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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カナリア島 ラケッティアホリック編
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第二十二話 ラケッティア、トロピカル政治学二論。

 選挙が始まると同時に島の風俗が乱れだし、不倫が奨励され、婚前性行為が奨励され、自慰行為が奨励された。


 こっちの世界の医学では自慰行為は体内の液的バランスを崩し、軽いと頭痛、重いとインポテンツになると信じられている。


 つまり自慰行為解禁とはインポ上等オナニーしようぜ!という若者たちの熱き暴走なのだ。


 卑猥な形のキノコの売買がなされ、ときには票の買収にその手のみだらなキノコが使われる。


 生産者や輸入業者を抱き込んでマッシュルーム・カルテルをつくってもよかったが、いかんせんガールズたちが意気消沈であるので、こちらをなんとかしないといけない。


 それにガールズが復活するまで選挙活動は中止!と格好はつけたが、思いのほか、こちらも激しくなっているので放っておくわけにはいかない。


 しかも、選帝侯の数がひとりから七人に増えて、七選帝侯という、また中二心をくすぐるエモい言葉が出てきている。

 全員倒すと、ラスボスが出るな、これは。


 このひとりから七人という変更は選挙をさらに仁義なき戦いへとランクアップさせ、協力と離反、買収と摘発、ときどきシコルスキーと言った具合に、悪のごった煮化しているのだ。


 人間の美麗さと海の美麗さのあいだには何の関係もなく、世界で一番きれいな海の島に住んでいても、人間はここまでボロ雑巾になれるというのは得難い教訓だが、そのボロ雑巾のなかにはもちろんおれもカウントされている。


 おれなんか、正業に励んでいる立派なカタギからしたら、ゴキブリ虫けらの類だけど、その虫けらはカネを持っている。

 カネを持っている限り、虫けらは無一文の人間よりも大切にされる。


 さっきも言ったが、人間の美麗さと海の美麗さには相関関係はないのだ。


     ――†――†――†――


 さて、島の人間、それも選挙に関わる人間は選挙権をどれだけ与えれば自分に有利かを考え、こたえが分からず途方に暮れていた。


 こっちは票田が十二歳以上の少女にあるのだから、少女たちに選挙権を!と運動すべきなのだが、年寄りの知恵を過信する勢力が八十歳以上の男性に限定すべきだとすげえことを言っている。


 赤シャツへの対応の次に重要なのはフレデリク・〈フレデリーチョ〉・ガリロムスの地盤を切り崩す必要がある。


 ヨシュアとリサークの掲げた公約たちは少女たちの心へ誤解されて染み渡った。

 票田を確保したら、次は相手の田を荒らしまくるのだ。


 有権者に酒を配るのは別に特別な考えではない。

 編み縄をかぶせた葡萄酒の壜を満載した荷車があって、インチキ候補者が不老不死を約束する。


 もちろん有権者だって公約は破られるためにあることは知っている。

 問題は現時点で候補者がどんな便宜を図ってくれるかだ。

 まさか、自分が当選しなかったからといって、飲んだ葡萄酒を吐き出せとは言わないだろう。


 有権者は候補者が葡萄酒をふるまう瞬間を待っている。

 候補者がロンドネ古典文学から引用したよく分からん格言を黙ってきいているのはこの葡萄酒のためだ。


 しかし、信じられないことに選挙の肝である葡萄酒を坂の上に止め、警備にたったふたりしか自警団を雇っていないのだから、お笑いである。


 気絶した自警団員が荷車にひかれないよう道の端に寄せると、車輪にかっていたくさびを蹴飛ばす。

 すると、ゆっくり着実に加速を始め、最後は壜をがちゃがちゃ鳴らしながら、候補者を演説台ごとぶっ飛ばす。葡萄酒の芳香付きで。


 ヨシュアとリサークはロバにつないだ荷車に立って、愛撫や接吻を約束する。

 経済や行政改革、補助金や減税は一切ない。


 うら若き乙女たちが集まると、当然、きれいな女の子を見ていたい悩めるティーンエイジャー・ボーイたちもやってくる。この少年たちのうち、何人かは『ひと晩だけでいい。きみといられたら、ハラワタを引き裂かれても構わない』と彼女たちにラブレターを送っている。

 少女たちがやれと言われれば、喜んで十文字腹を切る若人たちである。


 これで票田ゲット。


 選帝侯が七人に増えたことで選挙協力がちらつき始める。

 要するに有力候補に応援を頼み、第一の権力者は無理でも第二の権力者を狙うのだ。


 勢いのいいフレデリーチョ陣営とヨシュア&リサーク陣営にそれぞれ協力の申し出がやってくる。

 泡沫候補たちも最低五人は山刀使いを子分にしているから、だんだんとバラバラのチンピラたちが集団を形成して、選挙はいい感じに発酵して暴力を合成する。


 こうして両陣営がこぼれ落ちるハラワタをかかえながら医者に駆け込むようになる。

 悲鳴のきこえない夜はなくなり、歓楽街の一大利権をめぐる争いは苛烈さを増す。


 これまで暴力団はエル・ヴェラーコだけだったのだが、おれ陣営のチンピラたちが集まって、エル・ジェリコという愚連隊をつくった。


 ここでおれは宇宙人の観察欲が出てきた。

 つまり、地球という星は宇宙人の巨大な自然公園であり、宇宙人たちは手を出さず、自然に自然が自然する様を眺める。サファリ旅行のようなものだ。


 ここでのおれの観察欲はつまり、おれがあまり干渉しないで、地元のチンピラがどう動き、エル・ジェリコを盛り立てていくかを見る。


「だから、お前らもおれに干渉しないで鑑賞しろよ!」


 ふたりがゆする椰子の木に掴まり、必死に怒鳴る。

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