第九話 ラケッティア、午後二時。
「ああ。一緒に仕事をした」
見たどころではない。殺ったのだ。一緒に。
「し、仕事って、どういうことだ!」
いまのトキマルから『どーでも』を引き出すのはユーチューブで一億稼ぐより難しい。
再生数じゃないよ。円よ、円。
ジャックは拭いていたグラスを置いた。
「お前の妹がこっちに来てから、間もないころ、盗賊団がアズマ街を襲うという情報が入った。それで、お前の妹がひとりで対処しようとしたが、相手が多すぎた。だから、援護した」
「おれは全くきいてないんだけど」
「シズクは兄貴に心配かけたくなかったんだろう」
「ちょっと待った。お前、シズクのことシズクって呼んでるのか?」
そりゃそうだろう。
「ああ」
「だ、ダメだ! ダメダメダメ!」
「なぜだ?」
「し、親しすぎる」
「だが、それが彼女の名前だろう? 別の呼び方をしたほうがいいか? マイ・ハニーとか?」
「そ、それは――」
「とにかくシズクはひとりでそいつらを相手にするつもりだった。だが、手に余る可能性もある。お前もオーナーもいなかったので、独断で動いた」
ジャックのアサシンウェアはそこで見たわけか。
それはいいとして――
「なあなあ、ジャック、ジャック」
「なんだ、オーナー?」
「一生のお願い。トキマルを義兄さんって呼んで」
呼んだ。そうしたら、サム・ペキンパーの映画みたいにスローモーションでぶっ倒れた。
「あー、おもしれえ」
「オーナー、何があったんだ?」
「それはおれから説明してやる」
イスラントが腕を組んで壁に寄りかかっている。なぜか伝説のナンパ師みたいに自信満々。
「なんだ、イース?」
「そのシズクとやら、お前に恋をしている」
「おれに? どうして?」
「自分で考えろ」
ナンパ師が笑わせる。
「説明してくれるんじゃなかったのか?」
「おれが教えられるのはここまでだ。……おい、なんだ、そのピンは? おい、やめろ! 指に刺すな! くそっ!」
「なら、説明してくれ」
ちなみにジャックがピンで刺そうとしたのは自分の指なので、悪しからず。
――†――†――†――
「そうか。そんなことになっていたのか。説明すまないな、イース」
「脅迫しておいて……」
「で、ジャックさん、妹ちゃん、どうよ?」
「どうって?」
「二度と会いたくないって気持ちは?」
「いや、そんな気持ちはない」
「ということは、結構脈ありか」
「でも、オーナー。こういうのはもっと、その、なんというか――運命的な出会いみたいなもので、雷が落ちたような感覚が来るときいたんだが――ほら、ヴォンモに対するセイキチとか」
「なんだよ、ジャック。一目惚れ原理主義か?」
「?」
「恋愛は一目惚れ以外嘘だという連中のことだ。やつらは共同生活をしている。全員が一目惚れでつがいになったものだ。お見合い主義者とは抗争状態にあるが、お見合いで一目惚れした場合はコミュニティへの参加が認められる。まあ、おれが言いたいのは二度と会いたくないって気持ちがないなら、ちょっとデートしてみるといいかもよ。デートから帰ってきて、もう一回会いたいなって思って、回を重ねるごとにその気持ちが強くなったら、そりゃあ、もう、そういうことだよ。なあ、イスラント」
「まあ、そうじゃないのか? というか、これは出待ち幽霊の管轄じゃないのか? あいつは何してる?」
「成仏でもしたんじゃねえの? で、ジャックくん。〈ガレオン〉でちゃんとしたお菓子風パンケーキを食べに行くなんてどうよ? これはまあ、若いお二人に任せるにして――シャンガレオンを見なかったか?」




