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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アサシン・アイランド 名探偵は真犯人編
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第二話 ラケッティア、思い出のヴォンモ。

 アサシン・アイランド、と呼ぶと、UFJの新アトラクションかソニック・ザ・ヘッジホッグを思い浮かべるが、暗殺島と呼ぶと、金田一耕助の世界である。


 そこまで大きな島ではないが、波乱万丈な人生みたいに山があって、谷があって。


 アサシンたちの住む村みたいなものも見える。


 アサシンたるもの、気配を悟られないために無人島に見えるよう努力すべきだとよい子のパンダのみんなは指差して言うかもしれんが、むしろ無人島のが面倒なことがある。


 この世界には無人島に旗を刺したら、自分のものだとほざくバカチンがウジャウジャしている。

 連中はたいてい「○○公国」「××伯国」を国号とする。

 さすがに王国の称号は使わないが、さっき見かけた島、というより海から顔出した磯に「△△△=□□□二重帝国」というかっこつけた国名の旗が刺さっているのを見た。


「おーい」


「なんだー?」


 しかも、△△△=□□□二重帝国には人間がいる。

 彼は皇帝で、宰相で、近衛隊司令官で、そして唯一の国民。


「乗せてってやろうかー?」


「ここはおれの国なんだー」


「嵐が来たら、吹っ飛んじゃうぜー」


「そのときはそのときさー」


 さすが、皇帝ともなると、考え方が大物である。


 他にもこの広大な海には三十年前に切れた私掠免許で悪さする海賊紳士や大海蛇シー・サーペント、『わたしは漂流しているわけではありません』という看板だけが残った丸太筏、それに手紙が入った壜の大群など、お馬鹿で狂ったファクターであふれている。


 それらに比べれば、暗殺者の島など安定した精神の見本のようなものだ。


「わあっ、見てください、マスター! イルカさんですよ!」


 わあっ、見てください、よい子のパンダのみんな! イルカに目を輝かせるヴォンモですよ!


「ふむ。魚竜を食べると呪われるけど、イルカはどうなるのかな? クックック」


「ク、クレオさん、イルカさんを食べちゃダメです」


 おれは捕鯨に関しては別に意見はないが、ヴォンモがこう言った今、この瞬間から反捕鯨派です。


 さて、暗殺者の島ということで、クレオとヴォンモ、それにジャックを連れてきた。


 ところで、誇り高い狼は自身の死に様をさらさず、姿を消すが、誇り高いジャックくんも、まあ、おんなじようなことをする。


「うえええぇッ!」


「はい、布巾」


「す、すまない。オーナー、吐き気が止まらなくて――ウッ!」


 釣り人たちのあいだでは、船酔いでゲロを吐くことを「魚に餌をやる」と言う。

 そのゲロを食った魚が釣り上げられて、あなたはそのゲロを食った魚を食べるわけですが、まあ、SDGsですよね。


「船室で寝てたほうがいいんじゃないか?」


「ああ」


 ジャックが中甲板の階段を降りていくと、クレオがニョン!とあらわれた。


「大変だねえ。クックック。僕は日々、胃を鍛えているから、船酔いとは無縁だけど」


「ちょっかい出すなよ。いまのジャックは気持ち悪さをきれいさっぱり消し飛ばしてくれるなら、フラマー村の母ちゃんの前でベリーを踏みつぶしてタイマンしてもいいと思ってるんだから」


「お、恐ろしい。きみ、なんて恐ろしいことを言うんだ。まずい、僕も気持ち悪くなってきた」


     ――†――†――†――


 船と並んで泳ぐ細いガラスみたいな魚を舷側から身を乗り出したヴォンモが目をらんらんとさせている。


 この子、南洋海域のプランテーションで奴隷労働させられてたから、こういう海域に来るのはトラウマかなあ、と思ってたんだけど、


「大丈夫ですよ、マスター」


「ん?」


「いまのおれは強いんです」


「あー。顔に出てた?」


「はい。出てました」


「出てたかー。」


 と、天を仰ぐ。真っ白な帆は違法所得みたいに膨らんでいる。


「師匠たちのピンチです。おれ、頑張ります。それに――」


「ん?」


「人助けって、やっぱりいいですよね」


 ミミちゃんがミミさんになっているあいだ、ヴォンモもせっせとかつての自分――戦争に打ちのめされた幼女たちを助けた。

 かつての自分を助けられるほどの実力が心身についたことが嬉しいようだった。


 なんせ、ヴォンモは幼女である。

 これからが成長期だ。

 巨乳になるか、貧乳になるかは神のみぞ知る。


 もちろん、巨乳だろうが貧乳だろうが、ヴォンモはヴォンモである。


 同年齢の女の子と比べて大きくなり過ぎたおっぱいに困っているヴォンモでも、ちっとも大きくならずしゅんとしているヴォンモでも、慰めるわけですよ。ゲへへ。


 ええ。男は変態ですよ。あ、いや、変態は本当に変態だからな。おれみたいなチンピラが変態を軽々しく名乗っては本物の変態にシバかれてしまう。


 ヴォンモを見て、尊いなあと思えているうちは大丈夫だ。

 ダメなやつは頭のなかがペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ……になる。


 誰とは言いませんよ。誰とは。


「マスター、島が見えてきました」


 それは波乱万丈な人生みたいだ。

 山があって、谷があって。


 そんでもって、殺意に満ちている。


 これぞ、人生だ。

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