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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
ディルランド王国 ラケッティア戦記編
125/1369

第五十九話 戦記、続・ディルムス宮殿の攻防戦。

 王座の間。

 ディルランド国王の王座が青い絨毯の続く檀上にある。

 白銀で縁どった青のビロードの高い椅子で、左側には報告書を置くための小さな机。


 高い位置につけられた細い窓から日が差している。


 その輪郭が揺らぐ。熱源。


 アレンカが柱廊の一つに稲妻を放つ。


 魔術師が一人、消し炭になり、他に三人が目を耳をやられてよろめき出るのが、ツィーヌの毒を浴び、どろりと黒い影に飲み込まれる。

 飲み込まれたうち一人はデルレイド侯爵の長男ロベールだった。


「侯爵はどこだ?」


 マリスの問いにユリウスは王座のそばの机の裏をいじる。

 カチッという音とともに王座の後ろの幕から石の扉がゴロゴロと動く音がきこえた。


 小さな窓を切った螺旋階段が続いている。マリスが先頭を買って出た。


 右側の壁に背をぴたりとつけ、レイピアを左手でさげ、短剣を右手で持つ。


 白刃が閃き、マリスはほんの少しだけ頭を傾けた。


 すぐ短剣を三度刺し、剣士が一人階段を転がり落ちた。


「トドメは任せた」


「了解……」


 ジルヴァのブーツのかかとからカチンと刃が飛び出し、倒れている剣士の頸動脈を切り裂く。


 マリスは上を警戒しながら、そろそろと階段を昇る。


「階段の嫌なところは――」


 と、トキマル。


「帰りにまた同じ段を降りなきゃいけないところだ」


「あんた、そんなズボラでよく忍者になれたわね」


「うるせーな。めんどーなのは嫌いなんだよ」


「嫌なら階段を下りずに飛び降りればいいのです」


「ばーか、それじゃ死んじまうだろうが」


「むーっ! ばかっていったほうがばかなのです!」


「そらっ、もう一人!」


 また、マリスに腹を刺された剣士が転がってきた。


「トドメ、よろしく」


「了解……」


「ま、待て! おれの親父はデルレイド侯爵だ! 身代き――えぅ」


 ジルヴァは手慣れた様子で喉仏を抉り出した。


「なー、今の人質にしたほうがいろいろと便利だったんじゃねえの?」


「いいの。どうせ皆殺しなんだから」


「お前らときたら、何でも殺して解決するんだな」


「アレンカたちを何だと思ってるのですか。アレンカたちはアサシンなのです。殺してナンボの世界の住人さんなのです」


「おっかねー」


 よし、とマリスが言う。


「階段は終わりだ。これで外の屋根に出られる」


 尖塔。鐘楼。青銅を葺いた屋根の上に通路と窓があり、傾斜のきつい屋根に爪をひっかけて、必死になって上っているデルレイド侯爵の姿が見えた。


「クソジジイ。おれを売ったこと、後悔させて――」


 銃声がして、トキマルの鼻先をかすめた。


 トキマルが引っ込むのと入れ替わりにジルヴァが出る。


「わたしが、殺す……」


 ジルヴァが破風の陰から姿を見せると、また弾が飛んできた。


「何丁持ってるんだ、あいつ」


 二度の発砲。破風の角が削り取られる。


「銃を持ってると思うように手が出せないのです」


「でも、無限じゃないだろ。ちょっと待て、おれに考えがある――おい、クソジジイ!」


 ドン!


 ビシッ! また破風が弾けた。


「お前の二人の息子な、くたばったぜ!」


「ロベールもか!」


「どっちがロベールかなんて、おれが知るか!」


 ズドン、カーン!


 トキマルたちの頭上の鐘に弾が当たり、やかましい音を立てる。


「このくされアズマの裏切り者が! 向こうにつくなんて!」


「先におれを売ったのはそっちだろうが!」


 バン、バン!


 トキマルは反対側の屋根を指差し、マリスとユリウスがうなずき、そろそろと動く。


 バン!


 二人の目の前の屋根瓦が火花を上げて割れた。


 デルレイド侯爵は破風の両側の出口を見張れる位置につけているらしい。


「まったく。いつになったら弾切れになるんだ」


「〈蜜〉のことは知ってたのか、クソジジイ!」


「知ってたら何だ!」


 バン!


「くそっ、今のはヤバかった……知ってたら何だ、だと! てめえの国によくあんなもん流せるな!」


 バン! バン! バン! バン!


「もう、やめだ。おれは自分の目と技を信じる」


 トキマルは短刀を抜いて逆手で握ると、破風の陰から飛び出した。


 立て続けに銃声がきこえ、弾の切れた銃が次々と屋根を転がり落ちていく。


 トキマルは銃弾を左右に紙一重でかわしながら、デルレイドへと迫る。そして――、


 ……。


 音がしなくなった。


 ユリウスたちは破風の左右から分かれて、屋根へ飛びつく。

 まず目についたのは装填済みのピストルがまだ十丁近く入っている大きな袋が引っかかった風見鶏だった。


 そのそばの平らな通路にデルレイド侯爵が倒れていた。

 後頭部には手裏剣が深々と刺さっている。


「なんだ、結局、大将はトキマルがったのか」


 レイピアを納めながら期待外れとため息をつくマリスに、トキマルは、


「……おれじゃない」


「でも、この手裏剣、キミのだろ?」


 むすっとしてトキマルがこたえる。


「クマワカが殺った」


 トキマルは屋根の尽きた空のほうを見た。

 大きな鷹が一羽、風に乗って、北へと飛び去って行く……。

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