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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カナリア島 ラケッティアホリック編
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第十四話 ラケッティア、後ろのバック。

 風が、演説台を、馬車を、支持者を、この世界でタコ焼きにあたる軽食を、立候補者から全てを巻き上げた。


 やれ、と言ったのはおれだけど、実際に目で見ると、我ながら根性エグいなあと思う。


 しかし、憧れの選挙不正、やってみると、意外と暇だ。


 その昔、シカゴ・マフィアの大物サム・ジアンカーナはジョン・F・ケネディのためにアリゾナ州を買ってやったと豪語したらしいが、たぶんジアンカーナは細かい指示を出していないのではないだろうか?


 そもそもこの選挙のキモは十二歳以上の少女に投票権を与えることなのだ。


 四十代から五十代のおっさんを相手に戦うことはできない。

 もちろん一夫多妻制とか言えば、それなりに票が入るかもしれないが、どいつもこいつもハニートラップに引っかかりそうで、こんな票をあてにしてたら、選挙が荒れに荒れて、票が読めなくなる。


 しかも、今回初めての選挙制度。

 日本の政治家たちの必殺技『おれたち以外に投票してもよくならないよ』が使えない。

 なにせ初めての選挙だから立候補者はこれでもかと夢を語る。

 もともと夢見がちな観光地がこれ以上、どんな夢見られるのかとは思うが、ラムが高かったり、観光客目当ての辻馬車に対するピンハネがヤバいとか、まあ探せば問題は見つかる。


 でも、これは選挙というより労組の問題だよね?


 それでギルド干渉とかしたら、いつものラケッティアリングと変わらない。


 アル・カポネの兄貴のフランクは投票箱を分捕ろうとしたところで警官に撃ち殺された。


 シカゴの市会議員選挙ではアンソニー・ダンドレアが現職のジョー・パワーズとショットガンと爆弾で殺し合った。


 だが、そういう雰囲気にまで持ち込まれていないのが今回の選挙だ。

 なにせ初めてだから、連続二十回当選とかの怪しげなやつがいない。

 みんな生まれたてのキリンみたいに足がぷるぷる震えている。

 でんと構えるカバみたいなおっさんがいないのだ。


 とはいえ、選挙対策本部という名の倉庫でめちゃ痛いしっぺを打つ方法について、ツィーヌと論じあっていたところ、怪しげな男がやってきて、選挙から降りたら金貨十枚やる、と言ってきた。


「誰の命令でここに来たか知らないけどな、あんたドアを間違えてるぜ」


「いいか。おれの後ろにはでかいバックがついてるんだ」


「その後ろのバックが金貨十枚? そりゃ道に落ちてたら超ラッキーな額だけど、選挙から手を引けって言うんなら、そんなもん小銭だよ、小銭」


「痛い目見ないと分からないらしいな」


 男は指をパキポキ鳴らし始めた。


「マスター、こいつ殺す?」


 ボコボコにされた男を足で踏んづけながらツィーヌがきく。


「何の罪状で? 馬鹿は罪ではないぞ」


「じゃあ、わたしが個人的に殺したいって言ったら?」


「死体が出る」


「海に捨てる」


「海洋汚染は気がすすまないなあ。島のまわりのかわいいマナティに馬鹿が感染したら困る」


 おれは男の鼻血まみれの顔に慈悲みたいなものを垂れた。


「おれとしては島で一番タフな雄の山羊を見つけて、あんたをレイプさせてもいいんだけど、後ろのバックが誰なのか教えてくれたら、レイプは勘弁してやる」


「か、かかか」


「か?」


「かん――」


 すると、窓からクロスボウの矢が飛んできて、男の顔にずぶりと刺さった。


 ツィーヌが毒薬の入った壜を投げつけると、悲鳴がきこえた。

 そして、お肉を金網に押しつけるような音がじゅうじゅうきこえたので、窓の外を見ると、顔面がボロボロに陥没した口封じ役の暗殺者が転がっている。


「参ったな。一体でも面倒な死体が二体に増えた」


「自白剤入りの壜を投げてやればよかった」


「でもさ。あれ、以前使ったとき、連続二十時間懺悔が止まらなかったじゃん。しかも、やってないことまで懺悔されてさ」


「かん、で始まる商売敵ってさ、あいつらじゃないの? カンパニー」


「きあーんぱにい? あいつら、最近、大人しいと思ってたけど、こんなところで悪さしてたのか」


「アルビロアラの沼でごたごた起こしたときだって海軍基地をつくるためだったでしょ?」


「観光地に海軍か。一か八かの大博奕だな。水兵がカネを落とすか、強姦事件が増加するか。まあ、それはさておき、ちょっとうちのファミリーの拷問体系を考えたほうがよさそうだ」


「自白剤のもっと強烈なのつくる?」


「フレイに頼んで、ホッチキスをつくる」


「ホッチキス?」


「針で紙をとめる便利な道具なんだけど、これを顔にバチバチ打つと、そりゃあもうペラペラしゃべってくれる」


 天窓が開き、黒い影がさっと梁にかかると、おれの目の前に音もなく舞い降りる。


「おっ、ジルヴァ。おかえり。投票用紙どこで刷るか?」


「手書き」


「手書きかあ。じゃあ、こっちも手書きするか。いや、たぶんどの陣営も手書きするな。敵と同じことやってるだけじゃ、敵は出し抜けない。何か特別な一手が必要だ」


「……したよ。特別な一手」


「おおっ。さすがジルヴァさん。クルス・ファミリーの隠密番長。で、何してくれたの?」


「カンパニーを始末した」


「そりゃあ凄い。実に凄い。後ろのバックが死んじまったわけだから、やつらは泡食ってるな。これから荒れるぞ、この選挙」


「ペリペリチキンをつくるよりマシ」


「それだ。ペリペリチキンをつくろう。こらこらこら、逃げ出そうとするんじゃない。ソースつくりは下請けに出す。浜辺でチキンと〈命の水ウイスキー〉を用意して、一大買収パーティーを開くんだ。考えだだけでワクワクしてきただろう?」

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