432 番外編ーボール遊び 2
オクソールがゾロゾロと騎士団のメンバーを連れてきた。しかも、今警備に付いている団員以外全員だ。騎士団長までいる。
何故かみんなやる気だ。腕まくりをしたりしている。確実に、俺の出番ないじゃん。
「殿下。詳しくお願いします」
え、もしかしてみんなも退屈してたりする?
「殿下?」
「ああ、うん。分かった」
俺もあんまりルールは詳しくないよ。最低限だけだけど、説明した。
「でね、ポ~ンって下から手で受けるのと、上で受けるのとあるの。でね……」
と、俺の辿々しい説明を真剣に聞いている騎士団のみんな。
「こうトスを上げて、別の人がバシッてスパイクを打つの」
「ほう、スパイクですか」
「それをジャンプしてブロックしたりするの」
「ほう、ブロック」
「25点先に取った方が勝ちなんだよ。本当はそれを5セットやって先に3セット取った方が勝ちなの」
「なるほど、それは全身運動になりますね」
「そう?」
「やってみましょう」
オクソールの言葉で騎士団がじゃんけんをし出した。
みんな分かってんだね。オクソールとリュカを入れて4チームだ。その4チームでトーナメント戦をする事になった。
其々のチームに分かれて円になって練習していたりする。
それにちゃんとしっかり地面に線を引いて、どこから持ってきたのか真ん中にネットも張った。あれは魚を捕る為の網なんじゃないのか? 勝手に持ってきて後で叱られたりいないか?
本当、こういうの好きだよね。みんな張り切るよね。
「オク、審判もいるんだよ」
「審判ですか?」
「そう、真ん中でピーッて笛を吹いたりすんの」
「ほう。では、試合に出ない者が随時審判をする事にしましょう」
急遽始まったバレーボールのトーナメント戦。俺は、もちろん観客だよ。
みんな、ほんの少し練習をしただけでビシバシとボールを打っている。身体能力が半端ない。あっという間に覚えてしまった。
「じゃあ、1回戦始めまーす!」
「「うぃーッす!」」
「ダメダメ、ちゃんと並んで『よろしくおねがいします!』て言わなきゃ!」
「「「よろしくお願いしゃーすッ!」」」
「よし、始めッ!」
俺、ちょっと監督みたくない? ふふふ、監督もいいなぁ。
「殿下、離れていないと危ないッスよ」
「リュカ、そう?」
「はい、そうッス。みんな思いっきりやりますからね」
お、おう。そんなになのか?
審判役の団員が真ん中でピーッと始まりの笛を吹いた。
いきなり、騎士団長のサーブからだ。
「そぉーれッ!」
「殿下、何スか?」
「掛け声だよ、掛け声」
「へ~」
「へ~じゃないの。リュカも言うの」
「えー……」
「何?」
「いや、何でもないッス」
騎士団長がサーブをバシッと打った。まあ、お上手。
それをいとも簡単にレシーブする。そして流れるようにトス。
「とやッ!」
バシッと音がするスパイクだ。それをまた拾う団員。腕が痛そうだ。だってボールといってもバレーボールじゃないんだから。そりゃ痛いよ。
「みんな凄いね」
「そうッスね」
「ボクはポ~ンって遊びたかっただけなんだけどな」
「大会みたいになっちゃいましたね」
「ね~」
リュカと2人、呑気に見物だ。
「リリ、また何を始めたんだい?」
あ、クーファルがやってきた。
「兄さま」
「声が聞こえたから、見に来たんだ」
「試合です」
「ほう、みんな本気だね」
「はい。ボクはポーンとボールで遊びたかっただけなんですけど」
「アハハハ、ポーンて感じではないね」
「はい。もうビシバシです」
俺の出る幕なんて全然ないよ。あっという間に騎士団長のいるチームが勝ってしまった。
「リュカ、出ないの?」
「俺はいいッス」
「でもオクが見てるよ」
「え……」
オクソールの眼力に負けて、結局リュカもオクソールのいるチームに参戦だ。獣人が2人もいるんだ。負ける訳がない。きっと最強だよ。
「オクソールとリュカの身体能力は反則だね」
と、クーファルが言う位に圧倒的だった。オクソールがスパイクを打つと取れない、ブロックにも引っかからない。リュカはどんなボールでもレシーブする。回転レシーブなんて普通にやって退ける。スーパーリベロじゃん。
その上俺は教えていないのに、リュカが打つと見せかけて本当はオクソールのバックアタックなんてやっている。あの2人の身体能力は一体どうなってるんだ?
2人共、全日本チームに是非とも入って欲しい。
「あー、やっぱオクとリュカのいるチームがぶっち切りだ」
「あれは仕方ないね」
俺とクーファルは感心を通り越していた。そして、予想通りオクソールとリュカのいるチームが圧勝した。
「殿下! 勝ちましたよ!」
「うん、おめでとう」
「なんスか? テンション低いですよ?」
「だって2人は反則だよ。誰も勝てないよ」
「オクソール、凄いね」
「クーファル殿下、ありがとうございます」
負けず嫌いか何なのか知らないけど、みんな本気になりすぎだ。俺は、ポーンて遊びたかっただけなのに。
マジの試合になっちゃってるじゃん。
それだけでは終わらなかった。
その話を聞きつけた領主隊まで本気でやり出したんだ。
その内、騎士団vs領主隊で試合するよ。きっとね。




