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361ー前皇帝妹

「本当に人騒がせな」

「ね、リリもそう思うよね」

「はい、フォルセ兄さま」


 俺とフォルセは婚約の儀の後の、両家揃ってのお茶会の席でコソコソと喋っている。もちろん、2人共顔は微笑みを忘れていない。

 

「前皇帝の妹が何だよ? て思わない?」

「フォルセ兄さま、そうですよね。何か帝国の為に功績を残してるんですか?」

「リリ、知らないの? 光属性を持っているんだよ」

「えぇッ!? 知りませんでした!」

「持っているんだけどね、全然大した事ないんだって。前皇帝がスタンピードの時に転移門に魔力を流し続けた後に寝込んだでしょ?

 あの時も治そうとヒールしたそうだけど、弱くて回復しなかったんだって。

 で、亡くなる時にもまたヒールしたそうなんだけど、病は治せなかったって」

「フォルセ兄さま、病はヒールじゃなくて、キュアですね」

「本当!? じゃあ、それも知らなかったんじゃない?」

「え? 魔術師団なら皆知ってますよ?」

「誰も言わなかったんじゃない? 嫌われてるから」


 うわ、フォルセ酷いな。そんな頃から嫌われてたのか? いや、そんな問題じゃねーぞ。前皇帝の命が掛かってるんだぞ。


「もうね、どうしようもなかったらしいよ」


 そうなのか。フォルセ、詳しいな。


「でも、フォルセ兄さま。それだけ前皇帝を助けたかったのですよね?」

「そりゃあ、兄妹だからね」


 そうだろうな。実の兄と妹だもんな。

 そんな話をしていると、噂の叔祖母様と目が合った。うわ、また何か言われるのか? と、身構えた。


「リリアス殿下」

「はい。叔祖母様、お久しぶりです」


 前の事があるから、父や母、兄達も皆こっちを注目している。母が席を立って俺の後ろに来た。


「クレメンス公爵夫人、リリアスにまた何か仰りたい事でも?」


 母はもう臨戦体制だよ。本当、俺の母は無敵だよ。怖いもん無しだよ。だが、母の気持ちは有難い。


「いえ、エイル様。以前、私はリリアス殿下に大変失礼な事を申しました。申し訳ございませんでした。心からお詫び致します」


 そう言って、大叔母様は席を立って深く頭を下げられた。何だ? どうしたんだ? 嵐が来るぞ?


「今更、謝罪されてもリリアスは……」

「母さま、待って下さい」


 俺は母を止めた。


「リリ」

「ボクは帝国の皇子として謝罪を受け入れます。叔祖母様、頭を上げて下さい」


 もう何年も前の事だ。もう、いいよ。


「有難うございます」

「叔祖母様、お聞きしても良いですか?」

「何でしょう?」

「何故、今になって謝罪をしようと思われたのですか?」


 そこが知りたいんだ。


「リリアス殿下。殿下は転移門を修復されたと伺いました」

「はい。5歳の時に」

「私の兄が無理をして使えなくなっておりました。それが、気掛かりでした。もしまた辺境伯領で何かあったらと心配しておりました。私も光属性を持って生まれてきましたが、何の役にも立てませんでした。

 兄を助ける事も、帝国の大事な転移門を修復する事もです。

 リリアス殿下、心より感謝申し上げます。有難う御座いました」


 そっか。この人はこの人なりに苦しんでいたんだ。


「リリアス殿下、私からも謝罪致します。そして、心より感謝申し上げます。

 妻を許して頂き有難うございます。そして、妻の長年の憂いを取り除いて頂き有難う御座います」


 公爵まで、頭を下げられた。


「公爵、叔祖母様。ボクは帝国の皇子として帝国の為に出来る事をしただけです。どうか、頭をあげて下さい」

「有難うございます。これで、何の心配もなく領地に戻る事ができます」

「公爵、叔祖母様。これからは、テュール兄さまとエウリアー嬢の事を見守って下さい」

「リリアス殿下。テュール殿下は妻の目を覚まさせて下さいました。私共の可愛い孫娘に今迄辛い思いをさせてしまいました」


 公爵は、皆を見てテュールを見つめた。


「どうか、孫娘を宜しくお願い致します」

「公爵、叔祖母様、私が生涯そばにおります。どうか、安心して下さい」


 テュールよ、カッコいいぞ。


「テュール殿下、宜しくお願いします」

「公爵、叔母上、もう宜しいでしょう。折角のめでたい席です。2人を祝ってあげませんか?」


 父よ。いいタイミングだ。そうだ。今日は2人の婚約発表だ。お祝いだよ。


「テュール兄さま、エウリアー嬢、おめでとうございます!」

「テュール兄様、エウリアー嬢、おめでとう!」

「リリ、フォルセ、有難う」

「リリアス殿下、フォルセ殿下、有難う御座います。これから宜しくお願い致します」


 いやいや、爽やかな良い感じのご令嬢じゃないか。おじさんは嬉しいよ。だからね、一つ良い事を教えてあげよう。


「エウリアー嬢、城では剣の鍛練をしても大丈夫ですよ」

「リリ、そうだね」

「はい、フォルセ兄さま」

「テュール殿下、そうなのですか?」

「ああ、エウリアー嬢。父が始めた事だが、万が一に備えて皇族は女性でも我が身を守れる程度の力を身につける事を推奨している。剣が駄目な者は魔法で、とかな」

「テュール兄さま、皆強いですよね」

「まあ、リリアス殿下。そうなのですね」

「エウリアー嬢だと、ニルの方が強いか? ああ、ニルとはリリアスの侍女だ」

「リリアス殿下、そうなのですか!?」

「はい。母さまも攻撃魔法で戦えますよね?」

「リリ、やだわ。そんな事言わないで」

「だって、本当ですから」

「凄いです! 嬉しいですわ! リリアス殿下、是非ご紹介頂けませんか?」

「もちろん、良いですよ。でも、本当にニルは強いですよ?」

「はい、望むところです!」

「エウリアー嬢、私が相手するが?」

「いえ、テュール殿下。殿下は強すぎて、私など相手になりませんから」

「テュール兄様は脳筋だしね。ニルの方が良いよ」

「フォルセ、俺は脳筋じゃないぞ?」

「えー、テュール兄様。自覚ないんですかぁ? ね、リリ」

「はい、フォルセ兄さま。フレイ兄さまとテュール兄さまは立派な脳筋です」

「リリ、私もか? 酷いな」

「まあ! フフフ。皆様、有難うございます。どうか、これから宜しくお願い致します」


 うん。良い笑顔だよ。スッキリしたみたいだな。良かったよ。


「テュール殿下、皆様、本当に有難うございます。エウリアーのこんな笑顔をまた見られるとは、嬉しい事です」


 エウリアー嬢のご両親も嬉しそうだ。


「鍛練だけでなく、皇族としての教育も受けてもらいますわよ。これから、忙しくなります。頑張ってね」

「はい。皇后様、宜しくお願い致します」


 良かった、良かった。わざわざ、転移で帰ってきただけの事があったよ。

 シャルフローラに続いて2人目の姉だ。

 クーファルの婚姻はお相手のミリアーナ嬢がアカデミーを卒業してからだ。

 テュールの方が先になる。来年の春にはテュールもエウリアー嬢もアカデミーを卒業するからな。

 家族が増えるのは嬉しい。しかも、兄3人共恋愛結婚になる。次はフォルセなんだが。


「リリ、何? ボクはしないよ?」

「フォルセ兄さま、何があるか分かりませんから」

「それはリリもだよ」


 フォルセが周りに聞こえない様に小声で俺に言った。


「歳を取ってもね、2人で仲良くしようね、リリ」

「フォルセ兄さま……」


 何だ? もしかして、俺が婚姻するつもりがないのをフォルセは気付いているのか? フォルセ、恐るべし。


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