第二十五話、戦場社畜、軍議。
「同志諸君。今日は幼女五十人を含む二百人近い難民の救出作戦だ。勝利した暁には幼女のとびっきりの笑顔が諸君のものとなる。それは世界を手に入れるに等しい。なぜなら、星辰の運動も宇宙の摂理も全ては幼女の笑顔の上に存在するものだからである。質問があるものは手を挙げるように」
「はーい」
「同志トキマル」
「帰っていい?」
「却下」
「はーい」
「同志シャンガレオン」
「帰っていい?」
「却下」
「はい」
「同志シップ」
「あのっ……ボク、頑張ります!」
「その敢闘精神こそが幼女を救い、世界の明日を救うのだ。同志トキマルと同志シャンガレオンも見習うように」
「どーでも」
「なあ。さっきから僕らのまわりにドスドス落っこちてきやがるのって、砲弾か?」
「そうだ、同志シャンガレオン。戦いは既に火ぶたを切られている」
「そもそも戦ってないときがあったかのかよ?」
「幼女を救う戦いは不断の努力によってのみ成し遂げられる」
「ミミちゃん語録に載せといてやるよ」
「そのような語録は必要ない。幼女は尊い。ただ、それだけでいい。この言葉を唱えるだけで真理がきみたちのものになる」
「これ、頭領からきいた話だけど、頭領がいた世界に昔、イッコウシュウって呼ばれる連中がいて、ナムアミダブツって唱えながら戦死したら極楽に行けたんだって」
「なんで、それをいま思い出すんだよ、チクショウメ」
「同志トキマル。それは正しい。唱えるべき言葉が違っているだけだが、楽園へのアプローチは間違っていない。彼らはただ、こう叫ぶべきだった――幼女万歳!」
ゴメキャッ!
おそらくセブニアの砲兵隊が放った十二ポンド榴弾がミミちゃんの頭にめり込んだ。
その場にいた誰もが、ああ、こりゃ死んだな、と思ったが、ミミちゃんは頭にハマった榴弾をもぎ取り、その導火線を引っこ抜いて、遠くに放り捨て、首をコキコキ鳴らしながら、へこんだ頭をふくらまし、砲弾を投げ返した。
「見たかね、同志諸君? もし幼女万歳と叫んでいなければ、わたしは今の一撃で昇天していただろう。だが、幼女の護りを得た今のわたしはまさに無敵! さあ、同志諸君も叫びたまえ!」
「じょーだんじゃねえよ。そんなわけ分からん言葉叫んで、砲弾が跳ね返るわけねえだろ。だいたいそんな言葉叫びながら死んだら、情けねえじゃねえか」
「同志シャンガレオン。同志シャーリーンの銃口からは既に幼女万歳の叫びがきこえるぞ」
「まさか、そんな――あ、ホントだ。じゃあ、おれも。幼女万歳!」
「おいおいおい。あんたまでそっちの陣営につくの?」
「幼女万歳、です!」
孤軍奮闘敵わず、トキマルも降伏した。
「はいはい。よーじょばんざい、ばんざい」




