第三話 ラケッティア、紅茶茶漬け。
ディアボロス。
それがやつらの名前だ。
最近、東セヴェリノでかなりの勢力を広げているらしい。
手口は敵対組織のナンバー・ツーを手懐けて、ボスを裏切らせ、自分たちの傘下に収める。
その際は暗殺部隊の貸し出しなんかもしているらしい。
その結果、出来上がったのは国連みたいな代物らしいのだが、暗殺部隊の貸し出しがなければ、開催できない国連なんていらんだろ、フツー。
それなら誰か一人がジュリアス・シーザーになって引っぱったほうがずっといい。
カラヴァルヴァは評議会を開いているが、おれはガールズを貸し出したりしない。
一見、ディアボロスのシステムはラッキー・ルチアーノの合理性とマーダー・インクっぽく見えるが、結局、一番上にディアボロスがいる。
それで各組織が集まって国連の真似事で多数決って無理があるだろ。
とはいえ、急激な拡大期の現在からそれを恒久的なものにシフトチェンジできたら、ワンチャンありだ。
そうなると、ますます何考えてるか分からないな。
今は足場を固めるときだろうに、あの女の子をうちに送り込むのはなんでだろ?
うちらと喧嘩するのは恒久的なものにシフトチェンジに反している。
ん? 喧嘩するとは限らないだろ、ほんとにただ逃げてきただけかもしれないだろって?
よい子のパンダのみんなからそんなお言葉があるかもしれないが、カラヴァルヴァで喧嘩をしたがってるは確定事項だ。
接触があったんだ。
ディアボロスの幹部と。
叔父さんを裏切って、ボスになりませんかって。
笑っちゃうよねー。
まあ、ドン・ヴィンチェンゾを裏切ろうとする来栖ミツルを演じたのはこれが初めてじゃない。
ディルランドの監獄で一発ぶちかましたことがある。
そのことを知らんのか、知っていて自分たちならうまくやれると思っているのか。
どっちにしろ、こっちはおもろい。
セヴェリノ人はロンドネ人を田舎者と見ている節があるし、カラヴァルヴァなんて野蛮人のたまり場と思ってるはずだ。
そして、ファミリーの名前がディアボロス。
なんか中二っぽいな。
絶対自分らのこと、組とかファミリーとか言わないで、『組織』って呼ぶんだぜ。まあ、なんでもいいけど。
さて、と、かまどの前でかがむ。
この世界、ガスがない。IHクッキングヒーターがない。
火をおこすのは少々面倒だ。
炎の魔法はあるが、魔法使いというのはそうたくさんいるものではないし、生まれついての特性がある。特性のないやつは指先に小さな灯ひとつ出せない。そして、おれは特性がない。
じゃあ、どうやってつけるかというと、まず熾火を使う。
つまり、かまどや暖炉の火を完全に消さず、ゆっくりじわじわ静かに燃えるようにして、翌朝、そのひと晩じわじわ燃えてた熾きを使って、火をつける。
これが一番簡単。
朝、ケツ掻きながら台所に行ってコーヒーを淹れようとしたら、熾きが消えてたってことほど、人間をげんなりさせることはない。
朝一から火をおこすのかよぉ、ってへこむ。面倒なのだ。
で、熾きが消えていた場合は一からつけないといけないが、棒をぐるぐるまわして原始時代みたいに火をつける、というのはやらない。
火打石を使う。
木っ端や枯れ葉、紙屑の上に薪を組み、火打石を打ちまくる。
ただ、これも少々時間がかかる。
そこで、あるのが『付け木』だ。
鉋で薄く剥いだ木の皮に硫黄をべったり塗ってあるものが売っていて、これを使うと火打石でも簡単に火がつけられる。
本当にすごい。よく燃える。長く燃える。ベタベタと燃える。
つーか、これ、ナパームじゃね?って感じで燃える。
どう考えても、ただの硫黄じゃない。
ただ、これは一部の魔法使いギルドでの独占体制があって、この硫黄であって硫黄でないものの製法は秘密のままだ。
たぶんナフサと松脂が入ってると思う。ギリシャ火みたいに。
さて、こっちの世界で、それも料理をしょっちゅうするわけだから、おれも火をつけるのは慣れたもので、付け木がなくても、二、三枚枯れ葉があれば火を起こせるようになった。
馬車を御すこと、火打石で火をつけること、ボットン便所にクソ垂れること。
異世界転生でできるようになったこと御三家だ。
火を起こして、フライパンを温めていると、〈モビィ・ディック〉のカウンターのほうからツィーヌとトキマルの話し声がきこえた。
「今日の朝ごはんはなにかな~」
「お米、アジの干物、味噌汁で手を打つよ。頭領」
「おれはお母さんか?」
「いいじゃない。マスター。ふわふわたまごパン作って」
「頭領。味噌汁になめこ入れて」
マスターという言葉は舎弟という言葉にルビふられて舎弟となる。
オカーチャンに感謝。
朝一で和食と洋食で朝飯作らされるのは書類送検食らうみたいに厄介だ。
さて、釜で白米炊いて、ミルクにパンをひたし、トビウオでダシをとり、と頑張って、ご飯をつくる。
まあ、途中でやつらも手伝ってくれたことは一応言及しておく。
こうして〈ちびのニコラス〉では和食と洋食が同時に並ぶことが可能となった。
道をまたいだ回廊の食堂でいただきますをして、クリストフがアレンカの玉子焼きをかすめ取ろうとして、その正当性として、昨日の晩に獲られたメンチカツ・ボールの仇を主張し、カールのとっつぁんは和食が年寄りに優しいとスプーンで味噌汁を飲み、ジンパチは紅茶で茶漬けをつくることの大罪を説き、シャンガレオンはクリストフとアレンカが争っているあいだに玉子焼きを盗み、ディアナとエルネストは紅茶の茶漬けをサラサラかきこみ、騙されたと思って食べてみろと言われたので茶漬けの偽造品を食べるつもりで食べてみたら、すごくうまくてびっくらこいた。ただ、フレイがやったコーヒー茶漬けはまずかった。
つまり、いつものクルス・ファミリーの朝食だ。
「ガールズ四名、今日は護衛につくこと」
いえーい、とハイタッチをするガールズたち。
「今日はセヴェリノでブイブイ言わせてる犯罪組織と会う。女幹部ってやつだ。だから、うちのファミリーも女性の活躍するアットホームな職場だって教えてやる」




