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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
フェルイト動乱編

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プロローグ

 ミリは富士山を一心不乱で登っていた。

 運動靴に黒の学生服(冬服)とコートという格好。

 例え冬ではないとはいえ富士登山を舐めているとしか思えない格好に、周りの登山客は訝し気な眼で見て、中には彼女を注意しようとする人もいたが、彼女の出す覇気にあてられてそれも言えなくなる。


 彼女の目は忘れていた憎しみに満ちていた。


 かつて……それこそ千年以上も昔。

 平安時代と呼ばれるその時。

 一人の女性は富士で死ぬ運命にあった。


 彼女は絶世の美女ともてはやされ、多くの男を虜にし、時の人であった帝にも取り入ることに成功した。

 彼女は幸せだと思っていた。全てを手に入れたと思っていた。

 あの男達が来るまで。

 陰陽師を名乗る一団が帝の元を訪れ、彼女の強大な力を用い富士の怒りを鎮めるのだという。

 力を使うとは、簡単にいえば人身御供にするということだ。

 陰陽師は自分達の力ではどうしようもないと悟ると、彼女の命と引き換えに富士の噴火を止めようとしたのだ。


 そして、その陰陽師は大きな力を持っていた。

 いかに帝といえど、敵に回したくない程度に。

 一人の女を差し出せば収まるのなら安いと思える程度に。


 そして、彼女は連れていかれた。

 富士の山の頂きに。

 そこで身を焼き、死ぬはずだった。


 だが、彼女は死ななかった。

 女神――アザワルドの神々によって彼女の身は異世界へと運ばれた。

 そして、彼女は女神から授かった力を使い――魔族として生まれ変わり、数百年の時を生きて、魔王となった。

 ファミリス・ラリテイという名前を自らに付けたのはその時だ。

 12年前、勇者に封印され、魂は日本へと送られた。

 そして、日本人として転生したときは驚いた。

 僅か千年で、この国はこれほど変わったのかと。

 そして、大きくなり、文字が読めるようになり、彼女は知った。

 結局、彼女が異世界に転生したことにより、本当の意味での人身御供としての役目は果たせずに、平安の世に何度も富士が噴火し、多くの犠牲が出たことを。

 そして、もう一つ。

 自分の死が、そして自分の名がかぐや姫という物語として美化されていることを知る。

 女神の力が不完全だったのか、それとも別の因子があったのかはしらないが、その話は日本最古の物語として残っていたのだ。

 もちろん、時代を含め、多くの内容が史実とは大きく異なるが、当時の両親の仕事と言い、ミリ本人が当時の貴族たちに探すように頼んだ財宝の名前などを考えると、間違いなく自分がモデルであるのは間違いない。


 富士へのの使者を、月からの使者と例えたのには苦笑するしかなかった。

 きっと富士が当時の都からは月の出る地だったからだろう。


 それでも、かぐやは――ファミリス・ラリテイは――いや、楠ミリは平和を掴もうとしていた。

 生まれ変わり、兄と出会い、平穏な日々を過ごすうちに、自分をこの平和な世界に追いやってくれた勇者にも感謝した。


 にもかかわらず、彼女の平穏は崩れ去った。

 だから彼女は動いた。


 富士の山頂にたどり着いた彼女は、周囲の目を気にすることなく一本の包丁を取り出すと、何の躊躇いもなく、自らの心臓を貫いた。

 そして、周囲の人は何も気にすることはなくなった。

 その日の朝食は昨日の夕食と同様、とても美味しかった。


「凄いなぁ、魔剣包丁で作るだけでこんなに違うのか」


 あまりに美味しく食べる俺に宿のおばちゃんは気を良くしてくれた。

 そこで、同じ芋と肉の炒め物ではあるが、魔剣包丁を使った物と使ってない物の二つを用意してくれた。

 味の差は歴然だった。


「カノンって本当にただの詐欺師じゃなかったんだな」

「当然だ。我の盟友にして真の主であるカノンにかかればコンニャクを切ることができる斬鉄剣を作ることも容易いわ」

「斬鉄剣がコンニャクを切れないっていうのは第二期の設定なんだけどな」


 俺とマリーナが話していると、ハルとキャロは「コンニャク?」という顔になっている。

 彼女達の想像の中ではおそらくコンニャクはとてつもなく硬い金属になっているのだろう。


 俺達は芋と肉の炒め物を美味しく完食し、今後について話し合うことにした。

 南の国境町への道中、谷の道が落盤しているという情報を北の国境町でキャロが手に入れた。

 昨日もキャロが町の中で情報を仕入れたところ、まだまだ道が通じるには時間がかかるそうだ。


 そのため、暫くはこの町に留まることになりそうだ。


「とりあえず、昨日の夜にも話した通り、冒険者ギルドでハルが魔物討伐の依頼を受けて、経験値稼ぎ、金稼ぎ、あとハルの冒険者ランク上げの一石三鳥作戦で行くことにしよう」


 メインは、キャロの誘惑士のレベル上げだ。

 そもそも、誘惑士のレベルを上げるのに、わざわざ誘惑士のスキルを使ってレベルを上げる必要はない。

 昼間だけ誘惑士にして、魔物を退治して誘惑士のレベルを上げたらいい。


 俺達はもちろん、キャロ本人まで誘惑士=夜に魔物を呼ぶ職業だと認識していたせいで失念していた。

 芋にフォークを突き刺した。

 その衝撃で芋は三つに崩れた。




   ※※※



 町に出ると、昨日と違い、何かあったようで多くの人が騒いでいた。

 時間が違うとはいえ、冒険者の姿が目立つだけでなく、荷物を整えて町から出ようとする行商人の姿も多く見られた。

 厩の前を通ったら、昨日までいっぱいいたはずの馬の半分はいなくなっている。


 何かがあって、町から逃げ出そうとしているようだ。


「何があったんだ?」

「聞いて来ましょうか?」

「頼む」


 キャロが訊ねたので、頼んでみた。

 キャロは小走りで、何か世間話をしている奥様方に近付いて行った。

 当たり前のように、それこそ旧知の間柄のように世間話に入り込んだキャロは数分間話をした後、小走りで帰ってきた。


「昨日の深夜に、冒険者の一人が町に魔物の群れが迫っていると知らせたそうです」

「なるほど……それで商人達は逃げ出して、冒険者は情報を集めるために駆け回っているわけか。魔物が到達するとしたらいつになるんだ?」

「早ければ二日後ですが、国の斥候部隊が真偽を確かめるために出陣し、それが真実であればこの国の軍隊が魔物を退治するために出撃するそうです。なので、この町の人は魔物よりも、その隙をついてコラットが攻めてくることを心配しているそうです」


 なるほどな。

 魔物との戦いなら俺も手助けはしたいが、人間同士の戦いとなると御免被る。


「それに伴い、冒険者ギルドでの魔物討伐の依頼は全てキャンセルで、緊急クエストとしてこの町の防備の依頼になっているようですね」

「そっか。じゃあ、暫くは町の周辺で魔物退治だけにしようか。マリーナも弓の練習をしないといけないしな」


 俺は気楽に言った。

 日本人として、どこかで戦争なんてそう簡単に起きるわけがないと思っていたのかもしれない。

ということで、四章開始です。

ミリの正体はもう大体わかっているように、元異世界人で元魔王という設定です。

ミリの話は一人称で書く予定でしたが、やはりミリの話も三人称で書いていこうと思います。前までの話も今後修正していきます。

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