第二話 ラケッティア、来たるべき水着回のために。
椰子がへたれる熱波のなか、リズミカルな太鼓と足踏みダンスがきこえる。
リズムはどこかの家のなかから、道から外れた灌木林のなかから、遠くのマングローブのなかからきこえてくる。
これはまあ、人文学的問題というか、まあ、普通のところなら冬に備えて、食料を蓄えるとか薪を集めるとかしなくちゃいけないところ、カナリア島ではそんな冬の準備をする必要がなく、じゃあ、その余った時間をどうするかってことになり、島民が選んだのが太鼓とリズムなわけだ。
だから、どこにいても太鼓がきこえてくる。
このリズムの島で唯一、小さいながらも町と呼べるほどの規模のある町ルパルパ。
その目抜き通りには海辺から総督府まで続く椰子の並木があって、道沿いには青い花をつける灌木や背の低いサボテンが生垣になっている教会や人間の創意工夫がこれでもかとお見舞いされた椰子の実細工のおみやげ屋、カラフルな熱帯魚をお腹を壊さずに食べる術を心得た人たちが住む下町、芸を仕込んだ猿がココナッツ・ジュース屋の前で宙返りをしている庭園、虹色の漆喰が塗られた公営賭博場などなど。
だが、何よりも宿屋が多い。
観光地が宿屋ないって、どんなツンデレだよ。
「さあ、うちの宿に泊まってくれ。カナリア一の宿だよ!」
「新鮮な魚料理はうちが一番だ!」
「国王陛下もお泊りになった宿屋だよぉ!」
客引きはいろいろある。
「ねー、マスター。どこに泊まろう? ボク、いろいろ目移りしちゃって決められないよ」
「アレンカはダイキリがおいしいお宿がいいのです」
「それ、お酒」
「むー、アレンカは大人のレディなのです」
「そんなこと言って、ジャックから出された一番軽いカクテルひと口飲んだだけで、ゆでだこみたいに真っ赤になってたのは誰だっけ?」
こういうとき、女の子に「きみが好きに決めていいよ」というのは七十点。
百点満点のこたえは「じゃあ、おれが決めるね」と言いつつ、女の子が望んだもの全てをかなえたチョイスをすること。
まあ、見てなさい。
――†――†――†――
ぱあっ。
そんな感じの光を伴う効果音がガールズから鳴ってます。
コテージの床はみんなガラスでできていて、真下は海と珊瑚。
魚は毎日餌付けしてるから、黄色と白と黒の縞模様の魚、細いガラス管みたいな魚、興奮するとまだら模様を光らせるフグ、それに――。
「わぁっ!」
「マスター、見て見て! イルカだよ、イルカ!」
世界じゅうの動物愛護団体に愛された勝ち組海棲生物のイルカさんも寄ってくる。
「……」
無言のジルヴァは水面から鼻を出すイルカとそろそろと手でスキンシップ。
「っ!」
――からの、イルカからの鼻ちょん(鼻をちょんと触らせることね)。
「マスター、凄い!」
「よくこんないい宿がとれたね。見直したよ、マスター!」
「はっはっは。もっと誉めて。誉めて伸びる子だから、おれ」
この素晴らしい、モルディブとかにあるような水上宿泊施設を前にガールズのおれに対する評価は爆上がりですよ。
……まあ、出資はおれなんですけどね。
いや、何がって、水上コテージです。
カナリア島は国王の直轄地だから、なかなかギャング・マフィアが手を出せないのだけど、そのくせ賄賂に弱い。
だから、フロント企業を用意して投資すれば、業種限定ですが、どうってことはないのですよ。
へえ、じゃあ、来栖ミツルはこの水上コテージをどんなふうにラケッティアリングに結びつけるんだ? って、よい子のパンダのみんなは思うだろう。
ふふん。
これ! 全然ラケッティアリングとは関係ありません!
来たるべき水着回のためだけに建てました!
いや、地元のデベロッパーにすげえキックバックを提示したのは事実ですけど、新規の建築業者が入りにくいからそうしただけであって、この水上コテージから不法所得を得ようとしてません。
みんな、やれ来栖ミツルは女に興味がないんじゃないかとか、美少女と不法所得なら不法所得をとるんじゃないかとか、ほんとはヨシュアやリサークとデキてるんじゃないかとか言うけど、おれもやるときはやるんですよ。
さあ、やってまいりました。次回はいよいよ水着回!
あまりにも遅すぎるけど、まあ、乞うご期待!




