第十五話 ラケッティア、浜辺の休日。
五十八人の下請けの手首を犠牲にしてつくったペリペリチキンの香ばしさといったら素晴らしいもんだ。
グリルのあちこちでヨシュアとリサークを連れて、こいつらを男にしてやってくださいと口添えし、勝手に賭博してる連中からのテラ銭を免除してやり、カンパニーの最高幹部〈提督〉をのせたガレオン船が水平線上を滑るように動いているのを見て、来れるもんなら来てみやがれとゲラゲラ笑った。
普段蟹ビールより強い酒を飲んでない連中に〈命の水〉の度数を教え、これからもこれを飲みたかったら、おれたちに投票しろと触れ回る。
「ミツル」
「ん? なんだ?」
「おれはとても不安だ」
「また、何言ってんの? こんなの人殺すのに比べれば軽いでしょ」
「いや、とても不安だ」
「うーん。どうやったら、その不安を払拭できる?」
「ひとつだけ手がある」
「へえ。どんなこと? おれに協力できることがあっても何にもやらないよ」
ヨシュアの電光石火の早業がおれの唇を奪おうとし、そこにリサークが突進して妨害してくる。
これぞ、おれの狙った状況だ。どちらかひとりなら、おれはとっくに結婚させられている。
だが、ふたり揃うと、こいつらは足の引っ張り合いをする。
このときもリサークがおれとヨシュアのあいだに割り込み、それを追い払おうとしてヨシュアがリサークにつかみかかり、リサークもヨシュアにつかみかかり、そうしたら、ふたりの唇が、ちゅっ、て不可抗力で触れちゃって……。
「オエエエエエッ!」
ふたりは吐きそうになりながらお互いを突き飛ばして、海に突進し、何度も口を洗い、塩水でうがいする。
「あーあ、やっちゃった」
これは支持者にどんな影響を与えたかな?と貴族のお嬢たちを見る。
すると、めっちゃときめいてる。
あ、この子たち、腐ってるぞ。
――†――†――†――
ふたりがショックで寝込んだので、おれは久々に手に入れた安らぎを目いっぱい堪能する。
チキンを食べ、ペリペリソース工場をこの島につくることについて考え、チキン・パーティが終わった白い砂浜で暮れゆく空がきれいだなあ、とのんびり寝転んでいると、マリスがまず左に寝転んだ。
「ふー、食べた食べた。他人が犠牲を払ったペリペリチキンってとてもおいしいんだね」
「他者の犠牲に愉悦を感じられるようになったら、あなたも立派なラケッティアです」
「ボクはアサシンのままで結構だ」
「えー、なんで?」
「そこまで働き者にはなれない」
「まあ、休みはないな。この職業」
マスターの右、とったあ、とツィーヌが寝転ぶ。
「酔ってる?」
「ちょっとだけよ。〈命の水〉の壜半分くらい」
「まごうことなき酔っ払いですな」
「だね」
「なによ、ふたりして、人のこと酔っ払い、って、あ、気分わる」
「おい、ここで吐くなよ」
すると、頬杖ついたジルヴァの顔がぬっとあらわれて、おれの顔を覗き込んだ。
そして、アレンカはおれの膝枕というか太腿枕をゲットする。
「あー、おれ、いまハーレムらしいことしてるな」
「このまま、こんなふうにずっと過ごすのも悪くないわね――あ、これはわたしのためで、マスターのためじゃないんだからね!」
「久々にきいたなあ。ツィーヌのツンデレ」
「ツィーヌもマスターに素直になったってことさ」
「そりゃあ、凄い」
「なによ、人のこと野生動物みたいに」
「じゃあ、ツンデレ枠はアレンカがいただくのです」
「わたしも、欲しい……」
「ボクも興味ある」
「なによ、みんなして。ツンデレ枠は渡さないんだからね」
「自分でツンデレ枠って言ってるあたりがかわいい」




