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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
星々の世界 ラケッティア宇宙へゆく編
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第五十一話 アサシン、ラケッティアリングを貢ぐべし。

 菜食主義者の料理センターを特殊部隊ごと吹き飛ばす、ちゅっどーん!の衝撃が、空間と距離と生理学的防衛本能を無視してヨシュアとリサークの思考に影響を与えた。


 愛するものの心を引き寄せるには貢ぐのが一番手っ取り早い。

 そして、来栖ミツルが貢がれると喜ぶのは、カネでも宝石でも国丸ごとでもない。


 ラケッティアリングだ。


 恋に生きるもの特有の突発性社交性欠如症候群のため、ヨシュアもリサークもこの素晴らしいアイディアは自分にだけ降りてきたと思ってしまい、どんなラケッティアリングを立ち上げれば、ミツルの心を釘付けにできるのか考えた。


 まず麻薬はない。これは確実だ。

 次に人身売買。これもない。

 そして、意外だが収益性も問題ではない。


 儲かる話とマフィアらしい話ならためらわず後者を選ぶのだ。


 ふたりはこれまで来栖ミツルと話したマフィアな逸話をフルで思い出した。

 ところが悲しいことに彼らの脳裏に浮かぶのはそうしたマフィア話をする来栖ミツルの嬉々とした顔ばかりで話の内容が思い出せない。


 とにかく外に出るべし。

 幸い、外は夜である。

 怪しげなサイコロの偏った出目と抜かれるナイフ、血まみれの死体、白粉の霧をまとう売笑婦たちの口が大きく開いて真っ赤な舌が下品な笑い声に震える時刻。


 独裁者ですら把握しきれない薄汚れた犯罪の巣窟が貧民街区の奥で焼けた鉄のにおいのする呼吸をする時刻。


 そんな怪しげなディテールから悪稼ぎ(ラケッティリング)のヒントを得るべく、ふたりは別々の部屋でほぼ同時に護身用の短剣とスローイング・ダガー、コルク栓に刺さったピンを抜くと爆発する小瓶を装備してマントを羽織い、部屋を出た。


 椅子がいくつも並んだ青く暗く長い部屋で、ふたりはお互いを認識し、どうやら同じように外に出ようとしているらしいと分かると一度にふたりが通ることのできない出入口で先を争い、衝突した。


「なんだ?」


「なんだとはなんですか? わたしは散歩しに行くだけです」


「おれも散歩だ。真似するな」


「そっちが真似したんでしょう。言いがかりはよしてください」


「おれはお前が散歩に出かけようと考えるより、ずっと前から散歩に行こうと決めていた」


「わたしはそれよりさらに前から散歩に行こうと思っていました」


 相手にお先にどうぞと言うつもりは一切なかった。

 結局、ふたりはすらっと細かったので強引にひとり分の広さに自分たちの体を押し込んで、同時に外に出たのだが、そのあいだ、彼らが腰のポーチに入れた爆発小瓶がカチカチぶつかり合い、誤爆寸前までいった。


 この爆発する小瓶、中身は化学物質ではない。

 無人島に漂着した人が一縷の望みを託して流す壜のように小さな手紙が入っている。

 その手紙の表には「どんがらがっしゃん」、裏には「ちゅっどーん!」と書かれていた。


 ついさっき、帝国軍特殊部隊を屠ったカードと同じもので誰が作成したのかは推して知るべし。

 だが、ウェティアがこんな簡単に爆発物を生み出せると知った来栖ミツルのことを考えれば、まあ、同情はできるだろう。


 さらにふたりのアサシンが来栖ミツルに貢ぐべく、ラケッティアリングを築こうとしている。

 ヨシュアとリサークはこのラケッティアリングについて婚約指輪的な意味合いがあると確信しているのだ。


 外に出たヨシュアとリサークはお互い、こいつとは違う方向に行こうと思って、ふたりとも右に曲がり、階段を降り、小さな広場を横切ると見せかけてやっぱりやめた。


「真似するな」


「そっちこそ」


 ふたりが今歩いているのは赤錆の鉄の闘技場のそばの道だった。

 闘技場は閉まっていて、トタンの庇の下に皇帝を称えるポスターが貼られ、さらにその下では浮浪者が寝転んでいた。


 ポスターは皇帝が剣を抜いて、天に向けるもので、文字はない……。


 それを見て、リサークはひらめいた。


 素晴らしいのはヨシュアは何も閃いていないところだ。


 ここはリサークが先取した形になり、ヨシュアを焦らせる。

 もう間違いない。やつはおれと同じ、ラケッティアリングをミツルに貢ぐ気だ。


 おれも、――おれも何か――。


 焦るばかりでなかなかいいアイディアが浮かばない。

 見えるのは壁ばかりだ。


「ん? 壁ばかり……それだ!」


 ヨシュアも閃いた。


     ――†――†――†――


 レジスタンスの資金はリーダーが管理している。

 決して潤沢とは言えない資金だが、ヨシュアとリサークはほぼ同じ時刻にリーダーのリギッタに融資をせがんだ。


「こいつにカネは渡さなくていい」


「彼にお金を渡してはいけません」


 ふたりは違法な方法で資金を増やすとリギッタに請け負った。

 どうせ自分たちはテロリストなのだから、そこは根性決めて帝国の法に逆らいながら資金を得ることが重要だと(ふたりは大変不本意ながら)声をそろえて唱えたのだ。


 リギッタとヴィクターの脳裏に浮かんだのは、ウェティアの爆発カードであり、このふたりがあのカードを市街地に仕掛けまくって、帝国相手に資金を脅し取ろうとしている姿だった。


「市民に犠牲者を出すようなやり方は容認できません」


「そんなことはしない。むしろ感謝されるくらいだ」


 ヨシュアとリサークは自分の考えたラケッティアリングがかぶったら、相手を殺してしまおうと思いながら、せーので言った。


「壁の清掃です」

「窓の取り付けだ」


 リギッタとヴィクターは清掃とは暗殺の隠語で、窓とはスパイ活動の隠語かと思ったが、ふたりは本当に壁を掃除し、窓を取りつけるというのだ。


「それは、その、ラケッティアリングなの?」


「それは間違いない」


「ラケッティアリングとはただの悪事ではありません。それは、芸術アートです」

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