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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アサシン・アイランド 名探偵は真犯人編
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第一話 腕っぷしな人びと、噂話。

「つまり、叩きだされたんだよ。ボスは看病するって言ったのに、マスターに見られたくない!って面会謝絶。それどころか、間違いがあって出くわしたら、嫌だから出てけ、って。もう、一週間、ここで寝起きしてる」


 七月の初め。

 グラムと〈インターホン〉は〈ラ・シウダデーリャ〉の一階の酒場で来栖ミツルを見舞ったトラブルについて話しながら、ケッパーをツマミに昼ビールをしていた。


「トマトみたいに真っ赤に脹れてるらしいぜ」


「そんなこと言ってるのがバレたら、あんた、ぶっ殺されるぞ」


「でも、ホントなんだぜ。トマトみてえだって」


「アサシン風邪なんて病気があるんだな」


「これまで殺したやつの数も関係してるらしい。あいつら、四人は罪深つみぶけえ人殺しだから、その分、頬もバキバキに脹れるってわけよ」


「まあ、ゴブリンが銀行つくってるくらいだから、そんなこともあるだろ」


「それでボスは、医者、っていうか医者みたいなやつに四人を診せたんだが、ほっときゃ治るっていうんだ」


「よかったじゃねえか」


「半年くらい」


「思ったほどよかないな」


「医者みたいなやつが言うには、アサシン・アイランドにこれの特効薬をつくれる毒使いがいるらしい。基本的にアサシンしか入れないが、まあ、ドン・ヴィンチェンゾが顔見せれば入れるだろ」


「じゃあ、ボスは変身薬をしこたま持って、その島に行くわけだ」


「何かあってからじゃマズいから、手ごろなアサシンも連れてな」


「武器たっぷり」


「火薬もたっぷり」


「でも、ちょっと行って、ヤクもらって帰ってくるだけだから、そんなに――誰か、ノックしてるな。おれが出てくるよ。――え、サアベドラ、どうした? ――ああ、ヤクって言葉がきこえたのか。いや、ヤクってのはアサシン風邪の薬のことだよ。――ああ、って、え? ここでか? いや、嫌じゃないけど――じゃあ、愛してるよ」


〈インターホン〉がサアベドラとキスして戻ってくると、グラムがおかわりのビールを注いでいた。


「仲のよろしいこって」


「まあな。おれたちはラブラブだから、先週もふたりで二件、売人のアジトを潰したんだ」


「ヤクなんかやるやつの気がしれねえよ。自分の体をゴミ箱にしてるようなもんだぜ。こうやってケッパーつまみながら、昼間のビール。それ以上のことを望むべきじゃねえんだよ」


「国王だって昼間からビールは飲めねえさ。やることが多いからな。戦争とか税金とかおべっか使いに手をふったりとか」


「いまのおれたちは国王以上よ」


「なんたって、昼ビールだ」


「暑い季節、このために生きてる」


「一度、ホップの入ったもんを飲んだら、普通のエールは飲めなくなるな」


「でも、冬はあっためたエールがうまい」


「それは違いないな。なあ、〈聖アンジュリンの子ら〉を呼んで、肴に飲もうぜ」


「宮仕えは辛いよな」


 鉄のタガをした小型樽に似たジョッキのビールをひと息に飲み干す。


「かーっ! このために生きてる!」


「それにしてもボスはいつ帰ってこれるかな?」


「トラブルがなきゃ、一週間もかからんだろ。なにせ、四人とも今か今かと特効薬を待ってる。なんだかんだで、ボスは女のために体を張る」


「違いない。おい、またノックだ」


「おれが出る――なんだ、あんたらか。令状フダはあるのかよ? ない? じゃあ、とっとと失せな。いや、待て。そこにいろ。ちょうど今、お前らの話をしてた。いまからおれと、この〈インターホン〉が真昼間からフロストゴーレムの破片と硝石の粉でたっぷり冷やしたビールを飲むところを見せてやる」

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