第二十三話 マフィア、九月二十五日。
ロベルト・ポラッチャはフランキスタのなかで、いや、カラヴァルヴァで最も成功した殺し屋だった。
彼が古書店を営んでいると妻子は思っていて、人殺しで暮らしているとは夢にも思わない。
カラヴァルヴァ、いや、世界じゅうの殺し屋にはポラッチャのような立場になれればと思うものが多い。
契約殺人と家庭を両立させるのは非常に困難であり、アサシン娘やクレオのように吹っ切れるか、家庭をあきらめるかしか選択肢がない。
ちなみに契約殺人をあきらめるという選択肢はない。
結局のところ、殺し屋というのは殺し以外は何もできない。
ポラッチャがその日も家族に接吻し、家庭からはるか遠くにいる相棒のアウレリアノ・カラ=ラルガとふたり、バジーリオ・コルベックではなく、フランシスコ・ディ・シラクーザ本人に呼ばれ、小さな荷物を渡された。
「そいつは輝素に反応する。輝素を焚いているもののそばに近づくなよ」
ディ・シラクーザはそう言いながら、ビネガーとチリ・オイルで味付けロブスターを切って口に運んだ。
「そいつをディエゴ・ナルバエスご自慢の馬なし馬車に仕掛けるんだ。ただ、箱の下にくっつければいい。そいつをこさえたやつは、まあ、ある種の天才であり変態でな。爆弾に名前をつけている。そいつの名前はカルメンだ」
「女なんですか?」
「そいつ曰くな。言っただろう? やつはある種の天才であり変態だ」
「やつの家族も一緒に乗るんじゃないですか?」
「かもしれんし、そうならないかもしれん。どのみち関係ない。大切なのは戦争に勝つことだ」
ポラッチャもカラ=ラルガもなぜこの場にバジーリオやランフランコがいないかを察した。
「いいか。この戦争が終わったら、大掃除をする。おれに歯向かうやつは全員潰して、ケレルマン商会を立て直す。このままだと、おれたちは最も収益の少ない弱小扱いされるのが目に見えている。だから、団結が必要だ。だが、その前に片づけないといけない戦争があり、片づけないといけないやつがいる。もちろん、おれもやつの女房子どもが巻き込まれなければいいと思っている。だが、忘れるな。おれたちはいま戦争をしてるんだ」
「分かりました。ドン・フランシスコ」
「よし、行ってこい。デザートまでにはやつが吹き飛ぶ音をききたいからな」
――†――†――†――
爆発はデザートには間に合わなかったが、コーヒーには間に合った。
火柱が真っ赤な車体と真鍮のように輝く輝素窯を空に噴き上げて、シデーリャス通りの邸宅の並ぶ街並みにディエゴ・ナルバエスとその妻、十歳の息子と八歳の息子のバラバラになった肉と骨が火の雨となって降り注いだ。
イヴェスとダミアン・ローデウェイクは目撃者の証言を集め(普段なら協力しない目撃者たちも家族まで巻き込まれたことに憤慨しているようだった)、カラ=ラルガとポラッチャを特定。
あまり褒められたやり方ではないが、身柄を押さえてから、物的証拠を集めることに決めた。
拘置の延長理由はいくらでもつけられる。
こうしてカラ=ラルガは市外に出る馬車乗り場で、ポラッチャは自宅で、家族とともにロブスター料理を囲んでいるところを逮捕された。
「いいかい、わたしについての根も葉もない噂がきっときみの耳にも届くだろう。でも、信じてくれ。それらはみんな嘘っぱちなんだ」
ポラッチャは自分の家庭を守るために言えることはそれくらいだろう。
しかし、ポラッチャもカラ=ラルガも逮捕されたのはある意味で幸運だった。
次の日の朝、ある種の天才であり変態でもある男が後ろ手に縛られてメッタ刺しにされた状態でエスプレ川に浮かんだからだ。
ポルフィリオ・ケレルマン派(ポルフィリスタ)
ポルフィリオ・ケレルマン
†ミゲル・ディ・ニコロ 9/9 殺害
パスクアル・ミラベッラ
†ディエゴ・ナルバエス 9/25 殺害 【New!!】
†ルドルフ・エスポジト 9/8 殺害
ガスパル・トリンチアーニ
†アニエロ・スカッコ 9/12 殺害
ピノ・スカッコ
フランシスコ・ディ・シラクーザ派(フランキスタ)
フランシスコ・ディ・シラクーザ
バジーリオ・コルベック
バティスタ・ランフランコ
†サルヴァトーレ・カステロ 9/7 殺害
†アーヴィング・サロス 9/13 殺害
アウレリアノ・カラ=ラルガ 9/25 逮捕 【New!!】
ロベルト・ポラッチャ 9/25 逮捕 【New!!】
〈鍵〉の盗賊ギルド
〈砂男〉カルロス・ザルコーネ
†〈キツネ〉ナサーリオ・ザッロ 9/3 殺害




