第十九話 ラケッティア、ジマツィア会発足。
ジルヴァの話を要約すると、カンパニーの上級士官をひとり屠ったが、長椅子に寝ていた赤シャツと戦い、腕は互角。他の警備兵もやってきたので、とりあえず逃げた、ということだった。
現場見られて始末できずに逃げたことが、思ったよりジルヴァにはヘヴィだったらしい。
おまけに気配を隠そうともしない相手に気づくこともできなかった。
ジルヴァは水上コテージのガラス床にうつ伏せになって、じっと熱帯魚が活発に餌を食べているのを眺めている。
我々は急遽、選挙運動を凍結し、ジルヴァを励ます会を発足した。
「ジルヴァ、なんでも好きなもん、作ってあげるよ」
「……」
「そーだ、インディアン・ポーカーやろう。ジルヴァだけ鏡見ていいよ」
「……」
「ヘイ、ガールズ、カモン」
コテージの外、エメラルドグリーンの海にかかる桟橋の上でマリスたちと今後の協議をする。
「どうすんだ、めっちゃへこんでる」
「ジルヴァが殺しきれなかったなんて初めてなのです」
「きみら、ちょっと代わりにいって、ぶっ殺してきてよ」
「ボクがいくよ。みんなは待ってて」
「どんなやつか知ってるの?」
「それはいまからジルヴァにきく」
一時間後、そこにはショックで落ち込んでガラス床にうつ伏せになったマリスの姿が!
この緊急事態に我々はジルヴァと励ます会を解散し、ジルヴァとマリスを励ます会を新たに発足させた。
「ふたりで行ってぶっ殺してきてよ」
「しょうがないわね。でも、マスターのためじゃないんだからね」
「そりゃそうだ。なにせおれたちはジルヴァとマリスを励ます会の理事で役員で最高幹部なんだ」
一時間後、そこにはショックで落ち込んでガラス床にうつ伏せになるツィーヌとアレンカの姿が!
この緊急事態におれはジルヴァとマリスを励ます会を解散し、ジルヴァとマリスとツィーヌとアレンカを励ます会(通称ジマツィア会)を新たに発足させた。
さて、会の目的に沿うためにまずは現状確認だが、ガールズはちょうど上から見たら、十字を描くようにうつ伏せになり、同じガラスから魚たちを見つめている。これはイルカやウミガメの出現ではだめだ。
目下、ジマツィア会が抱える問題はマンパワーである。
正確にいうとガールズパワーなのだが、とにかく会員の頭数が少ない。というより、おれひとりである。おれは孤独なロンリーなのだ。
四人の美少女を励ますための組織に仲間入りしませんか? と町で参加者を募っても、邪な目的を持つキショイおっさんたちが集まるだけだ。
そこで、地雷でも仕掛けて、まとめて吹き飛ばせば、世界は今よりちょっとだけマシなものになるが、ガールズたちはへこんだままである。
孤独なロンリー、下手な寡兵ができない。
と、なると、もう背に腹は代えられない。
――†――†――†――
「興味ないな。選挙がある」
「かわいそうですね。ですが、選挙がありますので」
これだ。
こいつら、もうちょっと女性を敬うことを覚えたほうがいい。
そもそも、こいつら、選挙を理由にしているが、その選挙活動だって、おれが与えた街宣車(注:ロバに荷車を曳かせたもの)をほっぽり出して、コーヒーしばきに行ったりしてるのだ。
「そんなこと言わずに、ガールズの復活に手、貸してよ」
「暗殺者としての自信が喪失したのなら、その相手を葬ればいい」
「それができれば苦労はしない」
「時が癒してくれるでしょう」
「田舎のハロワの窓口だって、もうちょっと熱心におれの話をきいてくれるぞ。ちっ、しょうがねえ。これだけは使いたくなかったが――ガールズ元気づけたほうと十秒間、手、握ってやる」




