表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ 大晦日の一日編
1150/1369

第二話 ラケッティア、午前七時。

 あまり多くは語れないのが、大晦日の七時だ。

 だって、年末年始に向けての買い物は終わってるし、大掃除も終わってる。


 休みのないマフィア稼業もさすがに今日は休みだ。


 やることがないのは他の連中も同じで、何かやることはないかとうろうろしてる。あのトキマルでさえも。――まあ、着ているものから推定して、あいつは今日は妹ちゃんに会うんだろうけど。


 飯も食って、顔も洗って、コーヒーも飲んじゃうとまた寝る気も起こらない。


「あの、来栖さん」


「ん?」


 見るとシップがやってくる。


「どしたの?」


「あの、これを見てもらえますか?」


 そう言って、輸送用の箱の錠が開いて、ドアがパタリと開く。

 なかには赤いビロードに包まれた丸いものがひとつ。


「ちょうどボクの口径と同じものらしいんですけど」


「ふむふむ」


 ビロードを解くと、きれいな水晶玉が出てきた。

 あんまり透き通ってるもんだから、光が屈折せず縁が見えないくらい透明だ。


「へえー、きれいだ。誰からもらったの?」


「フェリスさんです」


 ひえっ、と声が漏れて、水晶玉を取り落とす。


 がん。


 ごろごろごろ。


 見れば、他の連中は伏せたり、テーブルを倒して盾にしたり、あるいはアレンカとツィーヌみたいにお互いを盾に使おうとしたりしている。


 そ、っと刺激しないよう玉を持ち上げ、ビロードで包み、シップの輸送箱に戻す。


「あぶねー」


「やっぱり爆発物でしょうか?」


「どうだろうなあ。なあ、誰か吹っ飛ばしてもいい店を知らないか?」


 シャンガレオンがとっとと捨ててこいといい、しょうがねえなあ、とシップと一緒にエスプレ川へと向かう。


 年末の風は寒いことは寒いが、思ったほどではない。


 河岸に降りて、船がいないことを確認して、玉を川に向かって投げると、どっかーん!


 派手な水柱が上がると同時に〈ちびのニコラス〉へ駆け戻り、ぴゅーぴゅーと口笛を吹いて、お互い何も見なかったことにする。


「まあ、何はともあれ、製法不明の爆発物がひとつ、この世から消えた。それはめでたい」


「え? でも、ボク、あれと同じものをあと二十三個持ってるんですけど」


 二ダース……、と絶望したようなため息がもれてしまった。


「せっかくもらったものですし、ボク、有効活用できないか考えてみますね」


「キラーマシンになるのに、ちょうどいいんじゃないかなあ」


 我ながら言葉に魂がこもっていない。


     ――†――†――†――


 あまり多くは語れないのが、大晦日の七時だ。

 だって、年末年始に向けての買い物は終わってるし、大掃除も終わってる。


 やることがないのだから、こちらから出かけないといけないが、特に目的もないのに出かけるのも微妙だ。


 トントン。


 軽快なノックの音。こういう音が生活にささやかな幸せを運んできてくれるものだ。


 ……前言撤回。


 だって、外に立っているのがロジスラスとイリーナなんだもの。


「何か用ですか?」


「特に何も用はない」


「用もないのに、うちに来たの?」


「ああ」


「朝の七時半に」


「そうだ」


「でも、用はない?」


「ああ」


「……」


「……」


「これ、ひっかけ問題?」


「なぜ、そう思う?」


「いやー、だってさあ」


「じゃあ、我々は帰る」


「あ、そうですか」


「……」


「……」


「あの、帰るんですよね?」


「ああ。じゃあ、いい新年を迎えるがいい。来年はもう少し悪事を控えめにすることだ」


「それって挨拶?」


「そうだ」


「それ、言いに来たの?」


「ああ」


「じゃあ、用がないんじゃなくて、挨拶しに来たんじゃん。しかも、さりげなくうちのファミリーに釘刺してるし」


「そうだな」


 帰っていくロジスラスとイリーナの背中を見ながら、分かんねえやつらだなあ、とひとりごちる。


 いや、そこまで分かりにくくもないかも。


 だって、あのふたり、手ぇつないでますよ。ぎゃはは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ