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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ ケッレルマンネーゼ戦争編
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第十一話 ラケッティア/司法、九月十日。

 クリストフが元気がない。

〈キツネ〉が殺され、〈砂男〉も姿をくらませた。


〈砂男〉の身を心配するが、生き残れる確率は限りなく低い。


 トキマルが元気がない。

 妹ちゃんがやってきて、ぐうたらできなくなったからだ。


 妹ちゃんはアズマ街に住むことになっているが、部屋ができるまで、うちに泊まる。


 イスラントは元気だ。

 カクテルの腕は上がっている。

 いずれジャックが一人前と認める日が来るだろう。


 そうしたら、ふん、お前におれを認めることがうんたらかんたらと言うだろうが、もし犬みたいな尻尾があれば、フルスピードで振られ続けることだろう。


 ただブラッディ・マリーをつくったとき、泡を吹いて倒れたので、まあ、課題はいくつもある。


 おれは――まあ、元気だ。


 ポルフィリオと抗争状態にあるので、ひとりで出かけることはなくなった。

 アサシン・ガールズが玄武、青龍、朱雀、白虎といった感じで東西南北を守り、おれはまるで平安京。


 オーブンで焼く肉を買いに行くのも四人に守られながら歩かないといけない。


 彼女たちはあっぱれ位置を保つことができる。

 たとえば〈ちびのニコラス〉の玄関から外に出る。


 で、おれは不意に忘れ物をしたことに気づいて、急になかに戻る動作をとるわけだが、ガールズたちはきちんとおれの動きに対応する。


 試しにジャンプしたら、一緒にジャンプしたし、しゃがんだらしゃがむ。

 でんぐり返しをしたら、でんぐり返しをする。


 だが、フライング土下座にはついてこなかった。

 まあ、仕方がない。誰もが躍動感あふれる謝罪行為をできる幸運に恵まれるわけではないのだ。


 ところで、現在四名でおれの護衛に当たっているのだが、昨日、うちの近所で発砲事件があった。

 それが抗争絡みなのか、酔っ払いが空に向けてぶっ放したのか知らんが、これによりおれの護衛の人数が爆発的に増加した。


 フレイは遊撃部隊としておれの左斜め後ろに、ヴォンモはガールズの内側でおれの上着の裾をぎゅっと握り、ジャックが前衛、すなわちそれはイスラントもついてくることをあらわす。やれやれ仕方ないな、やれやれ、と言いながら。


 そして見事完成したシップが出待ち幽霊とともにおれの右斜め後ろで睨みをきかせる。


 で、トキマルはおれについてくれば、ぐうたらできるかもしれないという邪な欲望を持っていて、クレオはなんか面白そうだからついてくる。


 ジンパチは自慢の変装術でおれそっくりに変身して影武者となるのだが、ヨシュアとリサークが自分の商売そっちのけで来栖ミツル護衛団に加わり、しかもジンパチを影武者と見破り、ミミちゃんと一緒に強引に護衛の輪へ入り、ヴォンモのように至近距離まで近づこうとするが、アサシン娘たちがスクラム組んでブロックするので、仕方なく遊撃隊に加わって、周囲をぐるぐる回っている。


 ウェティアとフェリスはついてきていない。

 おれとそれに護衛全員が声をそろえて、〈ちびのニコラス〉で戦略予備として待機していてくれと哀願した。

 ちなみに〈ちびのニコラス〉にはエルネストとカールのとっつぁんがいる。


 この戦争が犠牲なしで遂行できると誰が言った?


 さて、このゲルマン民族の大移動は見る人見る人に今回の抗争は洒落にならんところまで行ったのだという気を起こさせ、ますます住民の不安を煽る。


 しかもこの護衛たちは非常に機敏な反応をする。


 近所の悪ガキが大きな魚の浮袋を思いきり手で叩き、バン!と破裂させると、護衛たちはおれを銃弾からかばうべく、


「マスター!」

「オーナー!」

「ミツル!」


 ――と、飛びつき飛びつき飛びつきまくり、哀れ来栖ミツルは一個千五百円くらいする分厚いハンバーガーの一番下のパンみたいにぺちゃんこに潰される。


 安全が確保されたという確証を得るまで潰されたまんまである。

 明らかにこっちのほうが命の危険なのだが、護衛たちは見事仕事をやりとげたと鼻息フンス!とドヤ顔をするので、文句が言えない。


 かと思ったら、こんな朝っぱらからすっかり出来上がった酔っ払いが壜を片手におれたちの前にあらわれると壜による打撃からおれをかばうべく、またまたハンバーガーの刑が待っているわけだ。

 ただ、これはさっきよりほんの少しマシ。

 だって、ふたりは酔っ払いを取り押さえ、その凶器を手から取り上げるために働くから、少なくともふたり分は軽くなる。


 とはいえ、それは十八人の兵士で銃殺刑にするところを、ふたりだけ減らしてやるというものであり、待ち受ける結果は同じだ。


 いや、お前、かわいい女の子がお前の上にのしかかってくれるんだから、それはご褒美だろうが、とよい子のパンダのみんなは言うであろう。


 確かにその通りだ。ツィーヌはいい匂いするし、アレンカは柔らかいし、ジルヴァはあったかいし、といい思いもできる。


 ただ、人間、何かを選ぶときはその選択肢の最善要素を見て選ぶのではなく、最悪要素を見て、これが許容できるかを判断して選ぶべきだと思う。

 そうやって人類は奴隷制度を捨て、共産主義を捨て、ジャンクフードを捨てなかったのだ。


 で、この護衛ぺっちゃんこにおける最悪要素とはすなわち自分のすぐ上にのしかかるのが男になる場合である。

 ここまで言えば分かるだろう。ヨシュアかリサークが乗っかった場合、事はそのままレイプにまで行くかもしれない。


 実際、二回目のサンドイッチではリサークがあとふたりというところまで迫ってきたのだ。

 間違いない。やつらはこの地獄のハンバーガーゲームで着実に腕を上げている。

 このままではおれの真上にやつらがいてもおかしくない。


 あー、どうしようかな。


 と、思ったら、突然、護衛部隊が動きを止めた。


 止めたどころかこっちに向かって後退してきたので、おれも慌てて、それに合わせて動く。


 結局、〈ちびのニコラス〉まで戻ってきてしまった。


 護衛部隊はなんだなんだといい、遊撃部隊や前衛に何があったとたずねる。


 すると、前衛のジャックがこたえた。


「コルネリオ・イヴェスがいた。ハンマーをもったダミアン・ローデウェイクと一緒に」


     ――†――†――†――


 リーロ通りのそばの家禽市場にはイヴェス判事とギデオン、それに賄賂が通じない唯一の警吏であるダミアン・ローデウェイク、それに彼が信頼する八人の捕吏が集まっていた。


「どうしますか、先生。応援を待ちますか?」


「……もうすでにだいぶ時間を使っている。ここで動かないとポルフィリオを取り逃がすかもしれん。ダミアン。きみはどう思う?」


「賛成ですね。やつらもそろそろ隠れ家を変える時期だ」


「よし」


 イヴェスは制式ピストルに口火用火薬がきちんと装填されていることを確かめて言った。


「行こう」


 古い長屋のような店に皮を剥がれた赤と白の獣肉がぶら下がり、丸太のまな板であばら骨が叩き切られる音が絶えない道をイヴェスとダミアン・ローデウェイクが先導して歩く。


 牛筋肉を網籠に入れる女や子豚がキイキイ鳴いている袋を背負った老人、血まみれの前掛けをしたひげの男たちが持っている青い肉はパイに使う腎臓だ。


 家禽市場には肉屋に正五角形に囲まれた大きな中庭があり、そこには平屋建ての肉屋や料理屋、病気持ちの黒ずんだローリエが植えられた木立、鳥のための籠をつくる不機嫌な老人が住む家があり、迷路のようになっていたが、その中心にある小さな塔の三階にポルフィリオ・ケレルマンが潜伏しているという情報があった。


 ダミアン・ローデウェイクは裏手にまわると、三階にある窓ガラスの下に荷車にマットレスが重ねてあるのを見つけた。それを動かして、遠くに置くと、窓の下に捕吏をふたり残して、表に戻り、『本日閉店』のドアをハンマーで叩き破った。


 すぐに裏手の窓が開く音がして、窓の下にマットレスを積んだ荷車があると無邪気に信じていたチンピラたちが地面に落ちてもろにぶつかる音と悲鳴がした。


 一階の料理屋で男がひとり、走って逃げようとする背中をローデウェイクが蹴り飛ばし、ハンマーを部下に預けて、針槐の警棒を取り出す。

 階段を上がり、三階の廊下に着くとローデウェイクは肩から行き止まりの扉にぶつかり、錠前が弾け飛び、ポルフィリスタの秘密のアジトへなだれ込んだ。


「治安裁判所だ!」


 イヴェスが天井目がけて発砲すると、カードと酒壜の散らばる部屋は混乱の巷となり、チンピラたちは死に物狂いで抵抗した。

 だが、そのうち身長二メートル近い大男が振り下ろす針槐の警棒が最高権力を司る王冠となると、四人ほどのチンピラは壁に追い詰められて横一列に立たされた。

 このなかにポルフィリオ・ケレルマンはいない。


 捕吏たちが男たちの体を触り、二本のナイフを取り上げた。

 イヴェスは開けっ放しの窓から下を覗くと、三人ほどのチンピラが折れた足をかかえて呻いていた。

 そこにもポルフィリオ・ケレルマンはいなかった。


 出遅れたか。イヴェスは唇を噛んだ。


「判事。来てください」


 ふてくされた五人の男は上に何も着ていなかったり、眼帯をしていたり、腕にガレオン船の入れ墨をしていたりといかにも自分はワルだといっぱしのふくれ面をしていたが、幹部クラスはひとりもいない。


 早速、尋問が始まる。

 イヴェスは左端の上半身裸の男の前に立って、たずねた。


「ポルフィリオ・ケレルマン。やつはどこに行った?」


「るせえ。母ちゃんとやってろ」


 ローデウェイクの右の拳が相手のみぞおちに入り、男は床に倒れた。

 この清廉な警吏は巨大な手で巨大な顎ヒゲを撫でながら、諭すような調子で地面に倒れる男とまだいまのところは自分の足で立っている三人の男たちに言った。


「お前らがろくでもない少年時代を送って、おそらくは母親についていい思い出を持たないまま、クズみたいな人生を送ることになったのには同情する。だからといって判事殿の母親を侮辱することが許されるってわけじゃない。そこんところをよく考えて、判事殿の質問にこたえろ」


 次の男は眼帯をしていた。


「ポルフィリオ・ケレルマン。潜伏場所が他にもあるはずだ」


「知らねえよ」


 今度はこめかみに右フックが炸裂し、男はまっすぐ立ったまま、真横に飛んでイドの喫煙具を並べた棚にぶつかり、窓のすぐ下に倒れた。


「お前ら、おれの言ったこと、きいてなかったのか? よく考えろって言っただろうが。おれたちがここに来たのはキドニー・パイの材料を仕入れに来たとでも思ってるのか?」


 三人目の男が震えながら、たずねる。


「教えたら逮捕しないでくれるか? 殴らないでくれるか?」


 四人目の男が「馬鹿野郎! 何もしゃべんな!」と叫んだがローデウェイクが髪をつかんで頭を思いきり強く壁に叩きつけて、黙らせた。


「続けろ」


「ほ、本当にいるかどうかは知らないが、サンタ・カタリナ大通りの南の倉庫街に隠れ家がある。でも、きっと他にも隠れ家を持ってるから、そこにはいないかもしれない」


「住所は?」


「天使の絵が描かれた第三倉庫、ケンペル貿易商会が持ってる倉庫だ。そこのすぐ裏手の中庭につぶれた煉瓦造りの木賃宿があって、そこに隠れ家がある」


「他には?」


「え、獲物街の古い屋敷。三十番地の。でも、いないかもしれない。あちこち飛び回ってるんだ」


 二十四時間以内に街から消えろと言い渡して、三人目の男を解放すると、一階から外に出て、窓から飛び降りた連中がどんな様子か見に行った。


「てめえら、死んだぞ――ぎゃあ!」


 ダミアン・ローデウェイクは彼の尺度では優しく骨折箇所を踏んだ。


「人はいずれ死ぬ。だが、参考にきいておこう。なんで、お前はおれたちが死ぬだなんて妄言を吐いた?」


「パスクアル・ミラベッラだ! ミラベッラが山賊を連れてアルバレスからこっちに向かってる。だから、てめえも、てめえの家族も全員死んだも同然だ!」


 ローデウェイクが頭を蹴り飛ばして黙らせる。


 パスクアル・ミラベッラ。

 ポルフィリスタでポルフィリオがこっちに来てからアルバレスの山賊稼業を任されている古参幹部だ。


 ミラベッラが山賊と共にやってくるとすれば、その数は百人以上になるだろう。


 ミゲル・ディ・ニコロ亡き後、パスクアル・ミラベッラがポルフィリオの副官になれば、抗争はより激しいものになる。


「どうもうまくない」


「そうですか。まあ、おれは悪党をぶちのめして、手錠ワッパをかけるだけです。それが百人二百人の山賊だろうが。それより倉庫街と獲物街の隠れ家はどうしますか?」


「我々だけでは対応できない。フランキスタの隠れ家でもガサ入れをしたい場所がある。やるなら同じ日に一度にやらないといけない。聖院騎士団と〈聖アンジュリンの子ら〉と合同になるだろう。ただ、今すぐというわけではない。情報の精度を上げて、やつが間違いなくいるときを狙って、ガサを捜索する。信頼できる部下のうちから見張りを立ててくれ。今度こそポルフィリオ・ケレルマンを逮捕する」

ポルフィリオ・ケレルマン派(ポルフィリスタ)

ポルフィリオ・ケレルマン

†ミゲル・ディ・ニコロ 9/9 殺害

パスクアル・ミラベッラ

ディエゴ・ナルバエス

†ルドルフ・エスポジト 9/8 殺害

ガスパル・トリンチアーニ

アニエロ・スカッコ

ピノ・スカッコ



フランシスコ・ディ・シラクーザ派(フランキスタ)

フランシスコ・ディ・シラクーザ

バジーリオ・コルベック

バティスタ・ランフランコ

†サルヴァトーレ・カステロ 9/7 殺害

アーヴィング・サロス

アウレリアノ・カラ=ラルガ

ロベルト・ポラッチャ



〈鍵〉の盗賊ギルド

〈砂男〉カルロス・ザルコーネ

†〈キツネ〉ナサーリオ・ザッロ 9/3 殺害

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