第六十四話 ラケッティア、巫術士はどこにいるか。
巫術士はどこにいるか?
洞穴につくられた肉屋でたずねたら、肉切包丁で頭を割られかけた。
いまや砂の星の守護神の権威は地に落ちたどころかマイナス方向へ伸びきっていて、守護神がペテン師ならば守護神との仲介を行った巫術士もペテン師だし、ペテン師の巫術士に会いたがるおれたちもペテン師ということで、殺しても構わないということが論理だてて考え出されたせいだ。
そこで肉と洞穴ってなんかエロい感じですね、と誉めたら、殺されるかなと思ったけどすごく機嫌が良くなって、砂漠イノシシの肋骨肉をもらえた。
ちなみにこの肉は紙で包むのだが、どう考えても、パルプ生産に向いた森林資源を欠くこの星でどうやって紙を作るのだろうと思っていたが、葦みたいな植物の茎でつくるらしい。
これで紙をつくれるし、湖に浮かべる船の帆もつくれる。
根性があれば船そのものもつくることができるとのこと。
そうだ。
ファンタジー異世界の肉屋について、ちょっと話しておくけど、たいていの肉屋は肉吊り用のフックを一本カウンターの上に吊るしていて、そこに安い紙の束を刺しておく。
で、客から注文で切った肉を包むのだ。
ビニールのないこの世界、肉をパックするのに紙を使う。
そのまま持ち帰るのはやばい。
街じゅう野良犬だらけだし、野良犬みたいなガキもいて、肉をそのまま持ち歩くのはちょっとしたチャレンジになる。
襲いかかるガキと犬を退けて持ち帰った肉でつくるシチューはさぞうまいだろうが、ガキと犬をなめてはいけない。
以前、肉を奪い取られないように紐で自分の腕に結びつけた男が上等のラム肉を腕の肉ごと食いちぎられたことがある。犬ではなくガキにだ。
そのくらい肉のビジュアルはガキどもの食欲に訴えるものがある。
だから、ごく普通の、商家の奥さんとか女中とかはきちんと肉を包ませる。
このひと手間だけで、下らんスポーツをせずに済むのだ。
なんで、こんな肉の話をしているのかというと、クルス・ファミリーはこの肉屋に卸す包み紙をつくる会社をつくっていて、宇宙に飛ぶ少し前のことだけど、まあ、ロンドネ国内百パーセントのシェアをゲットしたのだ。
もちろん暴力や肉屋ギルドを通じての圧力を加えるとかもしたが、ちゃんと紙自体の品質はいい。
ローストチキンを包むのに使うような青い油紙でCruzのCがスタンプされている。
ロンドネの肉屋には必ずフックからこの青い包み紙が吊るされているのだ。
元は以前から支配下に置いていた肉屋ギルドに、まあクルス・ファミリーへの協力に対する、ちょっとしたお礼としてポケットティッシュ感覚で配っていたのだが、質がいいということで評判になり、他都市のギルド非加盟の肉屋からも欲しいという注文があり、つくるようになった。
そんな製紙技術がどうしてクルス・ファミリーにあるのかというと、まあ、紙の質に関してはエルネストと印刷所軍団がいるものあるが、実は〈ハンギング・ガーデン〉の二十五階でポーカーでスって金貨八百枚の借金を背負った男がルルディガの製紙ギルドの幹部であり、紙の製造に関する秘密全部と引き換えに借金をチャラにしてやったことがあった。
そして、製紙技術がもふもふたちに伝わって、もふもふたちは自分たちで紙を作り始めた。
最初は六つくらいの色でつくってチップを百枚一組で包むための紙として使っていたのだが、そのうち作り過ぎたのか余り始めて「王さまにも使ってほしいでち」というところで青い紙がまわってきたわけだ。
そう。
ロンドネの肉屋シェア百パーセントを達成した青い包み紙が青いのはこのとき渡されたのが青い紙だったということだけのことなのだ。
赤い紙なら赤だったし、ピンクの紙を渡されればピンクになっていたし、ファンタスティック・グリーンだったらファンタスティック・グリーンだったわけだ。
それと、これを言うと自慢になるかもしれないが、シェア百パーセントというのは想像しているほど難しくない。
というのも、この世界ではギルド制度はガチガチに固まっていて、またギルドのなかでもパン屋と肉屋は都市住民の食料供給にも関わる最重要ギルドだから、全ての事業者はギルド加入を義務付けられていて、ギルドのトップを通して、国からの命令が降りたりする。
反乱が起きそうだから肉を値上げするなとか食料難だからパンと焼き菓子を同じ値段で販売しろとか、そんな命令だ。
それにギルドから一括徴収すればいいから税務署にも優しいシステムだ。
まあ、このあたりの政府と商業の関係はムッソリーニのファシズムに似ている。
事業者協会や労働組合のトップにファシスト党が命令を下して労働者を掌握する感じだ。
その支配ラインにクルス・ファミリーもちゃっかり乗っかって、包み紙を売りさばいたら、あら独占状態。
と、まあ話がずれたが、上等のあばら肉をもらえても肝心の巫術士の居所について教えてもらっていない。
また巫術士の話を持ち出すと、またおれのことを殺すと言ってくるかもしれない。
というわけで、隣の店へ入り、きいた。
巫術士はどこにいるか?
洞穴につくられた果物屋でたずねたら、果物ナイフで手首を落とされかけた。
そこで果物と洞穴ってなんかエロい感じですね、と誉めたら、殺されるかなと思ったけどすごく機嫌が良くなって、スイカ柄の大きなレモンをもらえた。
これを酒につけるとうまい果実酒になると言うのだが、その場合、スイカ味になるのかレモン味になるのか、あるいはスイカ味とレモン味を使用した新たなる味覚スイモン味になるのか。
ジャックにきいてみたが、あまり気乗りしない顔だ。
この顔は前に見た。
ノヴァ・オルディアーレスから釈放されて少し落ち着いたころにケレルマン商会が所有する醸造所に行ったときのことだ。
それはアルトイネコ通りの外れにあって、ケレルマン商会のアンダーボスである〈闘牛士〉フランシスコ・ディ・シラクーザの持ち物だった。
ディ・シラクーザが〈闘牛士〉のあだ名で知られるのは司法機関の追及をかわすのが闘牛士みたいにうまいことからついた。
どんな感じの人物かと言うと、二十世紀初頭のイーストハーレムを支配したナポリ系ギャングのジョズエ・ガルッチにそっくりだと言えば、よい子のパンダのみんなは理解してくれることだろう。
分からないよい子のパンダのみんなはGiosue Gallucciでググってみてね。
1900年代のギャングには珍しく写真が残ってるから。
さて、ケレルマン商会というとパブロとカルロスのケレルマン兄弟がまわしていたころは切れ者たちのホワイトカラー犯罪組織だったが、グリードをめぐる骸騎士団との抗争で兄弟が死亡するとアルバレス山脈の山賊王で兄弟の叔父にあたるガエタノ・ケレルマンが商会を乗っ取り、自分の山賊たちと大挙して押し寄せ、兄弟時代の幹部たちを片っ端から殺すか追放するかして、カラヴァルヴァ最悪の武闘派組織へと脱皮をしたヤバい集団だった。
だが、最近では都会で組織をまわすのは意外と面倒と分かり、かつて追放した幹部たちが戻ることを了承し、それなりに落ち着いてきた、という事情がある。
そして、目の前にいるアンダーボスのディ・シラクーザは兄弟時代の幹部であり、言ってみれば経済ヤクザ筆頭の切れ者で法律にも詳しいということで、ドン・ガエタノ・ケレルマンの信頼を勝ち取った苦労の人物である。
ちなみにディ・シラクーザは追放されていない。
ドン・ガエタノの時代の初めから残ることを許された稀有な人物である。
とはいえ、この人が〈闘牛士〉と呼ばれるのは司法の攻撃をかわす以外に、郊外の牧場に小さな闘牛場を持っていて、裏切りものをそこで闘牛士にして牛に突き殺されるまで素っ裸で赤い毛布をがむしゃらに振らせる嗜好があったからでもあると言えば、まあ、ドン・ガエタノとうまくいくのも何となく納得する。
ただ、基本的には話の分かる人物であり、野菜市場や数当て賭博、それに盗まれた家畜の処分など多岐にわたる商売の話がしやすく、この人と組むと結構儲けられる。
そのディ・シラクーザの醸造所に行ったのだが、というのも、おれたちが密輸している錬金術印のブランデーのラベルを使わせてくれないかという話を持ちかけられたのだ。
酒の密輸はクルス・ファミリーではなかなか大きな商売なのだが、そのなかでも最近、アルデミルの錬金術士兄弟団から二十年もののブランデーを買わないかと持ちかけられていた。
もちろん買いだ。
普段のブランデーが熟成五年なので、これはなかなか大きな商売になると思い、ガラス職人たちにほっそりとしてきれいなボトルをつくらせて、錬金術印のラベルもつくっておいた。
普段のブランデーは樽単位で取引するし、船員教会から持ち込まれる個人密輸品も陶器か無印のガラス壜に入っている。
だが、このXOたちはしっかりブランド化することにした。
もともとクルス・ファミリーのブランデーは品質のよさで知られている。
当たり前だ。水増し目的で変な酒をブレンドしたりしない。
錬金術印のブランデーは〈ハンギング・ガーデン〉から個人商店、それにマダム・マリア―ヌなどの顧客を大勢持っていて、値段は買い取った醸造所や錬金術士組合によるけど、金貨半枚から金貨二枚。
クルスから買ったブランデーというとそこそこカネのある酒飲みたちのあいだでは何かいいことがあった日に開ける壜なのだ。
そんな錬金術印のブランデーが満を持してお送りする二十年熟成のXO。
ラベルも印刷所軍団に刷らせましたよ。
フストは多色刷りにするかとたずねてきたが、この熟成二十年の華やかさは飲んで味わっていただければいいから、シックな白黒単色刷りにした。
自分の尻尾をくわえた蛇の楕円のなかに角帽をかぶり顎ひげをたくわえた賢そうな老人の顔があって、目は何かの大発見をした後の落ち着きって感じで優し気で賢そうな感じにした。
ラベルよし、ボトルよしといった具合に準備をして満足しているところにディ・シラクーザから打診があったのだ。
金貨一万枚払うから、そのボトルとラベルを使う権利を認めてくれ、と。
……変な話だ。
ディ・シラクーザは密造酒を自前でつくっている。
原料はジャガイモとトウモロコシを合わせてつぶしたもの。
これを一日発酵させてつくった汁を蒸留して売っている。
え? そんなんで、どうやって色を出すんだって?
よい子のパンダのみんなの純粋さには感動を禁じ得ませんな。
玉ねぎだよ、玉ねぎ! 玉ねぎで熟成樽を再現するんだよ。
そんなワンナイト・ブランデーにおれが錬金術ブランド使わせると思う?
全国コニャック事務局みたいなブランドを守る組織がないなか、クルスの錬金術ブランドを守るためにどれだけ苦労したことか。
それを金貨一万枚(約三億円)でパアにするなんて、愚かの極み!
しかし、それが分からないディ・シラクーザではない。
それに金貨一万枚。
いくらなんでもこれ高すぎないか? たぶん元は取れないよ。
だって、本物と偽物の差が大きすぎる。
すぐに偽物とバレて、最初こそアホみたいな利益率で売れるかもしれないが、すぐに値崩れを起こす。
だから、金貨一万枚でペイするラケッティアリングではない。
加えて言うなら、ディ・シラクーザ自身が高級酒の税金逃れの密輸をやっている。
ラベル捏造をすれば、そっちにも飛び火し自分のシノギを潰すことになる。
……とりあえず、この申し出はすぐに断らず、実際酒の品質を確かめてから決めたいと返事して、会って話そうとボールを投げてみた。
すると、ドン・ヴィンチェンゾではなく、おれを指定してきた。
間違いない。
ディ・シラクーザは何か話したいことがある。
このラベルに三億出す話は擬装だ。
本命はおれと話すことだ。
と、言うわけで、ディ・シラクーザの醸造所にジャックを連れて行った。
まあ、断るつもりだけど、酒を味見して、実際どんなものか、一応調べておく。
ほら、思いのほか品質が良かったら、ね?
で、このときにジャックの渋面を見たわけです。
「絶対にマズいに決まってる」
「ちょこっと味見するだけだって。おれは下戸なわけだし」
ディ・シラクーザの秘密の醸造所は十四人のヒゲとひとりの魔法使いを雇っていて、ジャガイモの皮を剥いたり、樽を転がしたり、ブリキ製の蒸留塔に薪をくべたりしている。
どいつもこいつも最低一回は人を刺したことのありそうな顔をしているが、密造酒の製造販売は良心の呵責を感じてしまうようなものには務まらない。
メタノールもどきを高級ブランデーと称して売るのだから、心臓には毛が生えていないと困る。
最終的には蒸留で得られた酒は人の背丈の倍はある巨大なバケツへと混ぜられ、そこで大きなへらを使って、玉ねぎだの、よく分からんイネ科植物だのの着色料と混ぜられる。
亡命ボートの乗組員のごとくオールを漕ぐのだ。
そして、出来上がったものを樽に詰め、強くて安けりゃ何でもいいという、別の意味での来栖一族みたいな連中に一杯銅貨三枚で売り出すのだ。
ジャックはその巨大バケツに脚立で上り、小さなお玉で一杯すくう。
ちょっと口にしたら、すぐにブッと吐き戻した。
「ゲホッ、ゲホッ!」
「そんなにひどいか?」
「これを飲むやつなんているのか。とんでもなく強いぞ、オーナー」
「もちろんだ。それがこいつの売りでね」
ちょっとざらついた声。
振り返ると、フランシスコ・ディ・シラクーザがやってくるところだった。
「待たせてすまん。あっちで話そう」
そこは冷却蛇管が収まった缶のそばの中二階でまわりの窓にはどこかの馬鹿が覗き込んだりしないよう板が打ちつけられて、線になった日光が斜めにテーブルを横切っていた。
「ここじゃ魔法使いも雇ってるときいたけど」
「ああ、それなら、ここだ」
そう言って、冷却缶の蓋を開けると、真夏にはありがたい白い冷気がぐぐっと持ち上がるようにあらわれ、蒸気が通る螺旋管の螺旋の内側に半分凍りついた男が座って、ぶるぶる震えながら手から冷気をほとばしらせていた。
「セニョール・ホセ・マドスを紹介しよう。彼はわたしに借金があってな。こうやって蒸留の冷却を担当することになっている。セニョール・マドス。調子はどうだね?」
そうたずねると、睫毛からつららが垂れた目をしきりに瞬かせ、歯をガチガチ鳴らしながら、上々です、ドン・フランシスコとこたえてきた。
「そうか。きみが元気でわたしも嬉しいよ」
「ドン・フランシスコ! わたしはいつまでこうしていなければいけないのですか?」
「あと三百三十六日だな」
「そうですか」
「ききたいことはそれだけか?」
「あと、もうひとつ。今日のレースで〈プレジディオ〉は走りますか?」
「その予定だ」
「距離は?」
「確か千二百メートル」
「じゃあ、今日棒引きされる分を〈プレジディオ〉に賭けてください。ドン・フランシスコ」
ディ・シラクーザは蓋を閉じて、首をふった。
話し合いの席につくと、ディ・シラクーザが早速たずねてきた。
「こんな感じで冷却にだけは困らない。魔力が尽きるのが先か借金を返しきるのが先か。それとラベルの件はどうだろうかね?」
「残念ながら、希望には添えないですよ。ドン・フランシスコ」
「そうか。それではしょうがない。それより叔父上は元気かね?」
「ええ。それはもう――ドン・ガエタノは? まあ、あの人のことだから元気なのは間違いないでしょうが」
「とても元気だ。今日もアルバレスで山歩きを楽しんでいる」
「今、市内にいないんですか?」
「そうなんだ。また身代金目的の誘拐に関わっている」
これだ。
ディ・シラクーザが話したいこととはこのことだったのだ。
ドン・ガエタノがまた組織を山賊に先祖返りさせようとしている。
そして山賊最大のシノギ――リスクの高い営利誘拐に手を出している。
おそらくさらったのは最もカネになる貴族の息子か娘だろう。
ディ・シラクーザはその後、話題をそらすように共同でやっている料理店へのアーティチョークの卸しについて話し始めたが、真の狙いは分かった。
これは以前からちょくちょくきいていたことだが、ドン・ガエタノが連れてきた山賊たちのうち結構な数が都会のシノギに慣れるうちに山気がなくなって、都市型犯罪者にクラスチェンジして、ディ・シラクーザを尊敬し始めているらしい。
ドン・ガエタノはディ・シラクーザを信用していたから、別段どうこうするわけではなかったが、それでもやはり思うことがあったのだろう。
まるで自分の本性を確認するように以前にも増して山賊稼業にのめり込んでいるわけだ。
そして、それが恐ろしくリスキーなのだが、というのも、以前と違い、ここには〈聖アンジュリンの子ら〉が根付いている。
あいつらは特殊部隊型だから、暗殺を含めた無茶な捜査もやる。
財務調査のできる人間もいる。拷問付きの取り調べもある。
ドン・ガエタノ・ケレルマンの山賊稼業復帰はきっと連中の目をひくことだろう。
そして、パクられて取り返しがつかなくなる前に、また山から市内に戻ってきてほしい。
だが、ケレルマンの身内からそれを言えば、角が立つから外様を頼る。
そのお鉢がクルス・ファミリーにまわってきたわけだ。
〈外交官〉の来栖ミツルに。
そうなんです。おれにもあだ名がつけられてるんです。
あちこちの組織の調整だの仲裁だのしていたらつけられました。
まあ、聖院騎士団の連中が勝手につけたらしいけど。
ちなみにヴィンチェンゾ・クルスのあだ名は〈ゴッドファーザー〉です。
「叔父も久々にドン・ガエタノに会いたいと言っていました。ただ。叔父も齢ですから、山登りはできませんね。街へ帰ってきてくれるとありがたいという旨を伝えてもらえると大変助かります」
「それでは伝えましょう。ドン・ガエタノもきっとドン・ヴィンチェンゾと会いたいはずですし、いろいろ話したい商売上のこともあります」
ちなみに〈ゴッドファーザー〉も司法サイドが勝手につけた名前だ。
これは大急ぎで解決したい問題のひとつだ。
ドン・ガエタノは衝動的に人を殺す悪癖があって、賄賂で手懐けた判事や警吏も扱いきれなくなっている。
〈聖アンジュリンの子ら〉には目の敵にされる。
ケレルマン商会は現在、一枚岩ということになっている。
だが、スマートな犯罪を嗜好するディ・シラクーザに対し、ドン・ガエタノの息子のポルフィリオ・ケレルマンは現役の山賊幹部であり、これも衝動的に悪さをする。
一か月前にこの男が去勢していない荒馬にまたがって、哀れなギャンブル・ジャンキーをサンタ・カタリナ大通りの端から端まで引きずり回しているのを見たことがある。
この息子のもとに、都市型犯罪者化を面白く思っていない生粋の山賊たちが集まっている。
ケレルマン商会は一枚岩だ。
だが、その一枚岩は溶岩の池に浮いている。
宇宙から帰ったらやることは山積みですよ。
しかも、これ、こんがらがったら百人くらい死ぬ。
と、まあ話がずれたが、スイカ柄のレモンをもらえても肝心の巫術士の居所について教えてもらっていない。
また巫術士の話を持ち出すと、またおれのことを殺すと言ってくるかもしれない。
というわけで、隣の店へ入り、きいた。
巫術士はどこにいるか?




