第五話 女性陣、革命的女湯。
【ヴォンモ】「つ、疲れましたー」
【ツィーヌ】「ほんとほんと。ものを無償で配るってこんなに疲れるんだー」
【マリス】「こんなことして、マスターは何を考えてるんだろう?」
【ツィーヌ】「ほんと、わけわかんない。ねえ、ディアナは何か分かる?」
【ディアナ】「いい運動になった」
【アレンカ】「アレンカ知ってるのです。常在戦場の構えなのです」
【フェリス】「わあ、ウェティアちゃん。また胸が大きくなったね」
【ウェティア】「姉さまも大きいです」
【フェリス】「肩が凝るんだよねえ」
【ウェティア】「そうですね」
【マリス】「……」
【ツィーヌ】「……」
【アレンカ】「……」
【ジルヴァ】「……爆発属性があったら、……大きくなるかも」
【マリス】「それだ!」
【ヴォンモ】「いやいやいや! そうじゃないですよ、師匠!」
【ミミちゃん】「そうやで。ヴォンモちゅわんの言う通りじゃ。おっぱいぺたんこな幼女がお姉ちゃんを見て、自分もいつかきっと胸が大きくなるはずだと信じて、自分で自分にこくんとうなずく幼女はこの世界の何より尊いんやで」
【マリス】「ボクは幼女じゃない」
【出待ち幽霊】「百万年幽霊やってるうちからしたら、みんな幼女や――いや、もっと小さい、こう、なんていうかなあ。宇宙ミジンコ? わっ! いっせいに洗面器投げても、当たらへんで? うち、幽霊やし」
【マリス】「ふ、ふん。別に胸なんてなくてもいいんだ。剣をふるのに邪魔だし、なんたってマスターは巨乳至上主義者じゃないからね」
【ヴォンモ】「その意気です、師匠!」
【アレンカ】「アレンカは大きくなりたいのです」
【ツィーヌ】「ツィーヌも大きくなりたいのです」
【ジルヴァ】「……ジルヴァも、大きくなりたいのです」
【マリス】「な、なんだよ、それ? ボクだけ仲間外れじゃんか!」
【フレイ】「わたしはどうでもいいです」
【マリス】「なんか、きみがそういうとホントにどうでもよさそうで援軍になってないんだよなあ」
【フレイ】「では、マリスはどのような支援ユニットを求めていますか?」
【マリス】「胸が大きくなるもの、作れる?」
【フレイ】「組成組み換え豊胸ユニットがあります。このユニットなら美乳、巨乳、奇乳クラスの豊胸が人体組成からの組み換えで可能です」
【マリス】「じゃあ、それをつくってよ」
【アレンカ】「あー、マリスだけずるいのです!」
【マリス】「外野は無視していいから」
【フレイ】「はい。ユニット作成に必要な亜空間リソースを検索しています……検索中……検索中……検索中……エラー。必要なリソースが見当たりません」
【マリス】「どういうこと?」
【フレイ】「既に亜空間リソースを消費してしまいました。あれのために」
【マリス】「あれって……黄色い洗面器?」
【フレイ】「はい」
【マリス】「マスターのバカ……」
【ディアナ】「前から思っていたのだが――」
【ツィーヌ】「なあに?」
【ディアナ】「なぜ、我々女は集団で入浴するとこうして胸の大小を論じるのだろう?」
【ツィーヌ】「こんなふうにお互い胸をさらけ出して、一緒に過ごすことがないからじゃない?」
【ディアナ】「なるほど」
【ツィーヌ】「結局、男は大きなオッパイが好きなのよ」
【出待ち幽霊】「でも、うちの男ども、全然、うちらのオッパイ見いひんで」
【ツィーヌ】「それよねえ。特にマスター」
【マリス】「相変わらずマフィア>女の子なのよね」
【アレンカ】「自分じゃエッチだなんだ言ってる分だけ、タチが悪いのです」
【フレイ】「いつか根性を叩きなおす必要があります」
【アレンカ】「フレイでもこういうくらいだから、これは絶対にやりとげるのです」
【ウェティア】「ま、待ってくださいまし。叩きなおすのはかわいそうです」
【フェリス】「そうだよ。まずは手をつなごう。そこからだよ。うん」
【マリス】「つまり、きみたち姉妹が手をつないだ状態で転べば、懲りるってことか」
【出待ち幽霊】「両腕、もげてまうで」
【フレイ】「動作再現率99.99999999999%の義手なら作成できます」
【ヴォンモ】「……」
【ツィーヌ】「どうしたの、ヴォンモ?」
【ヴォンモ】「えーと。これは言ってもいいかどうか」
【ツィーヌ】「いいわよ。言っちゃいなさいよ」
【ヴォンモ】「ヨシュアさんとリサークさんを真似したらどうでしょう?」
【一同】「………………」
【ヴォンモ】「あのお二人って、マスターに対するアプローチがすごく強引ですけど、でも、そのくらいの強引さが、その、駆け引きに必要なんじゃないかなって――あ、若輩が勝手なこと言ってすみません」
【ミミちゃん】「いや! ええんやで、ヴォンモちゅわん! 天才軍師の才能開花の瞬間みたいでいい!」
【出待ち幽霊】「ええなあ。うちも生きてるとき、あのくらい強引だったら、推しのひとりやふたり、ゲットできたかもしれへん」
【マリス】「前から思ってたんだけど、推し、ってどういう意味の言葉なんだい?」
【出待ち幽霊】「ヨシュアさまとリサークさまにとっての来栖ミツルや」
【マリス】「同性愛専門用語?」
【出待ち幽霊】「いや、異性でもええよ」
【ディアナ】「弟を推すのもありか」
【出待ち幽霊】「ありっちゃあり」
【ジルヴァ】「……わたしたちのマスターに対する気持ち」
【出待ち幽霊】「それがある意味、正統派やね。数万人が一同に会して、ひとりを推す、なんてこともあったんやで。ただ、世のなかにはCPちゅうものもあるねん。このCPちゅうのは――」
――セクハラ屋形船 ちんくらべー♪ 机にちんこを並べてるー♪
【ジルヴァ】「……」
【ヴォンモ】「……」
【出待ち幽霊】「えーと、それでCPいうんはカップ――」
――ぅおう、おうおうおう、ちんくらべー♪ ち・ん・く・ら・べー♪
【ウェティア】「……」
【フレイ】「……」
【出待ち幽霊】「……」
――あぉあぉあぉ。THE・ち・ん・く・ら・べエエエエェ♪
【ジルヴァ】「……なさすぎる。デリカシーが」
【マリス】「男どもは何やってんだか」
【ツィーヌ】「お風呂覗きに来るくらいは想定してたけど、××くらべって、――アホだらけじゃん」
みな男性陣の誰か――できれば来栖ミツルが、浴場をふたつに区切る隔壁からひょっこりと顔を出して、きゃー、エッチ!からのケロヨン桶の集中砲火をお約束として想定していた。
だから、クレオが覗きに行くと言ったのは想定外だったのだが、それよりなによりむかついたのはゲテモノ趣味という言葉だった。
【ツィーヌ】「誰がゲテモノだ!」
【フレイ】「殺すぞ!」
クレオを集中砲火で吹き飛ばしても、その心は晴れない。
【マリス】「ゲテモノって言われた」
【ツィーヌ】「わたしたち、そんなに魅力ないかな」
そんななか、生贄の羊となることを自ら選んだ来栖ミツルがケロリンの丘を登って、ひょっこり顔を出す。
「桃源郷だあ!」
少女たちは様式美を守って「きゃー、マスターのエッチ!」と嬉しそうにきこえないこともない声で叫びながら、来栖ミツルをケロリン集中砲火で吹き飛ばしたのだった。




