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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
番外編

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名前は重要

世界設定の解説回です。

 マイワールド。

 引きこもりスキルにより、創造できるようになった、本来なら俺が引きこもっていろんなことをするためだけの世界。

 そのはずなのだが、ホムンクルス三人が管理し、ダークエルフたちが住み、ナナワットや黒い鶏、養殖ジュエルタートルや海の魚、さらに今では牛や羊などの家畜、果樹を実らせたりするための蜂まで暮らしている。

 もはや、引きこもりの世界ではなく、一つの独自の文化を持つ世界として成り立つこの世界だったが――


「あぁ、イチノジョウさん。すみませんが飲み物を用意してくれますか? ワインで結構ですので」

「スケくん、私はラッシーがいいな。ライブラが前に持ってきてくれたカレーもあったら嬉しい」


 ……現在は魔神様たちが来て仕事をしている。

 なんでも、いつも同じ場所で仕事をするより、たまには別の場所で仕事をした方が気分転換になるらしい。

 いや、本当にこの人たちは何をしているんだろうか?

 前までこっちは命を賭けて戦っていたというのに。


 まぁ、メティアス様たちの思惑も今では理解しているし彼女たちの仕事はこの世界の存続のために必要なことなのも理解している。

 それに、この世界は元々メティアス様が創り出した空間で、無職にスキルを使う時、俺に有効的に使ってもらうためにシステムに組み込んだものらしい。なので、彼女が来ることを拒むのは流石に失礼だ。


「はい、ワインとラッシーです。カレーはもうありません。前にミネルヴァ様が食べた物で最後です」

「えぇ、そんな……死にたい」

「カレーがないくらいで死なないでください」


 俺は淡々と死にたい発言を繰り返すミネルヴァ様に告げた。

 それにしても、なんでメティアス様は俺にこんな雑用を押し付けようとするのだろうか?

 使用人なら、今まで通りピオニアかニーテに頼めばいいと思うのだが。


「若い男を思うがままに命令するというのは意外と気持ちのいいものですよ?」

「……仮にも神様がそんなことぶっちゃけないでください」

「そうはいいますが、イチノジョウさんだって、奴隷だったハルワタートさんやキャロルさんにあれこれお願いするのは気持ちがよかったのではありませんか?」

「――っ!」


 いやいや、違う、俺とハルたちの関係はそんなんじゃない。

 それに、夜のベッドだと、むしろハルやキャロの方が俺におねだりを……


「イチノジョウさん、魔神も女神と同様心を読むことができるのを忘れないで下さいね」

「……っ!」


 やってしまった。

 俺はそう思いながら、芝生の上に置かれたテーブル、そこに載っている大量の書類を見る。


「……ジョージ、男性……東京都……って履歴書? 」


 顔写真付きの履歴書みたいなものが置かれていた。

 長所や特技までしっかり埋まっている。

 さらに、過労で死亡予定って……未来のことまで書いてある。


「見ないで下さい、これはこれからこちらの世界に転移してくる人間の候補者リストです。女神が定めた場所、時間で死んだときに死んだ者の中から選ばれます」

「あぁ、そういえばミリは計算して、どこでいつ死んだらこっちの世界に転移できるか予測して、こっちの世界に転移したって言ってました」

「全く、そんなことをするのは彼女くらいですよ」


 メティアス様はそう言ってため息をついた。


「もっとも、私がその計算式を考え、封印されている間も滞りなくこちらの世界に転移できるシステムを構築したのですがね。ただ、私が現場復帰した以上、よりよい世界になるように転移してくる人間、さらに地球に転移させる魂は厳選しないといけません」

「地球に転移させる魂って、地球に転移したらその人もチートとかもらってるんですか?」

「それは地球の神様の領分だからね。でも、魂だから記憶は特別な処置をしないと引き継げないし、せいぜいお金持ちの家に生まれてくるとかそんなことくらいしかできないんじゃないかな?」


 そう言って、ミネルヴァ様はストローでラッシーを飲む。

 残りが少なくなっていたので、ズズズズズと騒音をまき散らしながら。

 あらかじめ用意していたおかわりを、アイテムバッグから出して、テーブルに置いた。

 なるほど、こっちの世界に来る候補者。

 ジョージってことは、外国人? 日本のタレントにもいるよな?

 ……いや、待てよ、女神様のことだ。

 ジョージではなく、丈二や譲司って可能性の方が高い。

 転移してくる人間は、何故か本名ではなく、真名の方が優先されるからな。


「イチノジョウさん、半分正解で半分間違っています。本名より真名を優先するのではなく、本名を絶対に採用しないだけなのです」

「え?」


 本名を採用しない?

 確かに俺、ミリ、それにダイジロウさん。全員、ステータスを見ると本名とは異なる名前で登録されている。

 鈴木は?

 あの元DT勇者(この前、キャンシーと結婚した)鈴木は?

 ……あいつは本名で……いや、そういえばあいつのこっちでの名前はコータだった。

 「こうた」ではなく、「コータ」。

 「じょうじ」ではなく「ジョージ」と一緒だ。

 そして、ミリの前世、カグヤもまた、こちらの世界では別の名で通っていた。

 魔王ファミリス・ラリテイ。


「イチノジョウさん。こちらの世界に転移した人間が、地球ではどのような扱いになっているかご存知ですか?」

「いなかったことになっているんですよね?」


 それは死とは違う。

 存在そのものの消失。

 書類上どころか、写真からもその姿は消える。そして、人々の記憶からも。

 不自然な点は残るだろうが、その不自然な点について気付く者はいない。


「それは真の名を奪っているからです。イチノスケ、これはあちらの世界のあなたの名前であり、あなたの存在そのものです。その名を奪うことで、あなたの世界からあなたがいたという痕跡を奪うことができます。完全に。そして、こちらの世界で新たな名前を与えることにより、こちらの世界にあなたという存在を定着させるのです」

「じゃあ、真里菜だけ。あいつだけ、名前があちらの世界の名前と同じだったのは、あいつが、いつかあちらの世界に戻るのを知っていたから?」


 俺がそう尋ねると、何故か二柱の魔神は盛大な溜息をついた。

 え?


「スケくん、マリナちゃんを転移させた担当女神って誰だっけ?」

「……え?」


 真里菜を転生させた女神……それを聞いて俺は思い出す。

 そう、彼女の願いを聞かずに大道芸人なんてふざけた職業にし、俺には本来ひとつしか与えられないはずの天恵の二つ目を与えた張本人――いや、張本神。


「トレールール様、まさか――」

「そう、別の名前を付け忘れてたのよ。本当に。一応、あちらの世界の存在の封印はできたけど。おかげでマリナちゃん、こっちの世界で能力が定着しなくてね。そのせいでステータスも低くて、スキルもほとんど覚えられなくて……」


 確かに真里菜のステータス、かなり低かった。

 確か、最初に出会ったときに覚えていたスキルも、大道芸、器用さアップ、縄抜けの三つだけだったはずだ。

 しかも、迷宮を踏破してもスキルを全く覚えられず、挙句の果てにタワシに愛されし者などという称号まで貰っていた。


「そこで、テトはマリナさんにマリーナという別の名前を与える運命を生み出しました。もっとも、急ごしらえの設定なものだから、二つの名前が簡単にまじりあうことはなく、二重人格のような状態になってしまいました。まぁ、その名前も徐々にまじりあい、最後には一つになっていましたよ」


 そう言って、メティアス様はさっき俺が見ていた書類を見て、何か判を押した。

 マリナのあれって、思い込みによる痛い中二病設定じゃなくて、本気で別人格だったのか。


「それと、名前にはもう一つ重要な意味がありまして。転移者が元の世界に戻るとき、こちらの世界での名前を封じることでスキルやステータスを封じることがあります。それを逆手に取り、かのファミリス・ラリテイさんはその名前の二文字、ミリという名前に自分のすべての力を継承させて転生しました。結果、記憶、能力すべてを継承し、あなたの妹として生まれ変わったのです。このあたりはダイジロウさんの入れ知恵ですが」


 そんな裏技があったのか。

 ……うわ、本当に名前って大事なんだな。


「でも、だから心配よね?」


 ミネルヴァ様が二杯目のラッシーを飲み終えて言った。


「え?」

「だって、マリーナちゃんとマリナちゃんの名前ってかなり混じって一つになりかけてたでしょ? だから、マリーナちゃんの人格、もしかして――」


    ※※※


「くしゅん」

『どうした、マリナよ。ファンの誰かが噂でもしてるのか?』


 突然、声を掛けられた私――桜真里菜は慣れた感じで無言のまま心の中でそれに応じた。


『もう、マリーナ。まだファンなんていないよ』

『そうは言うが、この前テレビの取材が来ていたではないか? 新進気鋭の美人大道芸人マリーナの取材だったか?』

『緊張して噛み噛みで、喋ったこと九割以上使ってもらえなかったけどね。あと、美人とか言われてないよ』


 私は心の中でそう言って苦笑する。

 周りの人から見たら、突然女の子が思い出し笑いをしているように見えているだろうか?

 マリーナの声が突然聞こえるようになったのは、日本に戻って半年くらい経ってからのことだ。

 最初は慣れない場所でのストリートパフォーマンスのストレスから聞こえてくる幻聴かと思ったけれど、どうやら本当にマリーナらしい。

 前みたいに私に代わって大道芸をしてくれることはないけれど、こうして話し相手にはなってくれる。

 本当に心強い友達だ。


『でも、時々考えると。本当にマリーナなのかな? もしかして、イマジナリーフレンド?』

『かもしれぬな。まぁ、よいではないか。イマジナリーでも、本物でも、我は我なのだから』

『うん、そうだね。じゃ、次のパフォーマンス、マリーナに負けないくらい頑張るから見ていてね』


 私はそう言って、日曜日の公園を、大荷物を背負って歩いていった。

本編で説明しきれなかった設定をいまさら解説。

無人島も更新したいな

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