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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
フェルイト動乱編

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閑話 闇夜の蝙蝠

 ダキャットの上空に無数の蝙蝠がいた。

 黒い蝙蝠は闇夜に紛れ、地上から視認されることはない。そして、例え視認されたとしても、ただの蝙蝠だと思い気にも留めないだろう。高度数千メートルの場所を蝙蝠が飛んでいる。そのような本来なら非常識な光景は、地上で起こっているさらなる非常識の陰に隠れて霧散する。

 だが、その蝙蝠こそが、地上での動乱の原因であった。

 吸血鬼ヴァルフ。


 魔王軍の第三将軍であり、不老不死の力を持つ彼は蝙蝠の姿をし地上の様子を眺めていた。

 ちなみに、この蝙蝠はヴァルフの本体ではなく、分身の一体である。

 彼は蝙蝠になる時、100匹に分身する。

 そして、それが弱点でもある。

 蝙蝠である間は不死の力を失ってしまう。それでも彼が分身するのは、情報を集めるためだ。

 蝙蝠の姿をしている間は、太陽の光を浴びても火傷することはなくなる。


「一昨日は酷い目にあった……くそっ、人間め……」


 一昨日の昼。90匹の蝙蝠の分身を国中に羽ばたかせ、本体を含めた10匹は穴の中で隠れることにした。

 そんな時だ。穴の中に誰かが魔法を放ってきた。その魔法のせいで分身9匹は焼失、本体も大怪我を負った。

 そのため、国中の90匹を再集合させ、その力を集め、さらに一日休む必要に迫られた。


 ちなみに、攻撃の正体は、フェルイトに来る前に一之丞が魔物の巣と勘違いして放った魔法であるのは当然ヴァルフは知らぬことだし、一之丞もヴァルフと知っていて攻撃したわけではない。


 ヴァルフはそのせいで魔物の侵攻と軍とがぶつかる光景を見逃すかもと思ったが、どういうわけか魔物の侵攻は遅れていたようで、ちょうど間に合った。


「来るぞ――」


 紅夜の王と言われるヴァンパイアの瞳は、蝙蝠の姿になってもその視力を無くすことはない。

 彼の――彼らの無数の瞳は戦場を見つめていた。


 魔物の群れが人間の軍と衝突する。

 だが、人間の軍が動いた。

 火矢を放った。


 草原が瞬きする間に火の海へと変わった。


(愚かな。それで魔物達を止められると思っているのだろうか? 吾輩がコラットの王に授けた呪法により生み出されし魔物。そのようなものでは止まるわけがない)


 ヴァルフの予想通り、魔物の群れは炎を恐れることなく、その数を減らすことを、自らの命を失うことを恐れることなくただ前へ、前へと進んだ。

 迷宮より生み出されし魔物は所詮は瘴気の集まり。その行動は、生前の魔物や冒険者の残滓にすぎず、女神の力により大きく制限されている。そこに少し介入することにより、手駒ができあがるというわけだ。

 あの魔物達は何も考えていない。ただ、ダキャットの首都、フェルイトにたどり着くことのみを目的とした傀儡にすぎない。


 思わぬ魔物の攻勢により、炎が人間の軍の陣地にまで広がった。

 火を恐れない魔物はいないと、人間は言う。

 だが、それは正確には違う。人もまた火を恐れる。

 操っていると思い込んでいた火の暴走は、もう人の手に余るものになる。

 人間の軍が撤退をはじめた。


 あの魔物達は間もなくフェルイトに到達する。

 そして、フェルイトで暴れ狂い、三日後消滅する。


 その後訪れるのはコラットの軍だ。

 人間同士が争う。国が滅ぶ。


 だが、コラットの軍がダキャットに攻めている間に、ヴァルフはコラットに存在する迷宮にも同じ仕掛けを施す。

 ダキャット侵略に軍を動かしてしまったコラットは魔物の進軍を防ぐことがかなわず滅びるだろう。


 なぜ、ヴァルフがコラットとダキャットを潰そうとするのか?

 そこに意味はない。

 彼は人間を手駒のように利用し、人間を滅ぼすことを良しとした魔族だ。


 彼は心の中で笑った。

 これから起こる殺戮を想像して笑った。

 魔物に蹂躙され、人間同士が戦い、さらに魔物に蹂躙される。

 人間の愚かさを彼は笑った。


 だが、彼の笑いが途切れた。


(――! どうした? 何があった!?)


 魔物の群れが急に方向を変えたのだ。

 魔物が全て南へと進路を変えた。


 何だ!?

 何があった!?


(吾輩の呪法をも上回る何かが作用しているというのか!?)


 自分の力に絶対的な自信を持っているヴァルフは驚愕し状況を判断しようとする。


(――っ!!)


 その時、ヴァルフは視線を感じた。

 こちらを誰かが見ている。

 しかもただ見ているのではない、明らかな敵意を持って何者かが見ている。


 ヴァルフはその視線の主を探そうと南の地を、魔物達が進路を変えた、その先を見た。


 彼が見たのは四人の人間だった。


(なんであいつが……あの悪魔カノンの奴隷がいる?)


 最初に見つけたのはトンガリ帽子に仮面をつけた女性――マリナだった。


(マリナといったか。ただの大道芸人という妙な職業を持つだけの女。あいつが何かしたのか?)


 だが、視線の主は彼女ではないとヴァルフは思い直した。

 そして、彼が見たのは、マリナの横にいる白い髪の白狼族だった。

 白狼族は夜目の利く種族だ。

 こちらに気付いてもおかしくはない。

 だが、何故ただの蝙蝠の姿であるヴァルフをこうまで見るのか?


 ヴァルフは考え、そして気付いた。


(――! ハルワタート! 魔王ラリテイの愛玩動物かっ!)


 間違いないとヴァルフは思った。

 彼女なら、自分が蝙蝠の姿に変身できることを知っていると。


(ならば、魔物が進路を変えたのは彼女の仕業か? しかし、どうやって?)


 ハルワタートが教えたのか、横にいるマリナと弱そうな男と、そして小さい女がこちらを見上げる。


 ただ、このままでは自分の計画の支障になると判断し、彼はあの四人の人間を殺すことを決意した。

 そして、ヴァルフの分身は闇夜に消える。

 本体の元に戻るために。

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