第二十五話 ラケッティア、おれのルカ・ブラージ。
米がパラパラになるまでサフランと一緒に炒めた後、いくつかのペーパー・カンパニーにいくらかのペーパー有権者をつくり、その名前は墓場からいただき、赤シャツの動向を探る地元の密偵たちの報告をきき、挽きたてのコショウを鍋に入れ、イカと海老と貝を入れたが、なんか米が軽すぎる気がするので、追加のオリーブオイルを入れ、ちょろちょろするアレンカにあと五分だ、といい、ちょろちょろするヨシュアにあと十五分だ、といい、ちょろちょろするリサークにあと十七分だ、といい、なぜかリサークが勝利したことになって、チャーハンみたいなパエリヤが出来上がる。
チャーハン風パエリヤ。世人これをピラフと呼ぶ。
現在、ガールズで復活したのはアレンカだけなのだが、これがアレンカに精神的優位性を与え、ついこないだまで自分もガラス床にうつ伏せになったこともケロリと忘れて、マリスとツィーヌとジルヴァを叱咤激励した。
アレンカは暗殺少女工学の大家として、マリスたちがこの状態から脱するには赤シャツを殺させるしかない。縛り上げて抵抗できないようにして、なぶり殺しにするのだ。
「そんな一方的なやり方でいいの?」
「アレンカたちはアサシンなのです。アサシンに卑怯もへったくれもないのです」
「それもそうか」
翌日、密偵たちが赤シャツをカラッラ通りで見つけ、三つのサイコロと二組のトランプがあるだけの自称カジノのあばら家にいると教えてくれた。
既にエル・ジェリコ全員であばら家を囲み、他の客や従業員はみな外に出した。
「困るよ! こんなこと!」
まるまる太ったあばら家の主が首筋をぼろきれで拭きながら騒ぐ。
「分かるよ。新築だもんな」
「銃弾が当たったら、補償してくれるんだろうな?」
「ああ。頭に当たったら金貨十枚。利き腕に当たったら金貨七枚。ポコチンに当たったら金貨三十枚」
まわりで撃鉄が上がる音がして、太っちょが黙る。
「まあ、どのみち銃弾が当たることはない。ちょっと行って話してくる」
――†――†――†――
大勢が反対したが、ラケッティアはひるまない。
あばら家カジノは本当にぼろかった。いつ崩れるか分からない。
トランプやサイコロよりもこの建物自体がギャンブルだ。
赤シャツは小さな焼け焦げだらけのテーブルにひとりで寄りかかっていた。
浅黒い顔で口ヒゲと顎ヒゲは灰色、赤シャツはごわごわでダブダブ。
だが、それでもこの男が同年代の平均体重の二分の一しかないことが知れる。肉体は魂の牢獄である、という格言を誰かが言っていたが、それなら赤シャツの監獄破りはそう難しいことではない。
このとぼけた身なりでひとつだけ優れたものがあるとすれば帽子だろう。
平べったいパイみたいなスモーキング・キャップには白い糸で花と蔓が刺繍されていて、これだけは新品みたいに見える。
ジュセッペ・ガリバルディがかぶってる帽子みたいだ。赤シャツとひげが手伝って、ビタミン不足のガリバルディみたいだ。
ひと目見て、ビビビときた。
このおっさんはオールドマン・ジョー・パルータみたいなおっさんだ。
ガンビーノ・ファミリーの殺し屋で四十代にして八十代の見た目。
声は枯れ、骨が弱り、激やせ、肺がんで死んだこのチェーンスモーカ―の殺し屋は早老症だった。
体力的な問題があって、メイドマンにはなれなかったが、多くの殺しをやり、ガンで死ぬ直前、念願のメイドマンになり、死んでいったストイックなマフィアだ。
赤シャツのテーブルに座り、店にある二組のトランプのひとつを手に取った。
「ブラックジャックやる?」
赤シャツはカリカリ噛んでいるマッシュルームから目をあげ、うなずいた。
「でも、このトランプ油でベタベタしてる。切りにくい」
それにも赤シャツはうなずいた。
「トランプが油で汚れてなくて、いつも封を切りたてで、スロットマシンが世界一で、高額レートのポーカーがあって、誰が勝つかに賭けられて、そして、ロンドネやセヴェリノのスポーツ賭博ができるフロアがある。そんなところで賭けたくないか?」
赤シャツは黙って、動かない。
「かわいいもふもふもいる。どうだ?」
赤シャツはうなずいた。




