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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アサシン・アイランド 名探偵は真犯人編
1326/1369

第十話 ラケッティア、まるで二次創作。

 島の領主の大浴場ともなると、なかなかしゃれているものだ。

 口からお湯が出るライオンの頭に蓋があって、そこにいろいろな薬草や香料を詰め込める。


 すると、お湯の心地よさが段違いになる。

 お肌すべすべ。心までぽかぽか。


 ところで、この手の温泉に入ると、レポーターが「わー、若返るようです」って言うじゃん。


「あれ、本当だった。やったね!」


 そういうわけで、これからは来栖ミツルの提供でお送りいたします。


「ハハッ!……ハハ」


 現在、この城に招待されているのはドン・ヴィンチェンゾなので、あの歯車マシンがおれのことを殺すとか言うかもしれない。


 だが、そんなことは些末な問題だ。もっと重要なのは――、


「ヴアー」


「なんて、声を出している。バカめ」


「バルブーフ人は浴場にはうるさいのですよ。カラベラス街に住んでるのでは分からないでしょうが」


「フン」


 やつらがいることです。

 この城でクリミナルマインドなレイプ事件が起こるかどうかは浴場から立ち上る湯気の厚さによる。

 ふたりは口喧嘩をしているので、こっちにはまだ気づいていない。

 こっそり風呂から上がって、外に逃げる。

 考えるのは、それからだ。


 そして、こういうとき、手桶を蹴っ飛ばしてしまうのが来栖ミツルという男なのですよ。


 カポーン!


義伯父上おじうえか?」


 知ってる? アメリカ英語ではアル・カポネのこと、アル・カポーンって発音するんだよ。


義伯父おじさま。お背中流しましょうか?」


「ああ、いや。気にせんでくれ」


 声をガラガラにさせて、こたえる。


義伯父上おじうえ、喉の調子がおかしいのか?」


「いや、そんなことはない。温泉に浸かって、調子はいい。ただ、長湯し過ぎた。先に上がるから、ふたりはゆっくりすればいい」


 青い大理石の棚がある脱衣室に入ると、なんとおれ、というか、ドン・ヴィンチェンゾの服がなくなっていた。

 よりによって、どうしてこんなときにこんな惨いイタズラをするんだ。

 身につけられるものと言えば小さなタオル一枚。


 防御力は最弱だが、ないよりは絶対にマシな装備だ。

 それを腰に巻いて、出会った最初の人間の服を後払いの金貨五十枚で購入するつもりで自室への道を走る。腰に巻いたタオルがひらりと落ちてしまわない程度の速足でチョコチョコ進みます。


 神さま、お願いです。もし、いるのなら、ズボンをください。

 シャツもよこせ、なんて贅沢はいいませんが、くれるならください。


 すると、パアっと目の前に斜め四十五度の白い光が差し伸べられて――ザボンとダツがゆっくり降りてきた

 カルパッチョかマリネにでもしろと神は仰せだ。


 神はこうやって手のひらに乗せて人間をもてあそぶ。


 それにしても、さっきから誰とも出会わねえ。


 金貨五十枚で着てるものを買うって言ってるんだよ?

 シャツとズボンにそんな大金払うって言ってるんだよ?


 そのうち、風呂から上がったのか、ドン・ヴィンチェンゾを探すふたりの声がきこえてきた。


 大きな城の大きな廊下では声が不思議な響き方をして、どこからきこえてくるのか分からない。


 そうやっているうちにおれは伯爵の部屋にいた。


 伯爵がお休み中なのかどうかは知らないけど、この方はデカい。

 後ろに隠れることができる。


 歯車の陰に縮こまった瞬間、扉が開いて、ヨシュアがあらわれる。


 じり、じり、と長靴が石の床を踏む音がきこえる。


 神さま、マジでお願いです。ザボンとかダツとかいりません。

 お願いだから、ヨシュアを外に出してください。


 神さまはさっきのザボンとダツを悪いと思ったのか、ヨシュアを外に出してくれた。


 あー、やれやれ。


 立ち上がって、歩き出そうとした瞬間、――ぐいっと腰のタオルが引っぱられた。


 なんど伯爵の歯車にタオルの端が引き込まれている。


「ちょっと勘弁してよ、もー」


 ぐいっと引っぱると、ぐいぐいっと引っぱり返す。


「なんだよ、もー」


 ぐいぐいぐいっと引っぱった。


 ぐいぐいぐいぐいっと引っぱり返されるんだろうなと思ったのだが……ガシャン、ベキ、ビーン。


「え?」


 と、思ったら、おれの恥じらいのイチジクの葉があっという間に巻き取られて、


 ジー、ガラガラ、ギー、ゴロゴロ、ガッシャン、チーン!


 動きが止まった。


 伯爵が――死んだ。


 そして、おれは素っ裸。


 ヨシュアとリサークがそれぞれ別の扉からあらわれる。


 ミツルの気配がする! そう言ってる。


 わあ、トップクラスのアサシンって、とっても気配に敏感なんだね!


 って、言ってる場合じゃねー!


 神さま、なんでもいいから、服ください! 服服服!


 パアっと目の前に斜め四十五度の白い光。

 その光のなかをゆっくり服が降りてくる。


 あのアサシンウェアが。


 ここで問題です。

 あなたはトロッコに乗っています。

 トロッコはふたつの道に分かれていて、一方には全裸、一方には絶対領域がまぶしいアサシンウェアがあります。

 さて、あなたはどっちに行けばいいでしょう?


 神さま、あんた、単刀直入に、ファック。


     ――†――†――†――


 まず、おれを見て、ヨシュアとリサークが止まった。


 それがほんの三秒。


 その三秒のあいだにおれは決断した。


「大変だあ! 伯爵さまが亡くなっている!」

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