第十七話 ラケッティア、午後十時。
アズマ街の店はみんな開いていて、うなぎ屋も練り物屋もみんな年越しそばを出していた。
熱いかけそばをたぐっているうちに体がぽかぽかあったまる。
天ぷら屋のそばは山菜天ぷらがのっている。
おつゆを吸ってもサクサク感が失われないプロの技。
こういうお店は天かすがめちゃくちゃうまいものだ。
残念なことといえば、アレンカとフレイの箸の握り方が絶望レベルにひどいことくらい。
「アレンカはおっきな火の玉をつくることができるのです。だから、いいのです」
いいんだそうです。
「司令。これは非常に興味深い食器です。これにより肉類、魚類から調理した豆類まで全ての食事に対応しています」
フレイは正しい握り方を覚えようとしている。
パーン!とどこかで銃声がした。
「ねえ、おっちゃん。この街、絶賛宗教革命中だけど、連中はここにも来た?」
「何度か来た。天ぷらが罪深いかどうか調べにな。やつら、一銭も払わねえんだ。食い逃げだぜ? もし、今度きやがったら、脳みそ吹っ飛ばして、天かすをかわりに詰めてやる」
「マスター、見て見てなのです!」
見ると、アレンカの左手にきちんと握られた箸が小さなネギの切れ端をきれいにつまんでいる。
「アレンカがその気になったら、この通りなのです。能あるアレンカはお箸を隠すのです」
「アレンカ、左利きだったっけ?」
「違うのです。でも、お箸は左で握るといいのです」
「……」
隣ではフレイがむすっとしている。
そのお箸は握り箸とアンバランス箸の中間で、よくこれでそばを食べられるなと感心する。
「なあ、フレイ。箸を一本抜いて、その一本でペンを握るようにしてみてくれ」
「了解しました、司令」
「で、その握った一本箸の下に――」
すっと、もう一本の箸を差す。
「と、まあ、こんな具合に持つんだ。で、ペンみたいに握ったほうを動かしてみ?」
すると、つるつるのお豆もつまめる理想のお箸フォームが完成。
「司令! 完成度98%のお箸使用スキルが!」
「変な癖がつく前だから、直しやすいんだ」
「ありがとうございます、司令」
「むーっ、アレンカも教えてほしいのです」
「アレンカはもうちゃんと持てるじゃん」
「それでもマスターに教えてほしいのです」
「はいはい」
年越しそばを食べながら、美少女たちにお箸の握り方を教える。
こんな素晴らしい年末の過ごし方があるのに――。
パパパパパーン!
どこかで銃殺刑をやらかしている馬鹿どもがいる。
なんちゅう馬鹿ども。やれやれよ、ホント。




