148ーどうか幸せに
その日の夕食は、久しぶりに夫人が一緒だった。
「ご心配をお掛けしてしまって、申し訳ありませんでした」
「夫人、元気になられて良かった」
「クーファル殿下、有難うございます。それに、アルコースの事でもご配慮頂いて有難うございます。」
「クーファル殿下、私からもお礼を。有難うございます」
「有難うございました」
アラ殿、アスラ殿、アルコース殿揃って、クーファルに礼を言っている。
「まあ、まだこれから正式に婚約発表もしなければいけない。フィオン、あまり世話をかけたら駄目だよ」
「お兄様、私はそんな事しません。でもお兄様、有難うございました」
あー、自覚がないんだよな。
「リリ? 何か今失礼な事を考えたわね?」
「姉さま、そんな事ないです」
俺はブンブンと首を横に振る。
「リリアス殿下、またいらしてくださいね。今度はもっと一緒に、お出かけしたりしましょう」
「はい! 是非!」
元気になって良かった!
夕食はご馳走だった。シェフや料理人たちが、腕を振るったのだろう。
「ん〜! シェフ、絶品だね!」
「殿下、有難うございます!」
何の肉か分からないが、スネ肉らしい物のワイン煮込み。
ナイフが抵抗なく入って、超柔らかい。
俺はまたお口いっぱいに頬張っちゃうよ。お行儀悪いなんて言わないでくれよ。美味いんだからさ。まだ5歳だしさ。ウマウマだね。超ウマウマだよ。凄いね。料理人の本気さが伝わってくるよ。
応接室に移って、デザートをいただく。
「まあ、見た事のないケーキだわ! とても美味しい!」
「リリアス殿下に教えて頂いたものです。綺麗な層にして、崩さないようにするのが難しくてやっと納得のいく物が出来ました」
俺は崩さない様に、そぅ〜っとナイフを入れて、パクッと食べる。思わずほっぺを両手で支えてしまうぜ。落ちないのに。
「ん〜、美味しい〜」
甘すぎないカスタードクリームと苺、サクサクの生地。これも絶品だぜ! 苺のミルフィーユ。
俺は流行り物よりも、こう言う定番物が好きだね。
「リリ、忘れてはいけないよ?」
「兄さま?」
「ほら、説明して」
「あ……美味しくて、食べるのに夢中で忘れてました!」
「リリ、それはないよ!」
ポンッとルーが現れた。
「ルー、父さまはなんて?」
「ああ、項垂れていたよ」
「もう意味が分かんない」
ルーは、俺が作ったお手紙転送のお道具を城に届けてくれていた。
父は希望の魔石が使われてなかったので、残念だったんだろうが。あんな高価な魔石を、使う訳ないだろう。
父は時々、頭の中がお花畑になるらしい。
「父上は、時々変な事に拘るからね」
「兄さま、本当無駄ですよね」
「ああ。まったくだ」
「お兄様、リリ? 何の事かしら?」
「フィオン、なんでもないよ。父上がまた、リリの事で無駄遣いしようとしていただけだ」
「まあ、父上は本当に」
フィオン、内容は知らなくても同意するんだな。あの父はどんだけなんだ?
「ああ、リリ。それとね、城の方も大丈夫だよ。取り敢えずだけど、受け入れられるようにしておくってさ」
「そう。ルー、ありがとう」
「リリ、じゃあ渡して」
「兄さま、ボクですか?」
「ああ、当然だ。ソール、持って来てくれる?」
「はい、殿下。こちらに」
俺はソールから小箱を受け取って、アラウィンの側へいった。
「アラ殿。転移門をヒントに、ルーに教えてもらって作りました。材料費はクーファル兄さまです。便利だと思います。使って下さい」
アラウィンに、手渡した。
「殿下、これは何ですか?」
「この小箱の中に入る大きさのお手紙を入れて、上の魔石に魔力を込めてください。
そうしたら、城にある小箱にお手紙が転送されます。こっちにお手紙が届いたら、魔石が光ってお知らせします。
お手紙だけのつもりで作ったのですが、この小箱に入る大きさの物なら、なんでも送れます」
「それは、素晴らしい!」
「ボクが次に来る時は、先にお手紙でお知らせしますね」
「殿下、この様な物を頂いて勿体ない事です。有難うございます。大事に使わせて頂きます」
「はい! お手紙書きますね! ね、姉さま」
「リリ、有難う」
俺はフィオンの側に行く。
「姉さま。ボクの大好きな姉さまには、これを」
細い華奢なチェーンに、小さな魔石を花の形になるように付けたトップ。
フィオンを守ってくれる様、防御やシールドを目一杯付与したネックレスだ。
「リリ……」
「アルコース殿、姉さまに着けて差し上げて下さい」
「はい、リリアス殿下」
アルコースが、屈んでソファーに座っているフィオンにネックレスをつける。
「アルコース殿には、これを」
フィオンのネックレスと同じチェーンに、小さなクロスを形作った魔石のトップ。
これにも、同じように付与してある。
「姉さま、着けて差し上げて下さい」
フィオンが黙ってアルコースにネックレスを着ける。
「どっちにも、防御やシールド等を目一杯付与してあります。守ってくれます。
いつもつけていて欲しいので、他の物を重ねても邪魔にならない物にしました。
これも材料費は兄さまで、ニルが手伝ってくれました。」
次は、アスラールだ。
「アスラ殿、ボクは婚約者の方は知らないのですが、お二人にもペアで作りました」
「殿下、私もですか!?」
「どうか、今迄我慢した分もお幸せに。また領地を案内して下さいね。とっても楽しかったです!」
「リリアス殿下……!」
さて、最後だ。
「アラ殿と、アリンナ様にも」
俺はアラ殿の側に行く。
「殿下……! 申し訳ありません! 失礼致します!」
そう言ってアラウィンは膝をつき、俺を抱きしめた。
「アラ殿?」
「お辛い思いをさせてしまいました! 申し訳ございません!
なのに、殿下はお強い。お強いだけでなく、慈悲深い。私達大人が殿下に守られてしまいました。
どうか、これに懲りずにまた是非お越し下さい!」
「はい、もちろんです! アラ殿、もう二度とアリンナ様を泣かせたら駄目です。
もし泣かせたら、ボクがアリンナ様を頂きに来ますよ!」
「殿下、はい。お約束します。有難うございます」
夫人にも横からフワリと抱きしめられた。
「アリンナ様、よく耐えられました。あなたの優しさと強さに、ボクは脱帽します。今迄、我慢してこられた分、これからはアラ殿ともっともっと幸せになってください。アリンナ様がいてくれて、よかった」
本当に、長い間よく耐えて来られた。しかも愛情を持って耐えて守っておられた。
俺は、かなわないよ。
「殿下、有難うございます。今度いらした時は、一緒に遊びましょうね」
「はい! 楽しみです!」
俺は、アルコースを振り返る。
「姉さまを宜しくお願いします。ボクの大事な姉さまを泣かせたら、ボクがアルコース殿をやっつけに来ますから」
「はい、殿下。大事に致します。必ず、幸せにします!」
「アルコース、私からも頼んだよ」
「はい、クーファル殿下」
うん。泣かずによく頑張ったぜ、俺。




