第五十五話 ラケッティア、お嬢最強。
約束通り、水の星の守護神を復活させ、蟹の国が挙兵した。
正直、守護神が魚の格好だから、蟹を説得できないかと思ったが、そのへんはいいらしい。
まあ、水のなかには水のなかなりの英雄崇拝論があるわけだ。
陸上の英雄なんて肌の色が違うってだけで、どえらい罪を犯したみたいに言われるけど。
さて、帝国の海中要塞――でかい月のクレーターみたいなところに作られていて、いくつかの酸素ドームもある――を包囲する海の幸連合軍の内容は以下の通り。
・蟹軍
・魚人残党
・お嬢
お嬢ってなんだよって? おれがききたいわ。こんな超巨大な魚竜。
しかも、この三つの軍閥で一番強いのがお嬢だ。
まず、お嬢には親衛隊がいる。
これが種類を問わない。ウニ、海トカゲ、巨大なエビ、でかい顎した巨大魚、ダイオウイカなどなど。
頭数では蟹の国の正規軍と同じ。
だが、親衛隊などお嬢本体の強さに比べれば、クジラの前のオキアミみたいなもの。
敵のメガリスから反撃のために発進した海中戦艦五隻のうち、四隻がお嬢に食われ、残り一隻は他の全ての勢力を結集してつぶした。
つまり、お嬢最強。
ナンバー・ワン風俗嬢の実力は戦闘スキルにも影響するのだ。
そして、お嬢が参戦した理由は――、
「……」
このむっつり黙ったイスラントくんである。
「いやあ。クールな顔して、結構たらしだね――あ、ごめん。だから、ヘル・ブリザード撃たないで」
「こっちは迷惑している」
「それをあのつぶらな瞳を前に言えるかね? きみは言えるかね?」
「ふん」
「しかし、でけえなあ」
お嬢のおかげで敵も手を出せず、戦線は膠着状態。
しかし、納得いかないのは敵陣営だ。
メガリスはまだ建設途中で、その工事には捕虜になった魚人たちが使われている。
魚人国家は軍事国家だから、こんなふうに外を包囲されたら、内側から蜂起してくれてもいいはずなのに、ウンともスンとも言わん。
蟹軍の偵察スパイを送って調べてみても、スパイが帰ってこない。
いや、ひとりだけ帰ってきたのだが、それで分かったのが、洗脳装置のことだった。
メガリスの中央にある洗脳装置。
このメガリスの四天王であるカピアさまお手製の代物で、帰ってこなかったスパイたちもこの洗脳装置によって、カピアさま万歳状態にされてしまったのだ。
じゃあ、このスパイはどうして帰ってこれたのかと言うと、カルリエドがのんびり泳いで、くわえて連れ帰ったのだ。
「どうも洗脳装置はこの星原産の海産物にしか効き目がないようだな」
ジャックとイスラントと一緒に遠目から洗脳装置を眺める。
メガリスの中央にある丸い銀色の玉。
これが洗脳装置だ。
「そうなると、おれたちでその洗脳装置をつぶす必要がある」
「そうなるけど、――お嬢の親衛隊にも効果があるのかな、その洗脳装置」
「わからない」
そんなふうにうーんうーん唸っていると、お嬢の僕のダイオウイカ八号がやってきて、お嬢が洗脳装置破壊の突撃に参加したいという申し出をしてきた。
「でも、この星の生き物限定で効く洗脳装置があるよ」
「お嬢はあの洗脳装置の発生源は敵将カピアの魅惑であるとおっしゃっておられる。お嬢はそのような偽りの魅惑に惑わされることはない、なぜなら自分は既にイースに魅惑されているからとおっしゃっておられる」
「おい。待て。なんで、おれの略称をお嬢が知っている」
「先ほど、ジャック殿から教えていただけた。ご安心あれ。お嬢はこの愛称の使用はいまの一度だけにするとこの世界で最も大切なものに誓うと、つまり、イスラント殿ですが、イスラント殿に誓うとおっしゃっておられる」
イスラントがお前、この、と振り返るが、ジャックはどこかに消えている。
「お嬢はそうした男性同士のプラトニックな友情も含めて、イスラント殿に参っているとおっしゃっておられる」
クール系ライバル、ぞわぞわする。




