第三十話 ラケッティア、ここは格言で締めよう。
突撃魳へのリベンジは総力を結集したが、総力といっても、釣師ロムノス、その助勤で最近名前を思い出したエレン、その弟で助勤の助勤のエミールの三人。
豚の腿を丸ごと鉤にかけて、エレンの鋼線の鞭をハリスにして、水没する遺跡のそばに投げる。
突撃魳自体は貪欲で鉤にかけるのは簡単だが、その後の戦いが問題だった。
あれから釣師としての経験を積み、こちらの頭数も増えた。
今度こそいけると思ったが、三人が乗ったボートは湖をさんざん引っぱりまわされて、葦の生えた岸辺に放り出された。
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戦場メシ屋の最近の人気作は『作りたかったシリーズ』。
もし、戦場で材料が工面ができたら、作りたかったシチューやフライ、ローストポークやベイクド・ピーチ、糖蜜で焼いたカボチャをシリーズの軸に据えて。
ゼルグレの表情は相変わらず、ブスっとしているが、どこか楽しそうだ。
呪いが解けたせいか、メシ屋が楽しくなったのか。
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カネに物をいわせた突貫工事で〈ちびのニコラス〉は復活した。
建材や家具は味のあるもの、輝きに深みのあるものとアンティークに。
〈モビィ・ディック〉はより大人の隠れ家的になり、食堂はアットホームな感じに。
ディアボロスに請求書を叩きつけたかったが、やつらは大人しく撤退したから、追い打ちは勘弁してやる。そういう約束だったし。
とはいえ、ディアボロスが撤退を決めた本当の理由は――
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輪投げ屋さんは今日もぐーぐー寝ている。
だが、以前のように商品を盗むやつはいなくなった。
クルス・ファミリーは関係ない。
輪投げ屋さんはこのカラヴァルヴァで顔役になったのだ。
正確にはサンタ・カタリナ連合会の会長にして、〈剣神〉と呼ばれ〈剣鬼〉と呼ばれた男。
世界一「?」が似合う男。
とはいうが、積極的に働くタイプではない。
まあ、連れてきた事務総長がしっかり者だから、大丈夫だろう。
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〈ラ・シウダデーリャ〉に帰ってくると、もふもふがいた。
「どうしたの?」
「ロムノスのお供でち」
「でも、肝心のロムノスがいないようだけど」
「釣師ギルドに行ったでち。僕はここに残って、報告に来たでち」
もふもふ曰く、エレンだけでなく、エミールもそれなりに暗殺術を叩き込まれていて、警備に使えそうだということだ。以前からロムノス以外の警備を増やさないといけないと思っていたから、これはちょうどいい。
「じゃあ、僕も釣師ギルドに行くでち。王さま、また来るでち」
「うん。分かったでち」
もふもふがぷにぷにと肉球の音を鳴らして出ていくと、見慣れない本が置いてあるのに気がついた。忘れものらしい。
『狂気の釣師の備忘録』
ロムノスを釣りキチにしたといわれる伝説の書物だ。
ぺらぺらとめくってみると、ひとつの文が目に入ってきた。
『釣果よければ全てよし』
〈ハンギング・ガーデン〉 ロムノス釣り紀行編【了】




