第二十五話 終結、十月一日。
ロデリク・デ・レオン街から路地一本隔てた通りにならぶ料理屋のうち、〈ブリガンド〉は香辛料をきかせた鶏の山賊焼きがうまいことで評判であったが、この店の香辛料は実際に山賊が隊商を襲って強奪したものを故買屋から買ったという本格派でドン・ガエタノ・ケレルマンもアルバレスの山々が恋しくなると、この店で食事をした。
パスクアル・ミラベッラがやってきたのは昼の三時ごろですでに店にはポルフィリオ・ケレルマンがいて、貸し切りにした店内はがらんとしていた。
「先に始めてるぜ」
「若、ヤクきめてるんですか?」
「きめずにいられるか。ガスパルが大手柄だぜ」
「というと?」
ミラベッラが腰かけながらたずねる。
「ガスパルの売春宿の淫売のひとりがディ・シラクーザの店でも働いてて、そいつが言うには明日の昼過ぎ、〈金塊亭〉に幹部を全員集めるそうだ。だから、そこを包囲して皆殺しにしてやる」
「ガスパルをまだ使うんですか?」
「仕方がない。ナルバエスが吹っ飛ばされちまったからな。フランキスタのクズども、ディエゴの女房子どもまで吹き飛ばしたんだぜ。つまり、ディ・シラクーザもこの戦争でひと皮むけたってことだな。おれに感謝してほしいくらいだぜ。あんたもこれ、食えよ。ここのズッキーニは絶品だぜ」
ミラベッラは椅子に腰かけると、懐から取り出した細い木の枝を取り出すと、燭台に近づけて火をつけ、加えていた粘土製のパイプに突っ込んで煙草に火を移した。
「冴えない顔してるな」
「幹部がだいぶ減った」
「頭数ではこっちが勝ってる」
「それでも大勢死にましたよ。一緒に山で働いたもんが大勢」
「それもこれも、ディ・シラクーザがいけねえのよ。あのデブ、欲の皮つっぱらせやがって。口を開けば、カネカネってほざきやがる。そんなに欲しいならやつの口に好きなだけつっこんでやる。明日が待ち遠しいな」
「ここの警備は?」
扉と廊下に五人配置された男たちのことをたずねる。
この店には個室がないし、窓もない。外に開いた扉からすぐに廊下があり、その廊下の右側に店への出入り口がある。店内はその廊下と厨房に出る出入口しかなく、扉ではなく油で汚れたボロボロの布が垂らしてあった。
「スカッコが選んだ。みんなよく知ってる連中だ。とにかくだ、パスクアル。明日の襲撃に使うやつを厳選したい。〈金塊亭〉を二重に包囲して、討ち漏らしがないようにしないとな。全員の耳をそぎ落として、オヤジに差し入れる。きっとオヤジも泣いてよろこぶぜ」
鶏の山賊焼きをのせた皿がやってくると、ポルフィリオはその手羽を引きちぎり、骨まで砕く勢いで嚙みついた。
ミラベッラも好物を前に浮かない顔をしていたが、やがて人を刺すのに使ったことがあるナイフで肉を切り始めた。
切った肉をナイフで刺して食べながら、突然、ポルフィリオはスカッコの名前を呼んだ。
一緒にここにきて鶏を食え、と言ったのだが、返答がない。
「おい、スカッコ。きこえねえのか」
出入口の布が引きちぎられ、すぐに銃声がした。
ミラベッラがこめかみから脳漿をまき散らし、二発目、三発目が命のない胴を破って、吐いた血が皿の上に落ちる。
「ポルフィリオ、往生しろやああ!」
ひとり目が振り下ろした山刀をナイフで受けたが、突進してくるふたり目のナイフを素手で防ぐと人差し指と親指が落ちるくらいの深い傷が手を半分に割り、すぐに三人目、四人目のナイフがポルフィリオの胴にうずまった。
すぐにひとりの耳に噛みついてそのまま食いちぎると、殺し屋は悲鳴を上げる前に喉を搔き切る。
残った殺し屋たちが慌てて下がるが、運の悪い一人の胸をナイフが突き通った。さらに残った指を眼窩に突っ込み、ねばついたものが流れ出すまでえぐりまわす。
相手が倒れると、ナイフはポルフィリオの手から離れた。
「クズどもが。たった四人でこのおれを殺れると思ってんのか!」
すぐに八人の山刀を持った男たちが部屋になだれ込み、ポルフィリオを囲むと、その顔、首、肩、胸、腹、腕に山刀を振り下ろした。
だが、ポルフィリオは倒れない。
「どうした! こんなもん、屁でもねえぞ、クソッタレが!」
相当な量の〈石鹸〉をやっていたのだ。ズタズタになり、剥がれかけた肉の塊をぶらつかせながら、激しく怒鳴るポルフィリオに気圧され、殺し屋たちは銃を持ってこさせる。
七十七口径の騎兵用ピストルが次々と発射され、ポルフィリオから肉と骨を引きちぎり、内臓を破裂させるのに、ポルフィリオは倒れなかった。
「ほら、もっとこいよ! このカマ野郎ども! てめえらの弾で死ぬほど、こっちはやわなつくりはしてねえんだ!」
銃声が続き、弾が体を貫く――。
「足りねえよ、クソどもが! もっと撃ってこいよ! おれを誰だと思ってる? おれはポルフィリオ・ケレルマンだぞ!」
銃声、砕ける、体がよれる、持ち直す、裂ける――。
「アルバレスの恐怖! モンテラ谷の獅子!」
殺し屋たちが銃撃をやめる。厨房から人影――。
「そして、ケレルマン商会の統領! 全ての山賊の王! それがこのポルフィ――」
ポルフィリオの後ろからバティスタ・ランフランコが頭を吹き飛ばした。
ポルフィリオ・ケレルマン派(ポルフィリスタ)
†ポルフィリオ・ケレルマン 10/1 殺害 【New!!】
†ミゲル・ディ・ニコロ 9/9 殺害
†パスクアル・ミラベッラ 10/1 殺害 【New!!】
†ディエゴ・ナルバエス 9/25 殺害
ガスパル・トリンチアーニ 9/26 離反
†ルドルフ・エスポジト 9/8 殺害
†アニエロ・スカッコ 9/12 殺害
ピノ・スカッコ
フランシスコ・ディ・シラクーザ派(フランキスタ)
フランシスコ・ディ・シラクーザ
バジーリオ・コルベック
バティスタ・ランフランコ
†サルヴァトーレ・カステロ 9/7 殺害
†アーヴィング・サロス 9/13 殺害
アウレリアノ・カラ=ラルガ 9/25 逮捕
ロベルト・ポラッチャ 9/25 逮捕
〈鍵〉の盗賊ギルド
〈砂男〉カルロス・ザルコーネ
†〈キツネ〉ナサーリオ・ザッロ 9/3 殺害




