第二十七話 ラケッティア、選挙もバカンスのひとつ。
総督はヨシュア&リサーク陣営の人間を片っ端からぶち込んだ。
「不当逮捕だ!」
「こんなことで民主主義は屈しないぞ!」
焼肉とタダ酒と放火とインチキ公約の上に立った民主主義は、何もなかったことにしようとする穏健勢力にひっぱたかれ、ケツをほられ、棍棒でぶちのめされた。
だが、考えてみると、無理もない話だ。
選挙戦が始まった瞬間、ジャングルのえげつない戦いが始まったことがどれだけ観光業に影響を与えるかを考えていなかった。
結局、この島は選挙でも総督でもなく観光が支配しているのだ。
国選代言人という名のやる気のないおっさんがおれにつけられ、面会室で総督の補佐官なる人物と話し合った。
おれはこの島を出ていく。
選挙はしない。
ヨシュアとリサークは政治顧問になる。
最後の条件は上流階級のお嬢さま方がパパに圧力をかけたらしい香りがする。
おれとしては三つの条件を呑むことを相手に伝え、特に三つ目の条件についてはその達成のために全面協力すると言った。
補佐官や国選代言人の意外そうな表情から読み取るに、三番目の条件を呑ませるのが一番難しいと思っていたようだ。
そりゃ、血で血を洗う選挙を勝ち抜いて、この島の支配者になるはずだった人間が一介の政治顧問では納得いくはずがない。普通はそう思う。
だが、やつらは普通ではない。
おれも普通ではない。休暇中だ。
でも、カラヴァルヴァに急ぎ帰らないといけない事情ができた。
黒のジョヴァンニが殺される。
梅毒がひどくなり、自分で何を言っているのか分からなくなり始めたらしい。
このままいくと官憲にとんでもないことを話しかねないので、粛清しなければいけないということになった。
レリャ=レイエス商会は他の商会を納得させていて、あとはクルス・ファミリーだけらしい。
――†――†――†――
「マスター、見て見てなのです。あのマナティー、ツィーヌにそっくりなのです」
「ふざけんじゃないわよ、馬鹿アレンカ」
「アレンカは馬鹿じゃないのです。馬鹿って言ったほうが馬鹿なのです」
買収と脅迫と非道徳にまみれたバカンスが終わった。
おれはバカンスできない男。ミツル・サ・ノー・バカンスマン。
ミツル・サ・ノー・バカンスマンは来たときと同じ定期航行のキャラック船に乗って帰る。
あの島がおれが来る前と来た後で変わったことは三つ。
ひとつ、変態ひとり、牢屋行き。
フレデリーチョという名でやつを呼ぶのは監獄レイプ魔くらいだ。
ひとつ、山椒魚焼酎。
蟹ビールと並ぶ地酒。もちろん、エル・ジェリコがクルス・ファミリーの支店となり、ラムと〈命の水〉を密輸する。ニューヨーク・ファミリーがニュージャージーに兵隊を五十人置いて商売するようなものだ。
ひとつ、政治顧問。
カナリア島は政治素人の政治顧問をふたりも手に入れた。
ふたりとも嫌がっていたけど、強いコネを持つ少女たちには逆らえない。
今ごろ逆玉の輿に乗ってるかもしれんよ、アハハ。
島をちょっと離れただけで冬の冷気が襟をつかんで手を突っ込んでくる。
もう、麻の上着なんて着てられる気温じゃないな。
「マスター、見て見て」
「なに? シーサーペントでもいた?」
「ヨシュアとリサークがお互いをオールで叩きながら、手漕ぎボートで爆走してる」
「ファッ!?」
カナリア島 ラケッティアホリック編〈了〉




