魔王の一撃
「はぁ…………はぁ…………次の魔物は……まだ来ないのか」
さすがにこうも戦いが続くと疲れがたまってくる。
ハルに尋ねながら、俺は少しずつ呼吸を整える。
スタミナヒールをかけるころ合いか?
いや、その前にハルにスタミナヒールをかけるのが先かもしれない。
敵にとどめを刺さずに足止めをするという戦闘スタイルは、普通に戦うよりも体力の消費が激しい。
「……いえ……もう一匹、ブラックタイガーが来ています」
ハルの言う通り、黒い虎が落ちているドロップアイテムをよけて移動し、近付いてきた。
俺はその虎目掛けて、プチファイヤを無詠唱で放つ。
魔王のレベルが上がり、無詠唱でも低ランクの魔法なら威力を変えずに放つことができるようになった。
小さな火の玉が、ブラックタイガーにぶつかると同時に巨大な火柱へと変貌した。
ただのプチファイヤなのに、魔攻値が上がり過ぎたせいで、とんでもない威力になっている。
「これはメガファイヤではない、プチファイヤだ」
俺は冗談で言った。
そんなつまらない冗談を言ってしまうくらい、俺は疲れているのだ。
もちろん、ブラックタイガーは俺の言葉を聞く前に絶命し、黒い虎の毛皮と魔石を残して消滅している。
【イチノジョウのレベルが上がった】
何度聞いたかわからないレベルアップ通知。
だが、これで魔王のレベルは299まで上がった。
「レベルが299、あと1レベルだ」
今日がちょうどミリとの約束の五日目だ。
予定の一週間より二日も早く終わりそうだ。
今朝までの情報では、ベラスラでの魔物の発生は小康状態になりつつあるという。だが、さらに遠い、ゴマキ山のダンジョンはかなり魔物が溢れ、近くに住んでいた村人たちは避難を始めたらしい。
同様のことは世界中で起こっている。
もう休んでいる時間はあまりない。
ラストスパートだ。
浄化で汗や埃の汚れを綺麗に洗い落とし、スタミナヒールで体力を回復させた。
「ハル、魔物はまだ来ないのか?」
「はい、まだ来ませんね」
彼女はその嗅覚で、気配探知以上に魔物の出現を把握できる。
本来なら、俺が経験値を独り占めせず、ハルとキャロに経験値を分けたいのだが。
「悪いな、ハル、キャロ。この埋め合わせは必ず。そうだ、この戦いが終わったらどこか行きたいところがあるか?」
「行きたいところですか? そうですね。東大陸の無限迷宮という最も広い迷宮……いえ、北大陸にある地獄迷宮という、世界で最も難易度が高いと言われている迷宮にも行きたいですね」
「いいですね、北大陸。あの辺りは貴金属や宝石の採石場もあるので、安く仕入れられそうです」
ちょっとしたリゾート旅行を提案したつもりだったのだが、ハルとキャロは戦闘と商売のことしか考えていないのか。
まぁ、その方が俺たちらしい。
とりあえずスタミナヒールをかけ、体調を整える。
「ご主人様、朗報です。近くに湧きまし……これは……魔竜ではありません」
この階層に現れたのに魔竜じゃない?
ということは、ここに来てレア種の出現か。
よしっと俺は気合を入れる。
レア種は経験値が多い。もしかしたらこれでレベル300達成できるかもしれない。
確か、この階層のレア種は、ケルベロドラゴン。三本首が生えた、ゴマキ村のボスのヒドュラみたいな魔物だったはずだ。
これまで何度か倒してきて、レアメダルを手に入れていた。
しかも火、闇、雷の耐性が高い。
ここは氷のアイスで一発で仕留めるべきだろうな。
と思った時だった。
近付いてきたのは、確かに魔竜ではなかった。
だが、ケルベロドラゴンでもない。
首が三本ではなく、八本あったからだ。
「これってケルベロドラゴンの変異種か?」
「イチノ様、それはレジェンド種です」
「レジェンド種?」
キャロが言うには、レア種とひとくくりに言っても、その種類は、単純にレア種、エピック種、レジェンド種と三種類に分かれるらしい。
レジェンド種は他の二種類に比べて出現率が遥かに低く、その分ドロップアイテムは豪華。
そして、他の二種類よりはるかに強いという。
「ご主人様、お気を付けください。名称こそ不明ですが、威圧感からして、魔王竜よりも遥かに強い竜です」
ハルが俺に警戒を促す。
そんなの言われなくてもわかる。
こいつは化け物だ。
名も無き竜の王だ。
「よし、試してみるか」
これまで、迷宮での戦いはメガファイヤやメガアイスなど、メガシリーズまでしか使ってこなかったし、レベル200になってからはそのメガシリーズも封印してきた。
だから、俺はいまいちわからなかった。
果たして、魔王レベル299になったいま、俺の魔法はどの程度まで威力が上がっているのか?
「ハル、キャロ、なにがあるかわからないから気を付けてくれ!」
俺は王笏を構え、魔力を集める。
目の前の名も無き竜の王は、八本の首を一か所に集め、それぞれの口に魔力を集めた。
放ったのは、名も無き竜の王のほうが早かった。
八つの魔力の塊が一つに合わさり、レーザービームのように俺に迫ってきた。
だが。
「世界の始動」
遅れることコンマ数秒、俺がそう叫んだ直後、まばゆい光と共に耳がキーンとなり、静寂が訪れた。
無音が止まったと思ったら、ガラガラと何かが崩れる音が聞こえてくる。
【イチノジョウのレベルが上がった】
レベルアップのメッセージとともに、レベル300のスキルを覚え、再度魔王のレベルがカンスト状態になったことがわかった。
だが、そんなのどうでもいい。
「イ……イチノ様、キャロもレベルが上がりました。つまり、魔王のレベルが300になったということで……よろしいのですよね?」
「……おめでとうございます、ご主人様。ですが、これは……地上は大丈夫なのでしょうか?」
キャロだけでなく、ハルも動揺が隠せないようだ。
当たり前だ。
目の前の空間が消失していた。
直径五百メートルくらいの大穴が開いている。
「なんだ、迷宮の壁って何をしても壊れないんじゃなかったのか?」
「はい、迷宮の壁が崩れたという記録は、長い歴史を紐解いても残っていません」
壁はおろか、天井も床も根こそぎ消失している。
こんな巨大な空洞ができてしまったら、落盤とか起こるんじゃないか?
そう思ったら、黒い糸のようなものが現れ、シュルシュルと結びついていき、消失した大地や天井、床、壁を修復する。そして、修復されたそれらはクリーム色になったかと思うと元通りの石壁、石床、石天井が再現された。
「「「……………………」」」
三人そろって無言になる。
え? なに、いまの?
トラップドールの落とし穴を取り除いたとき、修復される迷宮の様子を見たことがあったが、今回は全然違う。
まるで生き物の細胞が回復するみたいだ。
もしかして、迷宮って、実は巨大な生物の腹の中なんじゃないかと思えてくる。
「気持ち悪い」
「はは、そうですね。知らなくてもいい世界の一端を見てしまったみたいな気分です」
キャロはそう言って修復された壁に手を触れた。
俺も続いて触れてみるが、修復されたと言われなければ、何が変わったかもわからない。
ふと足元を見ると、レアメダルが五枚と魔石、それと綺麗な宝石が落ちていた。
宝石鑑定で見ると、《竜の目》という名前の、闇、火、水、風、土の属性の力を秘めている伝説級の宝石なのだとか。
「うーん、これを使った装飾品が欲しいが、レシピでこんなものを使う物はなかったよな」
「スキルを使わずに作れないでしょうか?」
「スキル無しに?」
キャロの提案に、俺は思わず考えた。
そういえば、この世界のすべてのものがスキルで作られているわけではないだろう。
テーブルひとつにしても、きっとスキルを使って作っている人と、スキルを使わずに作っている人がいるに違いない。
どうも、スキルが簡単に手に入るせいで、スキルで作るのが当然だと考えすぎていた。
成長チートの弊害だな。これは反省しないといけない。
「ほかの魔道具を作って、宝石部分だけ入れ替える……いや、素人が下手に弄って、爆発オチは勘弁だな」
魔道具作りなら、ピオニアかダークエルフに相談することにしよう。
とりあえず、アイテムバッグに入れた。
「よし、地上に戻るか」
俺は転移陣のある部屋に行き、地上に戻ることにした。
迷宮の中だと時間の感覚が狂うが、いまは夕方だった。
なんか、いつもより人が多い気がした。
「おい、あんた! 迷宮の中は大丈夫だったか⁉」
何度か見たことがある自警団の男が俺に尋ねた。
「大丈夫ってなにが?」
「地震だよ! 知っているか? 俺はよくわからんが、遥か地中にいる大ドラゴンが暴れまわって地面が揺れるらしい」
なんだ、それ? ナマズが暴れているみたいなことか?
こっちの世界に来た日本人が正しい地震のメカニズムを教えていると思うが、世間には浸透していないらしい。
それとも、本当にアザワルドでは地面の下にドラゴンがいて、暴れることで地面が揺れることがあるのだろうか? 異世界だし絶対にないとは言い切れない。
「この辺りじゃ何百年も起こっていなかったんで、知らないやつは魔王が復活したんだって大騒ぎだ。まぁ、他の町だと魔物が活性化してるなんて情報もあるし、魔王の復活に合わせてドラゴンが暴れたんだとしたら、あながち間違いじゃないかもしれんがな。お前も揺れを感じただろ?」
「いえ、全然わかりませんでした」
俺はそう答えた。正直、地震が起こったことなど全然気づかなかった。
地震大国の日本に住んでいたせいで、地震に対して鈍感になっているのかもしれないな。
まぁ、魔王が復活したというのはあながち間違えていないが。
自警団の男は「そうか、迷宮の中には影響が出なかったのかもな。ただ、何があるかわからないから、今日は迷宮の立ち入りを禁止することにした。あんたも今日は入れないぞ」と言って俺に迷宮から遠ざかるように促す。
なるほど、地震が起こって驚いた町の人たちが外に出てきたからこんなに町が騒がしいのか。
この時間なら、町の外で働いている人も家に帰ってくる時間だから、余計に人が多く感じるのだろう。
この町ってこんなに人がいたんだ。
「……イチノ様……地震というのは」
「ご主人様……時間的に見ておそらく」
うん、キャロとハルが言いたいことはわかっている。
絶対、俺の魔法が原因だよな。
参った、地上にここまで影響が出るとは思わなかった。
魔力増幅させたらどうなるんだ、これ?
周囲を見ると、建物の壁が崩れたりはしていない。
地震が何百年も起こっていないというのなら、建物の耐震強度なんてあってないようなもんだろう。多くの人が気付くような揺れがあり、それでも建物に損害がないということは、震度四か震度五弱くらいだろうか。
「あの……その地震で怪我人はいませんでしたか? いるなら回復魔法が使えるので治療に向かいたいのですが」
「ん? いや、怪我人が出たって報告は来てないな。一応、教会に行ってくれないか? 怪我人がいたら、神父さんのところに薬をもらいにいくはずだから」
自警団は「回復魔法が使えるのか、凄いな」と俺を褒めた。
「わかりました、ありがとうございます」
俺たちはその足で教会に向かった。
教会では、十人くらいの人が教会に避難し、女神様に祈りをささげていたが、神父様の話では怪我人はいないとのことで、少しほっとした。
マーガレットさんのところに戻ると、ミリがすでに戻っていた――のだが?
「ミリ、どうしたんだ、その恰好?」
いままでは黒っぽいセーラー服を着ていたのに、なぜか今は白いセーラー服を着ている。
冬服から夏服に衣替えした感じだ。
「おにい、まずは『似合ってるぞ』って言うべきじゃないの?」
「よくお似合いです、ミリ様」
俺の代わりにハルがミリのセーラー服を褒める。
「マーガレットさんからもらったのよ。前に私の服を見て、仕立ててみたんだって。確かに最初に会ったとき、彼女、私の服を熱心に見ていたけれど、それだけで、ここまで仕立てられるのは才能よね」
ミリはスカートの端をつまんで言った。
「確かに、よくできているな。うん、似合っている」
「別におにいに褒められても嬉しくないけどね」
嬉しくないのなら、さっきの注意はなんだったのか。
「イチ君、おかえりなさい。ご飯の準備はできてるわよん♪」
エプロン姿のマーガレットさんは、大量の焼いた肉が載った皿をテーブルに並べていく。
間違いなく、俺が渡した魔竜の肉だ。
多くはハルの嗜好品である干し肉の材料と、大飯喰らいのナナワットの餌にしているが、それでも何百トンと残っている。
お世話になっているマーガレットさんにも十キロほどおすそ分けした。
さすがに全部焼いてはいないが、しかし、三キロくらい焼いているんじゃないだろうか?
せめてサンチュくらいあればいいのだが、テーブルの上には肉の他にパンがあるだけで、葉物野菜は見つからない。
ただ、隣で平静な顔をしているハルの尻尾が大きく揺れているので、今晩の夕食は彼女にとって最大のご褒美だった。逆に小食のキャロは食べる前から胃がむかついているような顔をしている。
俺は忘れないうちに、マーガレットさんにお礼を言うことにした。
「マーガレットさん、ありがとうございます。部屋を貸してもらっているだけでなく、ミリのために服を仕立ててくれて」
「気にしないで。私、男の子も大好きだけど、可愛い服を作るのも大好きなの」
マーガレットさんは最後にスープの入っている皿を並べた。
ノルンさんは、今日の地震の被害調査を行うため、夕食には間に合わないようだ。
後でしっかり謝っておこう。
肉は美味しかったが、案の定キャロが少しだけ辛そうだったので、ミリに頼んで胃薬を処方してもらった。
部屋に戻った俺たちは、お互いの現状を報告した上で、今後の予定を立てることにした。
「魔王のレベル300になったんだ。おめでとう、おにい。限界突破薬、もう一本いっとく?」
ミリは両手で限界突破薬を持ち、俺に差し出した。
「栄養ドリンクや点滴みたいに勧めんな、貴重な薬なんだろ。それに、魔王はこれ以上レベルを上げるつもりはない」
「どうして?」
「正直、魔王の力は強すぎる。そりゃ、力があればって思うことはこれまで何度もあったけど、でも、いつかこの力に飲み込まれるんじゃないかと不安になる。この戦いが終わったら、第一職業は平民にでもするつもりだ」
「うん、その方がいいかもね」
ミリにも思うところはあるのだろう。
もしかしたら、彼女も魔王の力に恐怖したことがあったのかもしれない。
だが、ファミリス・ラリテイとして多くの魔族を纏める立場にあった。
俺と違って、魔王を辞めたくても辞められなかったのかもしれない。
「ミリ、お前も今回の旅が終わったら、魔王を辞めて他の職業になるか?」
「うーん、考えておくよ」
ミリは答えを出さずにそう言った。
そうだな、それでいいと思う。
「そうだ、ミリの魔神対策ってのはうまくいったのか?」
「まぁね。勝率が一割から一割五分くらいには上がったかな。まぁ、分が悪い勝負であることには変わりないから、勝てないと思ったらすぐに逃げてね」
「え……勝率ってそんなに低かったのか?」
てっきり少なくとも魔王レベル300になったら、七割から八割くらいの勝率があると思っていた。
「おにい、相手は魔神と魔王と勇者よ。元無職のおにいが五日間頑張っただけで勝てるほど甘くないよ」
ごもっとも。
「ご安心ください、ご主人様! 万が一のときは私がご主人様の盾となり、逃げる時間を稼いで見せます」
いや、ハルさん。そこは俺が時間を稼ぐからあなたが逃げてください。
と言っても無駄なのはわかっている。
というか、俺も危なくなったら逃げるとかいつも言ってるのに、逃げ切れたことは一度もない気がする。
魔王からは逃げられないってミリは言っていたけど、俺って最初はコボルトからも逃げられなかったんだよな。
「明日、アランデル王都に行く。ハル、俺についてきてくれ。キャロは……」
「キャロもついていきます。命令でも従いません」
キャロは強い意志を込めて俺に言った。
ハルは絶対についてくるとわかっていたし、彼女なら自分の身は自分で守れると思うから止めはしなかったが、キャロは魅了の魔法を含め、精神作用のある魔法を使えるといっても、万能ではない。ここに残ってもらう選択肢も俺の中にあったが、彼女の意思を尊重することにした。
「……あぁ、魔物が溢れることになったら、最悪キャロのスキルで魔物を誘導してもらわないといけないからな。ただし、無茶だけはするなよ。危ないと思ったらすぐに逃げるんだ」
「おにい、それ、私がおにいに言ったことだよ。それと、はい、これ」
ミリは俺に一通の手紙を差し出した。
「それは?」
「この町の冒険者ギルドのギルドマスターからもらった推薦書。王都に魔物が溢れている緊急事態である以上、王都の検問が強化されているかもしれないし、迷宮に入ることだってできないかもしれないでしょ? でもこれがあれば、少なくとも凄腕の冒険者であることを証明することはできる」
「検問くらい、准男爵のブローチでなんとかなるんじゃないか?」
「他国の準貴族の身分なんて、緊急時ではむしろ邪魔でしょ。誰が好き好んで自国の弱みを他国に晒すのよ。それに、おにいはまだ準貴族だからいいかもしれないけど、もっと上の爵位になれば、王都内で怪我したってだけで国際問題になるかもしれない。そんな状態で魔物が溢れる町に入れるわけないでしょ?」
言われてみればその通りだ。
考えたらずな兄で恥ずかしくなる。
「明日の早朝、夜明け前に馬車でここを出ましょ。おにい、明日はハルワが一日御者をすることになるから、早めに寝てね」
「わかっているよ。俺だってそこまで節操無しじゃない」
「私はただ、ハルワの性格上、主人であるおにいより先にこの子が寝るとは思えないから、おにいにも早く寝てねって言っただけなんだけど」
穴があったら入りたい。
夜明け前。
仕事を終えて帰ってきたノルンさんに事情を話した。
「お兄さん、ミリちゃん、私も一緒について――」
「ダメよ、ノルン。悪いけど、足手まとい」
「キャロちゃんの護衛くらいなら……」
「この子の実力からして、自分で対処できないような事態になるときはノルンの手にも負えないわ」
ミリがハッキリとノルンさんに告げる。
彼女も、俺と初めてあったときよりだいぶレベルが上がり、強くなっている。いまなら、ノルンさんを襲った山賊と同じレベルの悪人に襲われても自分で対処できるだろう。
しかし、キャロはそれよりも強くなっていた。
スキル無しの肉弾戦ならノルンさんのほうが強いかもしれないが、なんでもありの戦いとなったら、キャロのほうが遥かに強い。
少し辛辣な気もするが、ミリなりの優しさかもしれない。
「ノルンさん。この町の迷宮は、俺たちが上級者用迷宮で討伐していたから魔物が溢れる現象が起こらなかったみたいですが、俺がいなくなったら魔物が発生するかもしれません。だから、ノルンさんは俺たちが戻るまで、この町を守っていてください」
「……はい、わかりました。そう言えば、食事を奢ってもらう約束もまだ果たしてもらっていませんでしたしね」
「ですね」
少し悔しそうなノルンさんは、それでも笑って俺たちを見送ってくれた。
マイワールドに戻り、ニーテに《竜の目》を預けた俺は、フユンが曳く馬車に乗り地上に出た。
普段からナナワットと一緒にマイワールド中を走り回っていたこの馬の力は、以前にも増して力強く感じた。
やるべき準備は終わらせた。
まずは真里菜と合流。
そして、魔神との勝負だ。




