第十一話 ラケッティア、午後四時。
なーんか気分が乗らなくなったので、ギデオンは勘弁してやることにした。
〈ちびのニコラス〉に戻ると、誰もいない。
そこでロビーの長椅子に腰かけると、そのまま寝た。
――†――†――†――
縛り上げられてパン焼き窯で足からじわじわ焼かれる夢から覚めると、ブーツを脱がされ、蝋燭の火でおれの足を焙るギデオンがそこにいた。
「あっちぃ!」
「あ、やっと。起きた。いやあ、苦労しましたよ」
「てめー、何しやがる!」
「足を焙ったんですよ。人の目を覚めさせるにはこれが一番」
「お前、死にかけてるんじゃなかったのかよ?」
「そうでしたけど、先生が逆に倒れちゃったんですよ。そうしたら、僕が寝ている場合じゃありません。でも、先生はどうしてあんなふうに?」
「コート、質に入れた状態で公営質屋から家まで帰ったんだ。そりゃそうだろうよ」
「なんで止めてくれなかったんですか?」
「止めて止められるもんでもないだろ」
「コート、受けだしてください」
「いいけど、イヴェスが受け取るとは思えない。はい。この話は終わり。今日、メシ食べるとき、イヴェスのために祈ってやるよ」
「資金洗浄してください」
「……なに?」
「資金洗浄するんです。あなたのお金を普通のお金に見せるんです」
「お前、そんな面白そうなこと言って、おれを操ろうったって、そうはいかねえぞ。だいたい資金洗浄ってのは――」
――†――†――†――
やっちゃった。資金洗浄。
だって、面白いんだもん。
輪投げの輪っかの販売会社の売掛金に損金勘定を混ぜ、それを国際的な生牡蠣シンジケートのレモン農園への投資資金から補完し、レモン鉢寄付に関わる人頭税控除の対象にうちの農園のスケルトンたちの名前を使って、その控除分でイヴェスの外套を受けだした。
くそおもしれえよ、資金洗浄。
はやくこの世界が所得税を取るように頑張らないとな。
そうすれば、こんな面白いことが毎日できるのだ。
「ありがとうございます。これで先生も外に出かけられます。ところで黒のジョヴァンニが一命をとりとめたらしいですよ」
「……ふーん」
「冗談ですよ。亡くなりました。即死です。じゃあ、僕はこれで」
「とっとと帰れ。イヴェスによろしくな」
ちえっ、クソガキめ。
と、時計を見上げると、午後五時五十九分だった。




