第三十二話 ラケッティア、大逆罪二件。
幼女の国に秘密警察はいらない。
秘密警察なんてつくったら、自販機が幼女の今日のパンツを調べるために悪用するのが目に見えている。
だから、幼女の国に秘密警察はいらんのだ。
それを説明したところで、あの男には分からんだろう。
ドジっ子爆弾エルフ(姉)がすっころんで、職場が消えてなくなったのは同情する――が、おれの身内をひとり拘束していたのだから、まあ、結局、文句は言えんのだ。
あのイウナスとかいう秘密警察の元トップはおれと自分は同じだと言ってきた。
これはまた難しい。
誉めてるのかけなしてるのか分からん。
ただ、ひとつだけ確かなことはやつは官僚で、おれはマフィア。
全然別物だ。
やつは人を消したり、手紙を盗み見したり、タレコミに耳を傾けたりすることはできるだろうが、カネ儲けができない。
国から予算をもらってる人間と予算を自分で作り出す人間のあいだには天と地ほどの差があるのだ――どっちが天でどっちが地かは知らんけど。
やつは残り少ない忠臣として、カジミウス王に近づき、ぶっ殺す。
で、イウナスはツィーヌとジルヴァにぶっ殺される。
アレンカとマリスはアイニアス七世をぶっ殺す。
向こうはまだ親衛隊が少々残っているので、多少手こずるかもしれんが、まあ、あのふたりなら楽勝だろう。
できれば〈将軍〉もぶち殺したいが、もう逃げているだろう。
まあ、カンパニーのカネのなる木を一本ぶった切った。それでよしとしよう。
しかし、ノヴァ=クリスタルは初めて見たが、ひどい街だな。
もう、ここに住もうって気があるやつらはいないだろう。
兵士たちは続々、幼女救世軍に投降している。
ある兵士たちは自分たちの将軍をぶち殺したが、それと言うのも前進を拒んだ兵士を処刑したことがあるので、泥沼に死ぬまで顔を押しつけてやったそうだ。
今宵、多額の貸倒引当金勘定を遺して、ふたりの王が死ぬ。
大逆罪×2だ。
この世界では王さまを殺そうとした、あるいは殺したものは例外なく、車裂きと決まっている。
罪人を車輪に結んで、切り刻んだり、溶けた鉛をかけながら、じわじわ嬲り殺しだ。
あとできいたが、カジミウス王はイウナスに殺されなかった。
まだ十人親衛隊がいて、イウナスはあっけなく斬殺されたという。
親衛隊のひとりが火炎外套を着ていたので、死体は焼却処分された。
ツィーヌはその残り少ない親衛隊を毒ガスで皆殺しにして、ジルヴァと一緒にカジミウス王をさんざん追っかけた。死にかけのじいさんとは思えないほど、元気に逃げまわった。
ツィーヌが毒を塗り、ジルヴァが放ったスローイング・ダガーが頭にざっくり刺さったが、それでも十五歩くらいは逃げたという話だ。
アイニアス七世は逆に追いかけてきたそうだ。爆薬を体に巻きつけて、たいまつ持って。
アレンカとマリスはさんざん追いまわされたが、遠隔援護要員として控えていた、シャンガレオンとやつのマブいシャーリーンが距離二百メートルでたいまつを撃ち落し、その火が意図せぬ落ち方をして、ドカン!
こうして、ボストニア・セブニア間の長きにわたる戦いは終わり、ただ、幼女救世軍だけが残った。




