第十話 聞き込み、針金製造ギルド公認親方の話。
世人が針金の使い道についてはどう思っているかは承知してます。
人を縛るのに使う。そう言うでしょうね。
ですが、実際、針金は多くの工房で器や製粉を行うのに利用されています。
ロープだって家畜に引かせる以外に首吊り縄に使われますよね。
でも、針金ときくと、みんな人を縛るのに使うと言うのです。
それもロープで縛るよりも残酷だと言うのです。
針金は肉に食い込みますからね。
わたしたちも出荷の際、邪な目的でわたしたちの製品を買う人たちに売らないよう、会合で宣言を出していますが、次の日には十メートルの針金一本で数珠つなぎにされた死体が五体見つかる始末です。
ええ。儲かってはいます。
カラヴァルヴァという街はそういう街です。
錆びた針金ですか?
売り処分にしています。
正確に言うと、農家に売るんです。
意外かもしれませんが、野菜というのは水と太陽と黒い土だけでは育ちません。
鉄を食べるのですよ。
ある魔法使いが調べているのを読んだことがありますが、野菜が緑である理由に錆びた鉄が関係しているようです。
針金は錆びてボロボロであればあるほど、野菜にとって食べやすく、重宝されています。
誰にでも売るか、ですって?
いいえ。農家の方にしか売りません。
十年以上前ですので、わたしが親方からここを受け継ぐ前のことですが、ロデリク・デ・レオン街がシデーリャス通りへ曲がるあたりで、火薬を詰めた壺が爆発したことがありました。
王党派のならずものの仕業でしたが、そのとき彼らは壺に錆びた針金を一緒に入れたのです。
犠牲者のほとんどは火薬の炎ではなく、飛び散った針金のせいで亡くなったのです。
それ以来、わたしたちは錆びた針金を売るとき、相手が必ず農地を持っていることを確かめます。
登記所で権利書を確かめます。相手が農民であるという確証がなければ売りません。
手間がかかりますが、これ以上、針金に悪印象を持たれることを思えば苦ではありません。
確かに農民が誰かに売るかもしれませんが、そこまではわたしたちも取り締まりができません。
ちゃんと土に埋めたと言われたら、そこまでです。
はい。似顔絵を見てほしいと?
……ああ。ディアスさんですね。お得意さんですよ。
名前はデゼルヴァロ、です。確か。
魔術師街の外れに菜園付きの家を借りています。
今年は冬ニンジンを育てていましたよ。おいしいグラッセをおすそ分けされました。
三年前からこの街に住んでいて、菜園付きの家を借りたのも故郷の農村が恋しいからと言っていました。
感じのいい方です。
最後に錆びた針金をこの人に売ったのは八日前です。
最後に会ったのは翌日の一週間前。
グラッセのおすそ分けはこのときにもらったものです。
紙幣騒動のときもニンジンを育てていて、クルス・ファミリー系のヤミ市に納品していたことがあると自慢していました。
三年前 ディアス、カラヴァルヴァに居住
三週間以上前 【矛盾】ディアス、妖精取引所に姿をあらわす
【矛盾】ディアス、川に沈められる(橋守の検死)
17日前 ウンベルト二世失踪
【矛盾】ディアス生存(妖精取引所使用人の証言)
10日前 【矛盾】ウンベルト二世、指輪を呪術師に持ち込み、飲み込む
7日前 【矛盾】ディアス、針金職人から錆びた針金を買う
6日前 【矛盾】ディアス、川に沈められる(カルボノの検死)
【矛盾】ディアス、針金職人と最後に会う
3日前 ウンベルト二世帰宅
ディアス、死体で発見
→死体には大量の針金が飲まされていた
→【矛盾】死体は指輪を所持か?
→【矛盾】死体の顔にびっしりと穴(川のなかでつけられた)
→【矛盾】顎が百八十度開いていた
エビ漁師、死体の指輪を売る
現在 ウンベルト二世出かける
1日後 呪術師〈まわる蛇〉死体で発見
→死んだ時刻は午前三時
→錆びた針金を飲まされて殺害
→最後に会ったのは青い帽子の男




