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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カナリア島 ラケッティアホリック編
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第九話 ラケッティア、トロピカル政治学。

 ラケッティア解禁ですが、条件がひとつ。

 援軍は呼ばない。

 わたしたちこの四人で何とかしなさい!とのこと。


 エルネストが投票用紙偽造したり、ジンパチを何度も変装させて投票させたり、ウェティアとフェリスを相手の事務所に送り込んだりはできない。


 まあ、この四人で大概のことはできそうだが、問題は――。


「おれのほうが先に考えた!」

「いや、わたしのほうが先だ!」


 このふたり、何を先に考えていたかというと「ミツル。思いのままに動け。その悪に惚れたのだから」というセリフだそうだ。


 ガールズはもちろんこれからのラケッティアリングからふたりを除外したがったが、


「いや、絡ませることにする」


「絡ませるって性的な意味で?」


「絶対に違う。そうじゃなくて、今度の選挙に絡ませる」


「でも、マスター、嫌なんじゃないのですか?」


「嫌だし、怖いよ。でも、放置してたら、どんな動きをするか分からない。もっと怖い。手元に置いたほうが安全。それに立候補者は欲しい」


 フレデリーチョを支援するんじゃないのかときかれたが、そのつもりはない。

 あれにはセディーリャのような面白さがない。面白くもない神輿担いでもしょうがない。


「それで神輿はヨシュアとリサークにする」


「え? ボクは選挙詳しくないからよく分からないんだけど、こういうのってふたり出したら、票が割れないの?」


「いや、ヒートアップして刺し違えてくれないかな、と」


     ――†――†――†――


 サン・アセンシオ布教団の白亜の建物の前で民衆がデモってる。


「専制政治反対!」

「選挙をしろ!」


 そのくせ総督邸の前はガラガラである。


 民衆はその熱意を向ける先を分かっていないようだ。


 布教団の尖塔から火縄銃の空撃ちがされると、デモ隊はアッと叫んで、弾を避けようとバラバラに散った。


 選挙は三バンといって、ジバン、カンバン、カバンが大事。

 ジバンは地盤で、騙されても騙されても生まれた土地が同じだからとか公共工事をふってくれるからと票を入れてしまう地元の人たち。

 カンバンは看板。まあ、見た目です。知名度。ヨシュアとリサークは外見はロン毛のイケメンだからこれは問題ないだろう。

 カバンは鞄。中身はお金。これは潤沢にある。


 つまり、いまのおれたちに必要なのは地盤なのだけど、いかんせんこっちは旅行客。

 選帝侯制度を叫ぶ声が日増しに大きくなって、こっちに鞍替えする貴族や高級官僚も出始めている。


 選挙が行われるかどうかは五分五分だ。


 ああ、それと有権者がどんなことを望んでいるかはこの際、関係ない。


 コーヒーを高く売りたい農園主には補助金を出す、最低価格を設定すると約束し、コーヒーを安く仕入れたい輸出会社にも補助金を出す、コーヒーの最高価格を設定すると約束する。


 で、補助金を出してコーヒー税で取り戻し、最低価格と最高価格は設定するが農園主にも商会にも得にならない値段にする。

 嘘はついていない。補助金は出したし、最低価格と最高価格は設定した。


 後はこのハレンチで恥知らずなことを平然とやってのけられるかどうか、面の皮の厚さの問題だ。


 今のところ選帝侯制度は実施されるか分からないが、雨後の筍のごとく遊び半分に立候補したやつらが床屋や雑穀屋の前で、自分が当選したら金貨一枚を全島民にあげる、と公約している。日本円にして三万円だ。


 そばには対立候補がいて、その三万円はどうやって確保するつもりだ!と舌鋒鋭くたずねるが、三万円野郎は反対派の財産を没収して、それを充てると恐ろしいことを言っている。そして、間違いなくその反対派リストには対立候補の名前が記載されている。


 選挙ブームだ。

 人頭税払うくらいしか意味のなかった庶民たちに選挙権なる価値が付与され、名もなき庶民から有権者にランクアップ。

 ジョブ:有権者 アビリティ:投票、とでもゲームなら表示されるところだ。


 この調子でいけば、島には選挙をめぐるファンタジーがあふれるだろう。

 票を取りまとめる魚とか投票箱を飲み込んだペリカンとか有権者を裏切らない政治家とか。


「しかし――」


 と、南国風の正装をしたヨシュアとリサークを見ながら、考える。


「ちみたち、どんなことを約束できる?」


「幸せにする、ミツル」


「忘れられない一生をあなたに。来栖くん」


「おれじゃなくて有権者にだよ」


「そんなものは知らない」


「海にでも沈めばいいんです」


「このシュガー・アンド・ソルトの対応差」


「もし、当選したほうに唇を許すなら本気でやる」


「アレンカ! ちょっと選帝侯選挙に立候補してくんない?」


「冗談だ」


「目が笑ってないぞ、ヨシュア」


「きみは心がこもっていない」


「お前だって目が死んでいる」


「いえ、きみのほうが死んでいる」


「お前だ」


「きみだ」


「どうやらおれたちは同じ天のもとに生きられない定めらしいな」


「それについては同感だ」


「剣を抜け。今日こそ、その首をとる」


「お前ら、剣をしまえ。選挙にまつわる暴力はおれの担当。とりあえず、まずは草の根民主主義レベルでの知名度アップを目指すぞ」


 バナナ積み出し専用の波止場から果物箱をふたつ引っぱってきて、それにヨシュアとリサークを乗せる。


「こんなところにたたされて何を言えというのだ?」


「そら、公約だ。有権者に何でもかんでも約束しろ。どうせ最後は破るんだから」

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