第六十五話 ラケッティア、軍神の特技。
巫術士を見つけたころにはおれたちは抱えきれないほどの贈り物で潰れそうになっていた。
みな巫術士のことをきくとブチ切れたが、あんたの商売エロいね、と言ったら、ご機嫌になり、売り物をタダでくれた。
トカゲ人において、エロいことは最高に素晴らしいことを意味するのかもしれない。
あくまで可能性の問題だ。
「やあ。あんたのお店はエロいね」
「ここは店じゃなくて家よ。守護神を連れてきたみたいね。入って」
巫女、と言わず、巫術士と言ったあたり、男かと思っていたら、女でした。
トカゲの世界でも男女平等が流行っているのかもしれん。
しかし、この巫術士、祀るべき守護神のことは無視して、おれたちの抱える贈り物を片っ端から強奪し、調理し、盛りつけ、ガツガツ食べ始めた。
「神さまを祀るのをやめると同時に村八分にされて、ろくに食べ物も売ってもらえなかったの。あと、少しで生の魚を食べるとこだったわ」
イスラントが、ほら、って顔をする。
おれはそれをスルーして巫術士にトカゲたちの集団自殺を止める手助けを要請してみたが、
「あなた、話をきいてなかったの? 成長不良のネギ一本だって売ってもらえないわたしがどうやってあいつらの馬鹿な集団自殺を止められるのよ」
「ですよねー」
「そもそも、こっちとしてはあいつらがメガリスに最後の骨のひとかけらまで吹き飛ばされるのは大歓迎だし」
「ほんと、ですよねー」
「アレー」
テツザンが巫術士をきちんとした名前で呼び、甘ったるい声で何とかトカゲ人たちの自殺攻撃を思いとどまらせることのできる、権威あるトカゲはいないのかとたずねると、アレーはまんざらでもない顔で新たな軍神が最近、トカゲ人のあいだではばを利かせていると言った。
「なんか、派手な花柄の服を着た、怪しげな人間なんだけど。正直、わたしは信用できない。でも、会うだけ会ってみたらいいんじゃない?」
――†――†――†――
「迷える子トカゲよ。おれに何か用か?」
「あんた、〈掟の星〉で会ったよな? スーパーマーケットはどうした?」
「今のおれは軍神なんだ。戦士に加護を与えるアロハ神だ。そっちの氷っぽい兄ちゃんとは〈水の星〉で会ったな」
「え? そうなの?」
「……ああ。あのときはお嬢の太鼓持ちをしていた」
「あんまりそのこと吹聴しないでくれよ。神さまが、それも軍事を司る神さまが魚竜のヒモやってたなんてバレたら、殺されちまうよ」
「そうだな。あんたがいま乗ってる台座、アステカ文明っぽいもんな。ちなみにその文明じゃ太陽を昇らせるのにはひとり生贄にしないといけないっていうんで、いま座ってるような石の台座に生贄を寝かせて、心臓えぐり出して神さまに捧げないといけなかった。あんたの教義にこれ、つけ加えてみるか?」
「心臓なんてもらっても困る。それより酒を捧げるのはどうだ?」
失礼、とテツザンが割り込んできた。
「軍神閣下。わたしはテツザン。お会いできてうれしいです」
「やあ、ワニのおっさん。おれも嬉しいぜ。で、あんた何者?」
「星の守護神をしております。まだ守護神のはずです。信者はひとりもいませんが」
「おれのいた星の守護神は失恋王だったけど、あんたは失恋とは縁がなさそうだな」
「それはどうも」
まあ、ともあれアロハの男からはトカゲ人たちに総攻撃を中止させるという約束を取り付けた。
問題がひとつ片づいたが、最大の問題がまだ残っている。
あのでっかい爆撃機メガリスにどうやって斬り込むかだ。
あいつにはいつもしてやられてばかりで、こっちから仕掛けてやったことがない。
「また、カルリエドでパチンコしてやるか?」
「さすがに届かないんよ~」
「おれがいじってやろうか。あんたらの船」
アロハの男が言う。
「いじる、って。なんか免許とか持ってるの?」
「そんなもんはない。が、どうやっておれがあの〈掟の星〉からここまで旅してきたと思う?」
「自分で飛空挺をつくったってこと?」
「いや、密航に便乗した」
「おい、みんな行くぞ」
「待て待て待て。そんなふうに冷たくされると泣いちゃうぞ。確かにおれは機械をいじったことはない。でも、いま猛烈に機械をいじりたい気分なんだ」
「そんないいかげんな整備士にシップを触らせるわけにはいかないな――シップ?」
イスラントのショタ・バージョン姿のシップがもじもじしてる。
「ボクは、いいですよ」
「えー」
「自分でも分からないんですけど、なんかうまくやってくれそうな気がするんです」
きくと、音楽家の卵が自分を飛躍させてくれそうな教師に出会ったときのようなそんな気持ちがするのだそうだ。
つまり、考えるな、感じろってやつらしい。
「動力コアをちょっと触らせるくらいなら大丈夫ですよ。その方を連れてきてください」




