれないと思い、火酒一本飲ませると、男の名前はミゲル・ラバリロで、錫製品の商店を持っていて、妻がいて、ふたりの娘がいることを話した。


「まさか、殺された要人ってオーナーじゃないよな?」


「どうだろうねえ。クックック」


 アサシン・アイランドではアサシンたるもの華麗にナイフを投げられなければならないという不文律がある。


 そのため、他の町であれば、弓射的やボール投げの屋台が並ぶお祭りは全部ナイフ投げ屋台となっている。


 的もアヒルや牛の目玉みたいな丸い的ではなく、王さま、大臣、将軍、司教といった要人暗殺をモチーフにしたもの。注意書きには『爆発物付きナイフお断り!』の文字。


 最初に入った店でヴォンモが、


「やってみてもいいですか?」


 と、たずねて、商品のぬいぐるみをごっそり持っていってしまうと、他の屋台の持ち主たちが看板を『爆発物付きナイフとおれっ子暗殺少女お断り!』と書き変えた。


 最初の店主は今や動くぬいぐるみの山となったヴォンモに商売にならないから返してくれないかと頼むと、ジャックが横に入って、


「タダではダメだ」


「いくらだ?」


「カネはいらない。情報で払え」


「分かった。オズワルド通りのティエット兄弟が一週間後にメウ=ランザ王国の財務大臣を殺る。その大臣は銀貨改鋳に反対してて、後任は改鋳賛成派だ。これでメウ=ランザの銀貨の質が落ちるのは間違いない。いまのうちに銀貨――っていうか銀でできてるものを集められるだけ集めれば、大儲けできる」


「言ったはずだ。カネに興味はない。おれたちは――」


「じゃあ、チョルゴシ広場の〈リボンの家〉の入り方を教えてやる。青いドアを二回、緑のドアを三回、白いドアを一回、また青いドアを二回だ。そこは島で一番エロい家で、まあ、高くつくがどんな変態的なお願いでも――」


 ジャックはヴォンモの両耳を塞ぎながら、首をふった。


「ギソー通りの終わりにある船着き場のカードゲームか? あそこはギルド脱走経験がある連中しか受け入れてもらえない。別にカードがしたいなら、別の部屋でもいいだろ?」


「脱走経験はあるが、それじゃない」


「じゃあ、ブース通りの窓だ。あそこなら何でも手に入る。とはいうが、あんたらの望みのものが手に入るか分からんがな。手に入ったら、ぬいぐるみを返してくれよな」


     ――†――†――†――


 ブース通りにある崖に彫り込んだ小さな窓があり、そこでは望みのものが手に入ると言われている。


 その窓は普段、尻尾をくわえる蛇の柄が刻まれた青銅の鎧戸で閉じられている。そのなかにはガラス窓があって、窓の横のベルを鳴らせばよい。


 そんなおいしい話があるわけがないと思って、三人はその窓をしばらく観察した。


 その一、アル中らしき中年。

 そのアル中はめかし込んだ紳士風のアル中で震える手でベルをメチャクチャに鳴らした。

 窓がくれたのはジャガイモ産の水のように透き通った七十度の火酒だった。


 その二、寂しがり屋の男。

 腹話術人形が放り出された。

 男は人形がひとりでに話し出すのを待っている。精神がボコボコになるその日まで。


 その三、ゴシップ大好きおばさん。

 窓がくれてやったのは犬などの口につける噛みつき防止の金具だった。

 おばさんは早速このことを吹聴するだろう。


 観察の結果、あまり期待はできないという結論に至ったが、それでも試すだけはタダだと思い、戸を叩いた。


 すると、永遠の暗がりからジージーとどこかできいた音がして、しばらくすると、導火線をパチパチ弾けさせたとことこミツルちゃん人形がポイっと放り出された。


 咄嗟に伏せると、大爆発が起き、崖が多少えぐれた。


 三人はぬいぐるみは返してやらない方向で話をまとめたが、そのとき、縁の焼き焦げた一枚の紙切れがひらひらとヴォンモの鼻先に落ちてきた。


 紙にはこう書いてあった。


 城。

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