第十一話 協力要請、来栖ミツル。
あのなあ。
ここに刑事事件解決お助け相談所って書いてあるか?
今度おれに話をききにくるときゃ令状持ってこい。ったく。
それと、ニンジンだけどな、あのときはそれこそ、そこいらじゅうの連中がおれにニンジンを納品したんだ。
ニンジン・フィーバーだ。
それをいちいち覚えてるか?
とはいっても、まあ、買い取り台帳がある。どうしてもっていうなら見せてやってもいい。
ちょっと待ってろ。
(……エルネスト! あれ、どこあったっけ? ほら、あれだよ、あれ。あれあれ詐欺? 違う、そうじゃない。あれだよ、あれ。違う、アレじゃない。あれのあれ。そうそう、あれのあれだよ。え? あれのあれはあれの棚にあるって? それはアレのアレのほうじゃないか? ほら、あれの鍵があれでさ。あー、そうそう、あれあれ。ちょーだいな)
ほら、これだ。
見ろよ、惚れ惚れするほど整理された帳面だろ。
複式簿記はちんけなおべっか使いと違って、ダメならダメってきちんと物申す。
目をそらしたところで赤字は赤字なのだから、全世界の専制君主どもはおれを見習って、帳簿に真っ向立ち向かうことを覚えるべきなんだ。
ああ、そうだったな。ディアス、ディアス……。
あった、こいつだ。
デゼルヴォロ・ディアス。住所は魔術師街。職業は買い取り屋。生産形態は大型自家菜園。ニンジンを箱ふたつ分納品。
ん? デゼルヴァロの間違いじゃないかって?
クルス・ファミリーニンジン買い取り台帳は落書きノートとは違うんだぞ。
買掛金の渡しとか物々交換割引とか全部これをもとにやるんだから、相手の名前を間違えるなんて絶対ない。
エルネストだって元の台帳で偽造はしないはずだ――たぶん。
とにかく、おれにニンジンを納品したのはデゼルヴォロ・ディアスだ。デゼルヴァロじゃない。
そっちが間違えたんじゃないか?
でなきゃ、ドッペルゲンガー。
あーと、ドッペルゲンガーってのはおれがいた世界――じゃなくて、おれがいた国にある伝説で、そっくりさんってやつだ。見たら、死ぬらしい。
ん? 見たやつが死ぬなら、どうしてドッペルゲンガーの伝説が残るんだって?
おれが知るか。
たぶん見てから死ぬまでにタイムラグがあるんだろ。
おれ、ドッペルゲンガー見たぜ、フー!って喜びわめくくらいの時間は残されてるんだよ。こーいうのは。
三年前 ディアス、カラヴァルヴァに居住
紙幣騒動時 ディアス、来栖ミツルにニンジンを納品
三週間以上前 【矛盾】ディアス、妖精取引所に姿をあらわす
【矛盾】ディアス、川に沈められる(橋守の検死)
17日前 ウンベルト二世失踪
【矛盾】ディアス生存(妖精取引所使用人の証言)
10日前 【矛盾】ウンベルト二世、指輪を呪術師に持ち込み、飲み込む
7日前 【矛盾】ディアス、針金職人から錆びた針金を買う
6日前 【矛盾】ディアス、川に沈められる(カルボノの検死)
【矛盾】ディアス、針金職人と最後に会う
3日前 ウンベルト二世帰宅
ディアス、死体で発見
→死体には大量の針金が飲まされていた
→【矛盾】死体は指輪を所持か?
→【矛盾】死体の顔にびっしりと穴(川のなかでつけられた)
→【矛盾】顎が百八十度開いていた
エビ漁師、死体の指輪を売る
現在 ウンベルト二世出かける
1日後 呪術師〈まわる蛇〉死体で発見
→死んだ時刻は午前三時
→錆びた針金を飲まされて殺害
→最後に会ったのは青い帽子の男
デゼルヴァロ・ディアス=デゼルヴォロ・ディアス?




