第十七話　聞き込み、元決闘裁判代行人の話。

　レイピアが流行り始めるとひどいもんになった。

　ロングソードや斧なら体が切られて、勝負はおしまいだ。

　致命傷じゃあなくとも体の表面が大きく切り裂かれれば、骨や筋が切れて、手足が動かなくなる。

　ひどい怪我はするが死なずに勝負はつく。

　ところがレイピアというのはやばい。

　両者相討ち死者二名ってのが多くなった。

　あれは体の深いところを串刺しにするための剣だ。

　だから、あれで踏み込めば、心臓を串刺しにできる。

　ところが、人間ってのは心臓を串刺しにされても三十秒くらいは生きていられる。

　その三十秒のあいだに踏み込んだバカの心臓を串刺し返してやるわけだ。

　おれは集計したんだ。決闘の話を公的な記録から酔っ払いの自慢話まで集めて数えて分けたんだ。

　レイピア決闘の死者数は異常だ。ピストルよりも多い。

　その死者のほとんどが心臓串刺しの相討ちだ。

　普通ならひとりで済む死体が必ず二倍。ひでえもんだろ？

　決闘裁判禁止令が出たときはホッとしたよ。

　あんなのの代理人やってたら、いつか自分がくたばっちまうのは目に見えてた。

　まあ、その前は傭兵なんてゾンビ志願みたいな職業だったんだが。

　それも今はこうして爪楊枝をつくって売ることができる。

　サンタ・カタリナ連合会さまさまだよ。

　おい、お前。いま笑ったな。爪楊枝を馬鹿にするなよ。

　誰でも作れるものに自分だけの売りをつくるのがどれだけ大変だったと思ってる。

　この爪楊枝作成技術のおかげで、おれは貴族出身のクズ士官に取り入って、自殺部隊から転属できたし、この素晴らしい爪楊枝のおかげで相討ち共倒れ間違いなしの決闘を十三回も和解に持ち込めたんだ。

　ほら、十本やるよ。

　それで歯を突っついてみろ。違いの分かる男になれ。

　で、肝心の用件だがな。

　ちまたを騒がせてる〈針金男〉の青い帽子。

　あれはたぶんおれの帽子だ。正確には、だった。

　メスカーロで決闘裁判代理人をやってたときにかぶってたんだ。

　決闘とはいえ裁判だからな。代言人みたいに分かりやすい看板があるといい。

　それでツバの広い青い帽子をかぶって、教会前の庭で人殺しどもと一緒に仕事を漁ってた。

　その青さなんだが、縛った男を放り込んだときの海みたいに青かったとか、こっちが剣を抜いたときの色男の顔みたいに青かったとか、みんながみんな違った例え方をする。

　この帽子もそうらしいからな。

　それで仲間から、冤罪吹っかけられる前に自分から言いに行ったほうがいいって言われて、連絡を取った。

　それにしても治安裁判所ってのは事件を解決する気はあるのか？

　おれがこうして重要情報（ネタ）を持ってきたのに、誰もきこうとしないんだからな。

　メスカーロもヤバい土地だったが、ここもなかなかだ。

　なんで帽子を手放したかったって？

　あのとき付き合ってた女がいてさ、これと別れたんだが、その女がおれにくれたのがあの帽子だったんだ。

　ひでえ別れ方はしたが、マジで惚れてたわけでな。

　帽子を見るとあいつを思い出す。

　それで古着屋に売ったんだ。

　他にもいろいろ。ボタンとかと一緒に。

　古着屋の顔も名前も覚えてない。

　それに、あの帽子、実は盗品だったらしい。

　まったく大したタマだった。そこも含めて、イイ女だった。

　帽子がどうやって犯人の手元に届いたかなんて知らん。

　ただ、盗んだ服はそれがどんなものであれ、どこからきたものであれ、〈ラ・シウダデーリャ〉のコーデリアの手に最低一度は触れたはずだ。

　そして、コーデリアは客の顔は全部覚えてる。

　ただ、口は堅いがな。

　それと、これ、おれから賄賂だ。

　おれらの仲間のゼルグレがやってる戦場メシ屋の食べ放題ディナー券だ。

　ヘッタクソな字だろ？

　でも、あいつの前では言うなよ。

　なにメスカーロみたいな街で決闘の代理人なんかすると、身ぎれいな判事がいかに尊敬すべき存在か身に染みて分かる。

　賄賂もらわないことは知ってるから、そうだな、おばあちゃんの肩たたきしたらもらえたとか適当に嘘ついておけ。