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乙女ゲームの真実

最終部分を分割改稿したため、割り込み投稿を行いました。システム上の都合により、一瞬だけ連載中→完結の状態になりました。

ご迷惑をおかけいたしました。



 私はマルコがゲートを開いた手順を思い出す。毎回違った。設置された魔法陣も全部別々の系統だった。最後など、ただ私の背中を押しただけ。


 開け、開け。マルコの元へ。魔物と戦うその場所へ。


 願い虚しく扉は現れなかった。

 一体どうしたら良いのだろうか。

 やはり該当のゲームイベントに現れない人物はその場に参加できないのか。

 でも、画面の外で戦ってたかもよ?その可能性に賭けるしかない。



 マルコは魔物という言葉を聞いたことがないと言っていた。しかしマルコたち飛竜一族に伝わる民謡に出てくるのは、魔獣ではなくて魔物だ。闇とかいう、聞いたことのない概念も出てきた。


 マルコのことだから、そんなものだと聞き流し、あとは単純に忘れていたのだろう。しかしこの歌に何か手がかりはないだろうか。


 魔法剣と剣士と乙女は一体、一つの命を共有している。もしかしたら、剣のある場所に集合出来るんじゃないの?


 魔法剣、魔法剣。イメージする。呼びかける。さまざまな文字で書いてみる。あまり得意ではないが絵も描いて見る。


 学園寮裏のワイバーン飼育場で、さまざまな試みをする。最初に蜘蛛脚が消えた空気魔法陣も真似ようとする。


 何かが欠けている。うまくいかない。

 ゲートの魔法陣を作る方法は、曖昧模糊として掴めない。そこは適当でいいじゃないの!なぜ開かないの?なぜ扉が現れないの?


 何をやっても飛竜山脈へのゲートは開かない。古代の魔法剣がある位置も捕捉出来ない。いくら集中してマルコの気配を探っても、虚しく終わる。



 飛竜飼育場の木立がざわめく。何か来る。上を向く。影が落ちる。愛しい魔力が降ってくる。


「マルコ?」


 額に何かが触れた。指先で拭う。


「血?」


 飛竜が降りてくる。私は木陰へと退避する。降りてくるにつれて、ぽたぽたと血の雨が降ってくる。私は呆然と見ている。


 飛竜が地面に降り立つ。私を見て何か言う。当然解らない。そして私は凍りついたように立ちつくす。


 飛竜がまた何か言う。その背中には何かがへばりついている。かろうじて落ちない程度の僅かな魔力で落下防止の魔法が働いている。


「マルコ」


 自分の口が動いたことに気づかないまま発話する。自分の声が遠く耳慣れないものに聞こえる。凍りついていた足が、ふらふらと飛竜に近づく。私の意思ではない。引き寄せられるようにその人へと向かう。


 私が飛竜のもとまで辿り着くと、その人はタワシのような赤毛頭を微かに持ち上げた。額の傷は乾いている。手足や身体に受けた傷は、閉じているものも開いているものもある。殆ど赤に近いピンク色の瞳は弱々しい。


 腰に下げた魔法剣から滲む光が赤々と大きな男を包んでいる。その力で僅かな命の燈を保っているのだろう。


 我がラゴサの果樹園には、一族しか入れない区画がある。マルコたち飛竜一族の白い花園と同様、血族領域というやつなのだろう。そこには赤い実が成る。一本の木にひとつ。一年に一本だけ実を結ぶ。その実は命を育むと言われている。


 あの実があれば。だが、成人しないと果樹園には入れない。


「マルコ」


 私はありったけの赤い癒しの魔法を使う。


「テレサ」


 マルコは掠れた声で答える。


「じっとして」


 私は魔法で傷口を消毒し、ごみや毒の混じる固まった血を取り除く。そして赤い秘術を使い続ける。


「悪ぃ。誓いの花園で2ヶ月ほど寝てくるわ」


 それを伝えに来たのだろうか。


「心配すんな。2ヶ月したら、こいつが迎えに行くから」


 2ヶ月すれば、私は成人する。赤い実を持っていける。実家に連絡を入れて実を貰う約束をしなければ。基本的には門外不出の実であるが、例外はあると聞く。


「それじゃあ、2ヶ月後にな」


 マルコが声を絞り出して告げると、飛竜は再び上空へと去った。


「あっ?」


 ガシャリと重たい金属音がして、マルコの腰から魔法剣が落ちる。恐らくは魔物の攻撃を受けて弱っていた革の剣帯が、ついに剣の重みに耐えかねて千切れたのだ。


 飛竜はそのまま去ってゆく。私は古代の魔法剣を拾うと、軽量にする魔法をかけて学生寮の自室へと運ぶ。魔石は変わらず赤に金銀が渦巻いている。


 マルコは生きている。魔法剣からは、マルコの命が伝わってくる。大丈夫。2ヶ月したら会える。私は卒業に集中しよう。マルコと違って一般科目はすごく勉強してやっと平均点だ。油断すると落第してしまう。


 目が覚めたマルコに卒業と誕生日を祝って貰うんだ。私はそう決めると、よく見える所に古代の魔法剣を自分の魔法で貼りつけて飾った。



 翌朝登校すると、マーサとネタゲーメンバーは全員欠席していた。1日休んでから魔物討伐記念式典を行うのだそうだ。


 クラスメイトはチラチラと私を見る。私はポーカーフェイスを保つ。

 昨夜のニュースで、魔物の発生とマーサたちによる討伐が報じられていた。中でもマルコは不死身の英雄としてその活躍が讃えられていたのである。


 そして早朝に発表されたネットの速報では、マルコが中央貴族の一般学校生と婚約したと言われていたのだ。


 その30分後に報道されたのは、セレナード家の猛抗議。勝手に発表された、その家との婚約の事実はない、と言う主張である。


 更に1時間後、貴族家が田舎騎士に拒否権はないと突っぱねる声明をだした。ところがその家は古代魔法民族の一員ではなかったのだ。


 魔法を重要視するわが国の世論は、当然セレナード家に味方する。中央政府も無視できない騒ぎとなった。一時はその貴族家が貴族位を剥奪されかねない動きまで出てきた。


 さて登校時刻直前の最新ニュースはどうだったろうか。貴族家は、世論に負け、政府からの圧力に負けて、ついに謝罪を発表した。


 とんだスキャンダルである。



 私は呆れると共にほっと胸を撫で下ろす。マルコ魔王エンドの正確な内容を思い出したのだ。貴族家令嬢との婚約報道を聞いた瞬間に。


 脳裏に浮かぶ一連のシーンは、私がみたマルコルートのエンディングである。魔王エンドは、ネタゲー愛好家がつけた名前だ。


 実際のゲームでは、マルコルートに他のエンディングは用意されていないそうである。夏祭りに全員で行くを選ぶと、誰ともくっつかないで平和にお友達エンドだ。マルコルートのノーマルエンディングではない。


 ネットで見た画像を朧げに思い出す。王子とルチアっぽい顔のない銀髪。デレクととモーリーっぽい小柄な少女の影。ロドリゴには誰もいない。マーサ正史はロドリゴエンドなのだろう。なにしろ、トゥルーエンドへと向かっている現世がそうなっているのだから、そうに違いない。


 緑のやつは蔓をうねらせる不気味な植物を連れていた。そしてマルコの隣にはテレサっぽくぼんやりとした茶色い癖毛。



 マルコエンド、つまり魔王化の条件は、だいたいこんな感じ。


 主人公の好感度マルコ一位、テレサの魔法剣なし。

 主人公マーサとの告白イベント風に始まるエンディング。唐突に中央貴族のご令嬢が登場。婚約新聞記事。


 どす黒く染まる魔石とマルコの髪。石炭のように赤くなる悪魔のような瞳。

 何故か主人公ではなく初出の「テレサ」の名前を呼ぶマルコ。案内人イベントでは、名前も顔すらもなかったので、それが「案内人」だとは誰にも解らない。


 ネットでは、テレサを探せが流行った。案内人説も多分出たのだろう。随所に出現する思わせぶり投げっぱなし一枚絵に、マルコと並ぶ人影が案内人っぽいから。すっかり忘れてた。私はテレサ誰!と笑って終わりだった。解明の熱意は特に湧かなかったのを思い出す。


 今は自分のことなんだけどね。



 魔王になる時、マルコは言った。


「赦さねえ。テレサの居ない世界など滅びてしまえ」


 テレサ多分死んでない?

 夏祭りの謎の哀愁告白風イベントを思い出した時にも思ったんだけど。魔王エンド、謝罪する代わりに、ゲームテレサ死んだ?殺された?

 いや、どうやって?


 この時点でのテレサ、現世準拠なら相当強いよ?手に負えないよ?一般中央貴族の敵う相手じゃないよ?それこそ魔物でもけしかけないと無理。けしかけたのか?


 あ。

 もしや、あの。

 邪悪な魔法使いの関係者?

 だとすると、マルコが眼を覚ましたら、ご対面だよね。浄化ミッションがあるから。


 前々から薄々疑ってはいたのだが、マルコルート、やっぱり別のゲームを無理やり乙女ゲームで再利用したよね。多分開発中止とかのSLG(シミュレーション)なやつ。



 魔王エンドの記憶は続く。


 石炭を燃やす悪魔の瞳から血の涙を滲ませるマルコ。


「俺の身体は、テレサを護る為にある。俺の剣は、テレサの幸せの為にある。俺の魂は、テレサの安らぎの為にある」


 怒りに身を任せるマルコ。


「俺の統べてはテレサに捧げた。テレサといない人生はあり得ない」


 闇落ちマルコ。


「そして世界は滅んだ」


 完。


 勿論詳細はない。たった一言「そして世界は滅んだ」である。



 ともあれ、世界の滅亡原因は安牛乳マニアのワガママではなかったのだ。まあ、ドラマとしては幾分マシな理由だよね。でもさあ、滅ぼすのはテレサを殺したらしき相手だけにしとけよ。恐らく相手は、古代の魔法剣が狙う仇敵の血筋でもあるんだし。


 そのへん、やっぱりストーリーが雑だよなあ。なんで世界巻き込むの。マルコそう言うキャラじゃないでしょ。キャラブレってやつか。


 マルコはもっと局地的な行動を取ってる気がするよ。世界なんて壮大なものには興味がないよ。ラゴサ牛乳を守るためだけに生きてきたんだよ。


 私と話が合ったのは偶然だけどね。私がラゴサ領主の娘だと気付いたのは、話が弾んだ後だしね。気づかなかったのも迂闊過ぎるとは思うんですが。まあ、マルコだし。


 それにしても、現世が正伝世界の歴史を歩んでいて良かった。マルコとマーサが友達以上になっていたら世界は滅亡だから。

 でも、偽史のマルコ、案内人イベントでテレサと隠しマップこと「海の宝石亭」に行ったよね。なんで古代の魔法剣を討伐に持ち込めないの。持ってる筈だよね?


 他のルートはわかる。案内人はマルコ専用イベントだから。古代の魔法剣が登場すらしないのは当然なのだ。


 使い回しばかりのネタゲーの中で、マルコだけは、色々とほかのイベントに繋がらないような独自色を出していた。

 無理矢理繋げたというより、むしろこちらが本体か。だから他のヒーローたちは作業ゲーなのか。マルコの物語がゲームストーリーの中で矛盾全開になるのも無理矢理乙女ゲーム風に作り替えたからなのだろう。


 なんか、腑に落ちた。


お読み下さりありがとうございました

次話が最終部分です。

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