第十九話 小売王、幼女救世軍。
さっきまで立っていた五人の重装歩兵が兜をへこませてぶっ倒れている。
愛に生きる小売王の義の拳が炸裂したのだ。
どちらの陣営か知らないが、「おい、見ろよ。ガキだぜ。さっそく新しい剣の試し切りに使おうぜ」と言った時点で万死。
それが殺されずに済んだのは、幼女の前でスプラッターなシーンを見せまいというミミちゃんの絶対配慮である。
「ミミちゃん自販機モード!」
そう言って、金髪美幼女から、世にも珍しいカネを入れなくても商品が出てくる自販機に変身。
普段はダンジョン向けにポーションや毒消しが並んでいるが、今回はキャンディやハチミツビスケット、アップルジュースにジャムパンである。
「さあ、みんな。どんどんお食べ!」
幼女たちがおずおずとボタンを押し、そして出てきたおやつに涙を流す姿を見ると、ミミちゃんはもっと多くの幼女を救うと同時に幼女の敵全てを滅せんと新たに誓うのであった。
――†――†――†――
二日前。
「は?」
愛に生きる小売王が戦場社畜チームに追加されたことに対するトキマルとシャンガレオンの返事である。
「なんで、こっち来てんの? え? マジ?」
「これより戦場社畜改め幼女救世軍は幼女を救うために行動する。既に同志ミツルから許可は得ている」
「ちょっと見せて」
トキマルがひったくったその羊皮紙には来栖ミツルの文字で『カンパニーの兵器はほっとけ。すげえことになったので、ミミさんと一緒に幼女を救え』とあった。
「もー! どーみてもトラブルじゃん!」
「とりあえず、戦場をまわってまわってまわりまくって、幼女を救出します。もちろん幼女に害を与えんとする馬鹿どもにも制裁を食らわせますが、幼女の前で虐殺とかを見せるのは禁止です」
「背後から苦無で喉を搔き切るのは?」
「禁止です」
「シャーリーンで顔面に至近距離発砲は?」
「禁止です。攻撃は『ぽこっ』とか『ぺしっ』という音がなるもののみです」
「おい、トキマル。どーでもって言ってくれ。いま、一番ききてえ言葉だ」
「どーでもいいわけないじゃん。ちょっと寝る。頭領に会ってくる」
「駄目です。同志トキマルと同志シャンガレオン、同志シャーリーンはいまから幼女救出遠征に出かけるのです」
「うわー」
「給料上げろよなー」
すると、シップが三十七ミリ多目的砲をもじもじさせながら、
「でも、人助けっていいですよね。幼い子どもたちを助けるの、ボクは頑張りたいです」
「さすがだ、同志シップ! 同じ魔法生物として誇らしいぞ! さあ、幼女を救いに行くぞ! 前進!」
――†――†――†――
幼女救世軍は一週間でノヴァ=クリスタルの第三勢力になった。
救出は幼女以外も対象になっていて、これまで最激戦地として知られていたノヴァ=クリスタルへ避難民が集まってきたのだ。
もちろん、集まった難民たちはそのままモレッティの悪夢チャンネルを中継して、水浸しの古城へと送られる。
食料や衣類をTポイントでつくることができないかと工夫をしてみたが、基本的にTポイントはフレイの亜空間とモレッティの悪夢を経由していて、そもそもフレイは兵装はつくることができても、日常品はつくることができない。フレイは軍事用サイバーパンク美少女なのだ。
この結果、難民たちの食料他は皮肉にも営業社畜壱号と弐号の兵器の売上となったのだった。
「おれらが武器売ったカネで難民の食い物買うってどうなんだって話だけど、おいらラケッティアだから分かんねえ!」
来栖ミツルの買収はSAWのバスルームを、1920年代リトル・イタリーにあるレストランの裏庭に変えることであっけなく終了した。
青空。蔓と実の豊かな葡萄棚、カンカン帽。襟につけてネクタイの結び目を後ろから持ち上げるネクタイ・バー。切ったオレンジが入った葡萄酒。
「『ボードウォーク・エンパイア』でジョー・マッセリアとラッキー・ルチアーノがヘロイン取引について話したレストランの裏庭だ! うわ、ちゃんとボッチェのボールもある!」
「もし、わたしに協力してくれるなら、今後のチャンネルはこんな感じになります」
「よーし、お前ら、全力で幼女を救え! それと、みんなボッチェやろうぜ!」
――†――†――†――
幼女救世軍が戦争全体に対する第三勢力となる日はまだ少し遠い。
だが、建国の暁にはその憲法の第一条に次の一文が来ることだろう。
『国家はその最高原理を幼女と定める』




