第四十一話 オールスター、エメラルド星人撃退他力本願説。
よい子のパンダのみんなも知っている通り、おれは頭脳労働者だ。
犯罪してお金稼いで半分が賄賂に消える生活をそれなりに楽しんでいる。
そんなおれがなぜ廃坑の最奥のエメラルド星人の親玉を相手にしないといけないのか。
それは簡単な理屈で、おれ以外の全員がこいつを討伐に向かったら、誰がおれを守るんだ? それなら、おれも一緒にエメラルド星人殺し隊についていったほうが安全じゃないのか?
というわけで、おれはここにいる。
エメラルド星人の親玉。エメラルド色のヴィト・コルレオーネ。
ところでおれはこの親玉について、まあ、デカいエメラルドがあって、そのなかに邪悪な目玉がひとつ、トカゲみたいに裂けた黒目をぎょろぎょろさせているのだろうとは予想していたが、ひとつ目は正解していたが、その他にエメラルド色のタコの足みたいなのが生えて、おれたちを食っちまおうとすることは計算外だった。
そうだ。
このエメラルド、タコの足が生えている。
触手と言っていいのか。
高校が同じだった崎島はパツキン至上主義者の洋ピン野郎だったが、葛飾北斎の海女を犯す蛸の春画を見て、感動に打ち震え、それ以来、エロに関しては国粋主義者になった。
ただ、崎島にとって残念なのはおれたちはみんな男であり、崎島の願いを叶えてやれそうにない。
あえて言うなら、アスバーリの薄幸具合がヒロイン属性っぽい気もするが、それはそれで別のジャンルになるから、どのみち崎島は喜べない。
ところで、ひとつ恐ろしい懸念がある。
おれはきちんと作戦を立てて、かかれば、エメラルド星人のボスだって、このメンツで倒せると言って督戦したのだが、こいつら、その作戦をおれが立ててくれると思ってないよな?
おれは何にも考えてないよ?
作戦があれば勝てると思うけど、なかったら負けるよ。これ。
まあ、クレオあたりが何かしら考えてくれているだろう。
――†――†――†――
エメラルドの表面は氷が溶けるように雫が滴り落ちている。
でも、試しに一本ダガーを投げると金属質な音を立てて跳ね返った。
ミツルくんなら錬金術士に売ればひと財産だと言う気がするね。クックック。
こんな魔物見たことがない。
星から降ってきたというのは伊達ではないわけだ。
ふうむ、どうしたものかなあ。
僕は今回の勝負は頸部だと思っていたんだ。
ショットガンの至近距離発砲で首を刎ねるか、鉄線で絞めて切り離すかするのがいいなと思っていたんだけど、この魔物、頸がないんだ。
あるのは溶ける宝石のなかの目玉とタコみたいな足だけ。
このタコの足、漁師風に味をつけたら、とてもおいしい気がするんだ。
それかベリーを添えて、カルパッチョ。ククク。
でも、きっとこの足は生命活動の停止とともに砂と化すんだろうね。
弱点が目玉なのはなんとな~く分かるんだけど、下手な手を出すと、母さんのもとには枕元に立つ形でしか会いにいけなくなるから、あまり捨て身をしたくないけど、親玉への位置関係を考えると、僕が第一撃を打ち込むのがいいみたいだ。
でも、作戦はどうなっているのかなあ。
ミツルくんは作戦さえ立てれば、僕らでも殺せるって言ったけど、それって作戦がなかったら、逆に僕らが皆殺しにされるって意味だよねえ。クックック。
まあ、とりあえず左腕のショットガン至近距離発砲をやってみよう。
作戦は、まあ、ジャックあたりが考えてくれているということにしておこう。ククク。
ちょっと相手に飛び込み過ぎる気がするし、そもそも鉄砲を撃つのに至近距離まで近づくなんて本末転倒かもしれないけど、でも、ショットガンってそういう鉄砲だよね? ククッ。
――†――†――†――
オーナーは作戦があればおれたちでも勝てると言っていたが、誰が作戦を立てているんだろう?
未知の敵を相手にする場合は、最初は回避に尽くして、相手の攻撃パターンを読み取るのが大切だが、どうもここの空気はおかしい。
なんとなくだし、勘違いかもしれないが、ここに長居をすると、こちらもエメラルド化する可能性がある。
……オーナーを連れてくるべきではなかったかもしれないな。
一緒に来たほうがいいと言ったのはおれだ。だから、おれとしてはやつの懐に飛び込んで、かなり踏み込んだ斬撃を――攻撃後の隙が大きすぎる、若干捨て身の斬撃を打ち込んでみるつもりだ。
オーナーはおれが捨て身をすると、あまりいい顔しないが、ここは捨て身で行くべきだ。
それに、オーナーは作戦を立てれば、おれたちでも殺れると言ってくれた。
おれには何の計画もないが、恐らく誰か、トキマルあたりが何か考えているだろう。
おれの踏み込みの後に、何か援護があると見た。
こういうのは長年ともに戦って分かる一種の呼吸だ。
――†――†――†――
あっつ。
暑いよ、ここ。
見た目は涼しそうだけど、この化け物。
でも、なんか暑い。
あー。
はやく帰りたいし、お腹空いたんですけど。
こんなことなら頭領に声かけて、ホテルの残留部隊になればよかった。
よい子のレッサーパンダのみんなはこんなことない?
気がついたら、ぶち殺し合いの真っただ中にいて、それを避ける機会はあったのに、ぼーっとしているあいだにその機会とかもなくなって、七面倒なドツボにハマる。
いまのおれがまさにそれ。
つーか、こんなの倒せるの?
頭領は作戦さえ立てておけばいい、っていうけど、おれ、その作戦、誰からもきいてないんだけど。
まさか、誰も立ててないってことないよね。
でも、まあ……ジンパチに投げておけばいいか。そういうときの弟分。
とりあえず一発目は後先の回避考えないで斬っとくか。
誰かつなげるでしょ。
――†――†――†――
オイラは武闘派じゃあねえんだよな。
こう、変装とか知性なんだぜ。
それが何の因果で宝石タコの相手をさせられて。
カラヴァルヴァが恋しいぜ。ここは暑いし。
カラヴァルヴァも、どっちかと言えば、暑いが、あそこはみかんがあるからな。
ちょっと街外れにいけば、いくらでももげる。
カラヴァルヴァのみかんはアズマのみかんと違って、夏が一番うまいときてる。
土地が違えば、みかんの旬も違うんだぜ。
って、ことで、オイラ、この戦、免除してもらえねえかな?
まあ、ダメだよな。
じゃあ、辞世でも詠んどくか。
邪の道を 忍びとさだめ 花浅葱
火車よ奪えや 我が荒み魂
まあ、これでよし。
じゃあ、突っ込むか。
作戦は――イスラントの旦那にまかせるや。
――†――†――†――
なにか任された気がする。
ここで止めねばならないたらいまわしがある気がするのは気のせいではない。
なぜなら、さっきから何にも考えずに突撃しようとする気配を感じるからだ。
この分だと、ヨハネも何も考えていないな。
よし。ならば、ここで止める。
完璧な作戦でこの化け物の息の根を止めてやる。
そもそも、七人以上の攻撃作戦というのは誰でも彼でも立てられるものではない。
おれのように慎重かつ大胆な策謀に恵まれなければ、彼らはとっくに死んでいる。
だから、あっ。赤シャツ。
――†――†――†――
んぎゃー! いやあ!
タコきらい! うねうね嫌い!
いやあーだぁ!
こっちうねうねしないでよぉ!
やめて、ってば、やめて――やめてっつってんだろぉがあ! このタコ!
――†――†――†――
あの赤い上衣の戦士が先ぶれに斬りつけると、まるで計ったかのように次々と攻撃が、一瞬の隙もなく、打ち込まれ、〈星辰より来たるもの〉の防御水晶を剥いでいく。
息のあった連携。
これが、仲間、というものか。
打ち砕くのは〈星辰より来たるもの〉だけではない。
わたし自身のくびきを、ここで断つ!




