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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
無職の英雄編

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新たな旅立ちのエピローグ

最終話その2です

 真里菜が去ってから一か月が過ぎた。

 俺たちはというと、結局やることは変わらない。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【ヒモスキル:コバンザメを取得した】

【ヒモスキル:MP代用を取得した】

 ヒモのレベルが上がった。

 俺がヒモになったのにはある理由がある。

 せっかく無職に戻れたんだし、職業安定所スキルを使ってみようと思ったところ、


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 転職する職業を選んでください。

(選択しない場合、五分後に自動的に選択されます)


詐欺師:LV1

映画泥棒:LV1

ヒモ:LV1

湖賊:LV1

辻斬り犯:LV7

―――――――――――――――――――――――――――――――


 いやぁ、まさか職業安定所を使ったところ、ヒモ以外全員犯罪職になるとは思いもしなかった。

 ていうか、映画泥棒ってそんな職業あるのか?

 絶対に未実装の職業だろ、この世界に映画なんてそもそも存在しないし。

 あと、すでにレベルを上げたことがある辻斬り犯は、元のレベルのまま表示されることがわかった。

 もしも職業安定所スキルで魔王に転職できることになったら、最初からレベル300になるのか、それとも職業は奪われたのだからレベル1からやり直しになるのかはわからないが。

 まぁ、嘆いても仕方がない。

 せっかくヒモになったんだし、何か有用なスキルがないかと思っていたのだが、残念なことに、覚えるスキルを見て、がっかりしてばかりだった。

 今回覚えたふたつのスキルにしてもそうだ。

 俺は改めてスキルを確認する。


―――――――――――――――――――――――――――――――

コバンザメ:その他スキル【ヒモレベル18】

パートナーが手に入れた経験値のうち一割を自分の経験値として取得できる。

その分、パートナーが取得する経験値は減少する。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 コバンザメの説明を見て俺はため息をつき、


―――――――――――――――――――――――――――――――

MP代用:その他スキル【ヒモレベル20】

MPを使用するとき、その半分をパートナーに負担させる。

パートナーのMPが足りない場合は効果が発動しない。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 MP代用を見てこれ以上ため息が出ないくらい息を吐ききっていた。

「予想していたが、ろくなスキルが手に入らないな、ヒモ」

 飛空艇に襲い掛かってきた怪鳥の群れのうち、俺の見える範囲の敵を魔法で撃ち落としてレベルが上がった。しかし、レベルは上がっても、ヒモの評価は上がるどころか下がる一方だった。

 ヒモスキルは、まずレベル2でパートナーを設定するところから始める。このパートナーは一度設定すると二十四時間変更できない。

 そこからレベル15になるまで、「おこぼれドロップ」「幸せ還元」のふたつを取得した。

「おこぼれドロップ」というスキルは、迷宮内でパートナーの女性が倒したドロップアイテムのうち、一部を自分のものとして専用のインベントリに保存できる。今覚えた「コバンザメ」や「MP代用」も似たようにパートナーの力に大きく頼ったスキルばかりだ。

 ちなみに、パートナーは異性だけでなく同性でも可能らしい。

 とにかく、クズみたいなスキルだ。

「でも、いい職業だと思います。私は本当にご主人様の奴隷で幸せです」

 ハルがスラッシュで同じく怪鳥を切り落としながら、顔を赤らめて言う。

 いつも表情を変えないハルにしては珍しい変化だ。

「イチノ様、効果が強すぎるのでは?」

「かもしれないな」

 スキル、「幸せ還元」の効果だろう。

 このスキルは、ヒモスキルを利用して女性からおこぼれをもらったりMPをもらったりすると、その見返りとしてパートナーを幸せな気持ちにさせるという効果がある。

 副作用や中毒性はないという説明だったが、この様子だと、幸せ還元も封印したほうがよさそうだ。

「まったく、本当に締まりのないパーティよね。これから世界の最難関、地獄の窯迷宮の攻略だって言うのに」

 ミリが呆れたように言い、闇魔法で剣を生み出して飛んでくる怪鳥たちを切り落としていく。

 とうとう、怪鳥たちは俺を襲うのを諦め、西の空に逃げていった。

 これから向かうのは北大陸の巨大火山の麓にある地獄の窯と呼ばれる迷宮だ。

 俺たちは世界中を巡り、様々な迷宮の攻略をしたり、特産品を買いあさったり、おいしい物を食べたりと旅を続けていた。

 ダイジロウさんから借りた飛空艇のおかげで、旅も順調である。

 乗組員も貸してくれたし。

「フリオ、なんで俺たちがこんなことをしないといけないんだ」

「仕方ないだろ、スッチーノ。お前が投資詐欺になんてあって全財産失ったんだから」

 スッチーノとフリオは文句を言いながらも、給料を渡せばしっかり働いてくれているし、

「…………ふふふ、尊い、尊い」

 ミルキーも、日本産のBL本(シーナ三号によりアザワルド共通語翻訳済み)を渡したところ必要な時にはしっかり働いてくれている。今は読書に夢中のようだが。

 それに――

「いやぁ、助かったよ、ジョー。お前が通りかかってくれなかったら本当に危なかったよ」

「うん、助かったよ、ジョー。ふたりで飢え死ぬところだったね」

 一応、ジョフレとエリーズも手伝ってくれていた。

 こいつら、ケンタウロスの背中に乗って、泳いで北大陸を目指していたのだが、肝心の食糧をすべてケンタウロスに食べられてしまい、飢え死に寸前のところを俺たちが飛空艇で見つけた。

 なに無茶なことをやっているんだと思ったが、西大陸の海岸から三百キロを進み、北大陸まで残り百キロのところまで泳いでいたのも事実だ。

 食料が十分だったら――いや、俺たちが助けなかったとしてもケンタウロスだけだったら北大陸まで泳ぎ切っていただろう。

 さすがは聖獣だ。

「そういや、こいつの正体、聖獣という以外、よくわからないままだったな」

 俺はそう言って、トマトをムシャムシャと食べるケンタウロスを見た。

 メティアス様を封印することができる器となり、自分の体以上の野菜を食べる。

 黄金樹とも呼応していた。

 女神様たちも、この聖獣の存在は知っていたし、封印するために利用もしたが、そもそも聖獣がどうやって生まれたのかはわかっていないらしい。

 というのも、精霊たちと同様、女神様や人間たちがこの世界に来るより遥かに前からこの世界にいたそうだから。

 こいつが食べた職奪の宝石についても、ライブラ様が調べた結果、ケンタウロスに完全に取り込まれていて、糞として排出されることはないそうだ。

 もしかしたら、このケンタウロスは俺が思っているよりも遥かに凄い動物なのかもしれない。

 が、トマトを食べ終わり、トウモロコシを芯ごと食べるケンタウロスの姿を見たら、そんなことを考えるのが馬鹿らしくなってきた。

 ケンタウロスはケンタウロスという生き物なのだと思っておこう。

「ジョフレの兄貴、目的の町が見えてきましたよ」

 フリオが声をかけた。

 ジョフレたちは北大陸の適当な町で下ろしてほしいと言ったので、ダイジロウさんが着船許可を取っている町に立ち寄ることになった。

「ジョフレ、エリーズ、本当にここでいいのか? お前たちの指名手配は解除されたんだ。必要ならフロアランスに送るぞ?」

「ここでいいさ。もともと、あの町に用事があったんだ。約束しているやつがいてな」

「一緒に旅をすることになってるの。ぜひ私たちと一緒に旅がしたいって言ってくれてね。旅は道連れ世は情けなんだよ」

 へぇ、こんなふたりと一緒に旅をしたいなんて、奇特な奴もいたもんだ。

 一体どんな奴かは気になるが、関わったら厄介なことになるに決まっているので、これ以上は聞かないことにした。

 飛空艇を町の近くに着地させて、ふたりを下ろす。

「じゃあな、元気でやれよ!」

 俺はふたりに手を振った。

「おう、またなジョー!」

「またね、ジョー!」

 ジョフレとエリーズは、ケンタウロスにまたがるとさっそうと去っていった。

 名残惜しさはまるでない。

 というより、明日また会うつもりじゃないかというくらいの気軽さだ。

 ただ、確かにふたりは真里菜とは違い、この世界にいるのだ。

 あれだけ騒がしいふたりのことだから、探そうと思えばすぐに見つけられるだろうし、今回のようにばったり出くわすこともあるだろう。

 だから、俺も別れの言葉は告げなかった。

 ふたりを下ろし、俺たちは再度飛空艇に乗りこみ、地獄の窯迷宮を目指す。

「そういえば、イチノ様。メティアス様から無職のスキルはこれ以上用意していないと伺ったのですよね? なにか決まった職業に変えるつもりはないのですか?」

「職業安定所スキルが使えなくなるという欠点はありますが、それ以上にご主人様のステータスは大幅に底上げされます。まずは剣聖に転職し、アザワルドの長い歴史において、ただひとりはじまりの剣士しか到達できなかったと言われる剣帝を目指すのはいかがでしょうか?」

「おにいが望むなら、女神になるときに捨てた魔王の力を分けてあげてもいいよ」

「ミリには前に言っただろ? 魔王の力は強すぎるから、あの時の戦いが終わったら最初から封印するつもりだったって。それに、剣帝を目指すだけなら、無職のままでもできる。職業安定所でいろんな職業のレベルを上げながら、自分がやりたいことを見つけるつもりだ」

「まるで、仕事を探すのに疲れて就職をあきらめたニートみたいなセリフよね。おにい、無職からニートに職業変えるつもり?」

「誰がニートだ。一応働いているぞ!」

 立ち寄った町で鍛冶スキルで金属細工を作ってキャロに売ってもらったり、狩った魔物をハルに頼んで冒険者ギルドで売ってもらったりしている。

 おかげで、巷ではハルとキャロの評判は独り歩きを始め、伝説の細工師、白狼族の英雄ともてはやされている。俺の知名度は皆無に等しいのが残念だが。

 もっとも、その稼いだ金の大半は魔石の購入費用に消えている。

 飛空艇の燃料としても使っているが、それ以上に魔石を女神様に奉納して、少しでも瘴気を減らしている。

 その時、俺のスマホが鳴った。

 ダイジロウさんが改造して、どこでも通話できるようにしてくれたんだ。もっともスマホを持っているのは俺とミリとダイジロウさんの三人だけなので、使用目的は今まで通りハルやキャロやミリのかわいい写真を撮って、俺の嫁と妹が可愛すぎるとひとり満足しているだけだったが。

 通話相手はダイジロウさんだった。

「ダイジロウさん、楠です」

『楠君。いま北大陸の地獄の窯に向かっているところだったな』

「ええ、そうです」

 俺は頷きながら、ミリが聞き耳を立てていたので、皆にも聞こえるように音声をスピーカーにした。

『行方不明になっていたタルウィの居場所がわかった』

「タルウィの? 無事だったんですか」

『ああ、いまは東大陸の南、トドロス王国の東部にいるらしい。東大陸はもともと奴隷と獣人の差別の激しい大陸だったが、奴隷の獣人たちを扇動し、僅か二か月足らずで獣人至上主義の国を建国した。いやはや、大したカリスマだ』

 マジか……獣人至上主義って、つまりは人間に対する差別が行われる国ってことか。

 ハルが俺のことをご主人様だなんて呼んだら、「なんで人間族(ヒューム)が白狼族の主人なんだ!」といちゃもんをつけられたうえで襲われそうな国だな。

 絶対に近付かないようにしよう。

『そこで、緊急の要件なのだが、君たちはその新しい国の視察に行ってほしい』

「え? なんで俺たちが? ていうか、俺たちがタルウィの国に行ったら問題になりませんか? ただでさえあいつには嫌われているのに。戦いになりますよ」

『彼女は君との戦いを望んでいるのかもしれないな。個人としての戦いでは負けたが、今度は群れとしての戦いを君に挑むのだろう。断れない切り札も用意されている』

「断れない切り札?」

『ハルワタート――彼女の母親もまたその国にいるらしい』

 その言葉に俺は驚愕した。

「……お母さんが」

 ハルが驚き呟く。

 そうだ、ハルの父親は処刑になったと聞かされたが、母親は終身刑となりどこかで収監されていると聞いたことがある。

 その場所はハルにもわからなかったそうだが、タルウィが助け出したのか?

 俺たちと戦うためか、それとも偶然かはわからないが。

「ダイジロウさん、ありがとうございます。行ってみます!」

『ああ。よろしく頼む。そこからの詳しい航路計画はメールで送るからその通りに航行してほしい。通過する国での航行許可はこちらで取っておこう』

 こりゃ、地獄の窯迷宮に行っている場合じゃなさそうだ。

「フリオ、スッチーノ、ミルキー、方向転換! 南東、東大陸方向に舵を取れ」

 事情を知らないフリオとスッチーノは「急になんなんだ」と大慌てで飛空艇の方向を調整する。

「お待ちください、ご主人様。私のためにご主人様たちを危険を晒すわけには――」

 ハルは大きな声で俺に止めるように言う。

 母親のことはなによりも心配だが、それ以上に俺の身を案じているようだ。

「ハルのためだけじゃないさ。やることが見つかったんだ、全力で行かせてもらう」

「そういうことです、ハルさん。では、キャロはこのメールの地図をシーナさんに頼んで印刷してもらってきます」

 キャロはそう言って俺からスマホを受け取ると、俺が開けたマイワールドへの扉に入っていった。

「ま、ハルワの母親とは顔見知りだし、会っておかないといけないわね」

 ミリはそう言ってハルにウィンクをする。

「ご主人様、ミリ様……ありがとうございます」

 ハルが深く頭を下げた。

「なぁに、結婚前の挨拶だと思えばこのくらい当然さ」

 俺がそう言うと、

「結婚……私とご主人様の結婚……」

 とハルが珍しく動揺し、

「ちょっと、おにい! まだ私は結婚を認めてないわよ! 結婚するならまずは私を倒してからいきなさい!」

 とミリが意味のわからないことを言い出し、

「イチノ様が結婚について語っている気がして戻ってきました。当然キャロも一緒に結婚するのですよね」

 とキャロが女の勘を最大限に働かせ、拠点帰還(ホームリターン)で俺のところに戻ってきた。

「ちょっと、皆さん、飛空艇の上で暴れないでください」

「船が落ちるだろうがっ!」

「……四人がもしも全員美少年だったら……ぶっ……」

 フリオとスッチーノが俺たちを注意し、とうとうミルキーはシチュエーションを勝手に改造して鼻血を出し始めた。

 まったく、緊急時だというのに、この騒がしさはいったいなんなんだ?

 思えば、女神様に導かれてこの世界に来たときから、ずっと俺は騒ぎの中にいた。

 フロアランスでハルと奴隷商館で出会い、ジョフレ、エリーズに絡まれ、ノルンさんを山賊から助け、キャロと一緒に幸せを追及をし、ひたむきに日本に戻ろうとする真里菜に同行し、実は魔王の生まれ変わりだとか言い出すミリと再会し、ホムンクルスたちとともにマイワールドを育て、ダークエルフたちからは救世主扱いされ、勇者や魔神と戦った。

 一年足らずの出来事とは思えない。

 そして、その騒ぎはこれからも続くのだろう。


 でも、大丈夫だと確信できる。

 俺が仲間とともに成長する限り、なんでもできると信じているから。

 まぁ、無職だけはしばらくは辞めることはなさそうだけどな。

 無職だからこそ、自由に旅をできる。


 飛空艇は俺たちを乗せて、さらなる冒険へと進んでいく。

5年以上もの長期連載となりましたが、ご愛読ありがとうございました。

ここまで続けられたのも、読者の皆様のお陰です。

イチノジョウを主人公とした物語は、これにて完全完結となります。

ありがとうございました。


なお、コミカライズの方はまだ連載中ですので、もしよかったら御覧になってください。


あと、最終13巻は5月19日発売です

おまけとして、日本に帰ったあとの真里菜のお話があります。

また、表紙が【とある理由】で、ハルとキャロのウェディングドレスとなっています。

何故、こんな服なのかはまだ言えません(丸わかりですね)。

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