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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
番外編

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逢えぬはずの友と交わす酒

勤労感謝の日ということで、イヤダイヤダと言いながらドワーフ族長をするドクスコのお話です。

 ドワーフの村。

 その日、俺は名前の刻まれていない鏡石の前で一人佇んでいた。

 やっぱり夜は冷える。

 そろそろ送る頃だと思ったんだが、誰も来る様子はない。

 一度帰って出直すかと思ったところで、そいつがやってきた。


「なんだ、先客がいると思ったらお前だったか、イチノジョウ」

「久しぶり、ドクスコ」


 現れたのはドワーフの族長のドクスコだ。

 彼に会うのもかなり久しぶりだ。

 この日は絶対にここに来ると思っていた。

 ちょうど今日で大森林が燃えて一年だからな。


「来ていたのなら顔くらい出さぬか。とっておきの酒を振舞ってやったものを」

「いや、顔を出そうと思ったんだけど、凄い状態だったからな」


 さっき族長の家に行ったんだけど、宴会状態で家の外まで酒の臭いがした。

 あそこに突入したら、本題を話す前に酔いつぶれてしまうのは目に見えていた。

 ただ友達に会いに来たってだけなら、それでも楽しいかもしれないけれど、今日は用事があったからな。

 きっと飲み終わったらここに来るだろうと思っていた。

 ドクスコは持ってきた酒瓶を墓標の横に置く。


「今日で一年だな」

「そうだな」


 大森林で大規模な火災があった。

 その時、森にいたはずのダークエルフたちが行方不明となった。

 ドクスコはダークエルフたちと親交があり、こうして墓まで作った。

 今日でその火災から一年。

 情に厚いドクスコなら絶対に来ると思った――がさっきの酒盛りの様子を思い出し、酔っぱらって忘れるんじゃないかと思ったが、ちゃんと来たようだ。

 ドクスコが墓標の前で手を合わせる。

 俺は黙ってそれが終わるのを待った。

 そして――


「それで、用事はなんだ?」

「ドクスコ、ちょっと付き合ってくれ」

「……? あぁ……しかし、これは以前とは逆だな」

「ああ、そうだな」


 この前来たときは、ドクスコに「ちょっと付き合ってくれ」と言われてここに案内された。

 確かに逆だ。


「それで、どこに行くんだ?」

「これに乗っていくが大丈夫か?」


 と言って俺はアイテムバッグから乗り物を取り出す。


「これは?」

「ダイジロウさんが作ってくれた小型の飛空艇だ」


 大きさはマンホールの蓋を二倍にしたくらいで、キックボードのような持ち手がある。

 ダイジロウさんから譲り受けた飛空艇の中にいくつかあったので、そのうちの一つを借りて来た。


「無事にダイジロウに会えたのか。それはよかった。ところで、これをちょっと分解していいか?」

「ダメに決まってるだろ。行くぞ。あんまり揺れないと思うが、酔ったりはしないよな?」

「ふん、ドワーフは酒には酔っても乗り物には酔わんわい」


 頼もしいことだ。

 ということで、俺が運転し、後ろからドクスコが掴まる形で目的地に向かった。

 移動すること三十分。

 湖の上に停泊している飛空艇にやってきた。


「これはダイジロウの飛空艇か?」

「ええ、貰いまして」

「凄いものを貰ったな」


 うん、本当に助かっている。

 俺は小型の飛空艇で湖の上に泊っている飛空艇に着地した。

 そこで、ハルとキャロが待っていた。


「紹介するよ。俺の妻のハルとキャロだ」

「初めまして、ハルワタートと申します。ご主人様がお世話になったそうでお会いできてうれしいです」

「キャロルといいます」

「おお、イチノジョウの妻か。儂にも妻が……いたようないないような」

「それは幻覚だ」


 まだアブサンを飲んで妻の幻覚を見ているのだろうか?

 冗談だと思うが。


「それで、嫁さんを紹介するために連れて来たのか?」

「いいや、そうじゃない。こっちに来てくれ」


 俺はそう言って、飛空艇の中に案内した。

 といっても、本当に中に入れたのではない。


「ここは――飛空艇の中なのかっ!?」


 ドクスコが驚くのも無理はない。

 飛空艇の中に入ったと思ったら、突然知らない場所にいたのだから。

 許可シールはさっき、小型の飛空艇で移動しているときにこっそり貼っておいた。


「ここはアイテムバッグの中のような異次元というか異空間というか、そういう場所だ」

「なるほど、ダイジロウの研究の成果か」


 ダイジロウさんが異世界に行く方法を研究していることを知っていたドクスコは、そう解釈してすんなり受け入れた。

 初めての体験に、ドクスコは目を輝かせて周囲を見回し、そして固まった。


 そこにいる彼女たちに気付いたから。


「……生きて……おったのか」


 ドクスコが涙を流す。

 目の前にいたのは、彼が死んだと思っていたダークエルフたちだったから。


「ああ、久しぶりだな、ドクスコ」

「バカもん、生きていたなら連絡の一つもよこさんか」

「それができる状況にないのはお前もわかるだろ? だが、心配をかけた。一年前、その方に命を救われてな。詳しくは説明できないのだが」

「せんでいい。お前達が生きていただけで儂は満足だ」


 そして、ドクスコは俺を見て言った。


「イチノジョウ、酒だ! 今日はとことん飲みまくるぞ!」

「ああ、そういうと思って、清酒を樽で用意してるよ。ピオニア――うちの醸造長特製の大吟醸だ。だが、ほどほどにな。夜明け前には村に戻らないとさすがにみんな心配するだろ?」

「バカ言え、今日といったらこれから二十四時間に決まっているだろうが! 鉱物を掘るため二、三日連絡もせずに村を出ることがある。奴らもその程度じゃ心配せんわ!」


 こりゃ樽一つで足りないかもしれないな。

 でも、今日くらいはいいだろう。

 積もる話もあるだろう。


 俺はそう言って、少し席を立ち、近くにいたミリのところに向かった。


「おにい、話してよかったの? ここのことは秘密なんでしょ?」

「一応、コショマーレ様には許可を貰ったぞ。ドクスコだけって条件でな。本当はダークエルフたちを元の大森林に返してやりたいが」

「それは流石にダメでしょ。ここのことは世間に知られるわけにはいかないし」

「わかってるよ。まぁ、いまのところダークエルフたちも不満はないみたいだし……でもなぁ」


 俺はそう言って、ミリがもたれているそれを見た。

 そこにあったのは、俺の銅像――の試作品だ。

 本当はダークエルフがここに来た一周年を記念して用意しようとしていたのだが、俺を的確に表現できないということで苦労していた。

 そこで、リリアナが「だったらドワーフに頼んで作ってもらえないでしょうか? ドクスコさんならきっと上手に作ってくれますよ!」とか言い出して、しかもその依頼を俺に出させようとした。

 自分の銅像の制作を一年ぶりに会う知り合いに頼むってどんなメンタルだよ! って断ったのだが、その後話が進み、ドクスコをここに呼ぶ流れになってしまった。

 彼にはダークエルフに会わせたいって思っていた。

 一年前は教会の動きがあって難しかったが、あれから状況も変わり、他の女神様も協力してくれるので彼を連れて来られたわけだ。

 ドクスコの奴、これから俺の銅像制作を手伝わされると知ったらどんな顔をするだろうか?


 でも――


 嬉しそうに酒を飲んでいる彼を見ると、連れてきてよかったと思う。

ドクスコの話が漫画で出たので、本編では回収できなかった後日談です


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