第十話 ラケッティア、いざとなったら腹を切ろう。
「悪夢にようこそ、シャンガレオン。ネタバレだが、その死体、起きるぞ」
「死体って……なんだ、モレッティじゃねえか。アタマ、半分吹っ飛んでるぜ」
「悪魔はその日の気分で頭を吹っ飛ばしたり吹っ飛ばさなかったりするのですよ」
「そっか。じゃあ、今度、頭を吹っ飛ばしたくなったら、遠慮なく、僕に言ってくれよな。シャーリーンが協力してくれるってよ」
SAWのバスルーム。
きったねえ老朽化したパイプとタイルの小学校の教室くらいの部屋。
今回、召喚されたのはおれとシャンガレオンとイスラントである。
「おい、これはなんだ?」
「そう驚くなよ、イスラント。たぶん、おれの記憶が元になってる」
「この部屋で頭を自分で撃った男が横になり、おれたちが手錠でつながれていることがか? どういう記憶だ?」
「映画でそういうシーンがあったんだ。映画ってのは絵が動く劇のことだけど」
「そいつぁ、占星術師の水盤みてえなもんか」
「あれは生放送だろ」
「生ほうれんそう?」
「まあ、いいや。とにかく、司会を頼む。モレッティ」
「引き受けました」
それぞれがそれぞれの一日を報告する。
「じゃあ、僕から行くぜ」
「では、シャンガレオンさん」
「幼女を大量に保護した」
「幼女ぉ? マジか?」
「ああ、マジよ」
「悲報。シャンガレオンがミミちゃん化」
「ふざけんな、あんな変態と一緒にするんじゃねえ。話せば短い話なんだけどよ」
「じゃあ、話せ」
「戦争孤児」
「戦争孤児? ノヴァ=クリスタルって生き地獄なんだろ?」
「その生き地獄に僕らを送り込んだのはテメーだけどな」
「生き残った幼女をいま保護してるってことだよな?」
「まあな。でも、戦場だ。僕らだって、そう何人も抱えられるもんじゃねえ。でよ、モレッティ。ここで兵器を送るみたいに、幼女を城に送ることできるか?」
「お前、正気で言ってるのか? 城にはミミちゃんがいるんだぞ?」
「だって、戦争よりはマシ……だよな?」
「おれに振るな。その決定にかかわって、倫理的な責任を負いたくない。でも、モレッティ。幼女を城に送るのはできるのか?」
「不可能ではありません」
「じゃあ、この話は決定でいいよな?」
「わかった。来栖ミツルも腹くくるよ。正直、おれらの首都だって戦争孤児には辛く当たるだろうし。もし、ミミちゃんがなんかしたら、あいつを打ち首にして、おれたちも腹を切ればいい」
イスラントが眉根を寄せる。
「おれも含まれるのか?」
「お前は止めなかった罪を問われる」
「まったく」
幼女は保護の方針で決まると、シャンガレオンは、ふいっ、と消えた。
「そんで、今後のセールスだけど、イスラント、そっちは今日、何を売ったんだ? クレオのやつ、シェフのおまかせとか言ってたけど、あいつの舌がパッパラパアなのは知ってるだろ。だから、気になってよ」
「そう変なものじゃない。野戦調理車だ」
「野戦調理車?」
「炎属性の魔物が閉じ込めてある窯。二百人分のシチューを調理できるスープ鍋がふたつ、車輪がついていて、馬に曳かせることができる」
「そりゃあ便利だけど、それ、売れたのか? そっちの王さまは知らないが、こっちの王さまはとんでもねえクズだってもっぱらの噂だぜ。下々が飢えようが共食いしようが屁とも思わん」
「同じことをバジル卿も言った」
「どうやって売ったんだ?」
イスラントの説明をきくと、おれはバジル卿ってやつが好きになった。
なかなかエグいところを突く。
戦場に子どもを送った貴族の夫人とは、まったく。
「なんか、おれもアタマつかったセールスがしたくなってきた。ちょうど面白いコネもできたことだし、明日はちょっと面白いものを売るかな。よし、フレイに火炎放射器をつくってくれって言っておいてくれ」
すると、モレッティが、ちょっと面白そうな顔をしだした。
「それは――ご自分で言われたほうがよろしいかと」
「へ?」
――†――†――†――
気づいたら、ふいっ、と砂浜にいた。
どこまでーも、砂浜。
そんな砂浜に鮮やかなブルーのシートが広がっている。
「〇二〇〇。刻限通りの到着です。司令」
振り向くと、フレイが敬礼していた。




