第八話 夕食、コルネリオ・イヴェス。
今日はそら豆とうさぎのシチューだ。
まだ散弾が残っているから歯を割らないようにしろ。
……ああ、それと手紙が届いていた。お前宛てだ。読んでみるといい。
『ぎでおん・ふらんてぃしぇく殿
指輪ヲ調ベルナ 伯爵ノ失踪ヲ調ベルナ
大イナル災厄ガ オマエニ降リソソグダロウ』
脅迫状か。
この仕事をしているとしょっちゅう受け取る。
必要経費だと思ってあきらめることだ。
……。
事件のなかには少し変わったものがある。
集めた証言がどれもこれも矛盾していて、何が正しいのか分からない。
そのうち事件そのものが本当にあったのかすら疑わしくなる。
この脅迫状はそんなとき、事件が存在していたことをお前に教えてくれるかもしれない。
あるいは脅迫状自体が消失して、さらなる混乱に放り込まれるかもしれない。
……ああ、まだ駆け出しだったころにわたしも体験したことがある。
不思議で、寒く、物事がぼやける事件だった。
いまも本当にあの事件はあったのか、考えることがある。
報告書はわたしの筆跡できちんと書かれていることもあれば、きれいさっぱり消えていることもある。
わたしの知らない誰かによって書かれていることもある。
事件は解決していて解決していない。
事件は発生していて発生していない。
あれは一種の魔物なのかもしれない。
謎が人間を食うのだ。
実際、食われてしまった男がいたのだ。
あれは娼婦が連続失踪したものだが、その警吏は消えてしまった。
もう顔も思い出せないし、ただの夢の出来事のような気がする。
想像と現実の境目は簡単にまたぐことができるが、問題は境目が消失することだ。
だから、ギデオン。本当に気をつけろ。
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