表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
謎の遺跡編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

167/448

ハルたちの武道会⑦

 大会二日目の朝。

 決勝戦の準備が着々と進行していた。と言っても、その準備は祝勝会と慰労会を兼ねた大宴会の準備であり、会場は昨日のままであった。

 ステラはひとり、マルが休んでいる彼の自室へと向かった。

 彼の部屋の前には護衛の姿はなく、部屋の中からもひとつの気配しかしない。

 ステラはそこにマルがいると確信し、扉をノックした。

「鍵は開いてるニャ」

 とマルの言葉を聞き、ステラは無言で扉を開けた。

「ステラか……どうしたのニャ?」

「マル兄にお願いがあって来たのニャ。遠見の水晶球。あれを使わせて欲しいニャ。今すぐ使わせてくれるのにゃら、王位の座をマル兄に譲るニャ」

 それは、ステラが一晩悩んで出した結論だった。

 元々自分には至高のマタタビ酒を造るという目標があり、王位には興味はない。

 ただ、世話になったハルワタート、そして行方不明のイチノジョウのために力を貸しているに過ぎない。

 マル兄なら快く応じてくれる。そう思ったのだが。

「それはできないニャ、ステラ。遠見の水晶球――あれは一度使えばその魔力を取り戻すのに十年必要になるニャ。そして、あれは王族の人間にしか使うことを許されにゃいニャ」

「そこのところを曲げてお願いしてるのニャ。私とマル兄のふたりが許可をすれば反対する者はいにゃいニャ」

「……にゃるほど……どうしても必要にゃんだニャ?」

 とそう言うと、マルは一歩前に出て、その手を前に出した。ステラの眼前にマルの肉球がゆっくりと迫った。

「お姉さん、そういう裏取引は関心しないね。知ってる? それって八百長って言うんだよ」

 そこに現れたのはカノンだった。

 壁にもたれかかって、開いたままの扉からこちらを見ていた。

 いつからそこにいたのか、ステラもマルもわからない。

「カノンさん、これは――」

「あのお兄さんのためだってのは私もわかってるよ。でも、真剣勝負の裏で密約を交わすのは国民の信頼と、そして前王の気持ちを裏切る行為だってわからないあなたでもないでしょ? だからこそ一晩悩まないと結論を出せなかったわけだし」

「それは――」

「はいはい、この話はおしまい。王子様、勝負は真剣がつきもの――そうでしょ?」

「その通りですニャ。ステラ、こっちは手を抜くつもりはにゃいから、ステラも全力でかかってくるニャ。遠見の水晶球の話は試合が終わってからゆっくりするニャ」

「……わかったニャ」

 ステラは頷いて部屋を出た。


 そして、廊下を歩くステラを見送ったカノンはマルに向かって尋ねた。

「カノンさん、まだにゃにか?」

「見事なまでに操り人形になってるねって思って――さっきステラに何をしようとしたの?」

 とカノンが尋ねると、マルの顔色が変わった。

「カノンさん。あなたは既に気付いているはずですが――」

 先ほどまでと打って変わって、カノンにとっては聞き取りやすい言葉でマルは語った。

「えぇ、気付いているよ。あんたはもうヴァルフの狗ってわけね」

「狗……ですか。言いえて妙ですね――眷属というわけではないんですよ。まぁ、催眠状態みたいなものです。自我もありますし。でもヴァルフ様には逆らえない」

「さっき、ステラに何をしようとした?」

「軽い催眠を――あの子は僕のことを信用していますから催眠にかけやすい状態だったのですが……戦闘中だとそうはいかないでしょうし――本当に余計なことをしてくれましたね」

 とマルは笑って言った。

「僕は妹を殺したくないですから――」

 とマルは怒りをカノンに向けた。

 カノンは気付いた。マルに自我が残っているというのも、そしてステラのために催眠を掛けようとしたというのも本当だろう。

「あの子をあんまり甘く見ないほうがいいよ。彼女の剣術はなかなかのものだしね」

「そうですね。でも僕たちには敵わない。警戒するとしたら白狼族の彼女くらいなものですね。大将の力は見ていませんが、どうも捨て駒のようですし」

「おや、私は警戒しなくてもいいのかい?」

「ええ。だってあなた――」

 とマルは目を細めて、笑って言った。

「ヴァルフ様に逆らえないように契約されているんでしょ? 昨晩のうちに、試合に負けるように命令までされている。違いますか?」

 とカノンに言った。

 それに対し、カノンは特に否定も肯定もしなかった。

「あの子もバカですよ。王位を譲るから遠見の水晶球を貸してほしい? 譲ってもらわなくても僕が王になるのは決まっているようなもの。だって、勝負はすでに四対六、いいえ、捨て駒を除けば三対六なんですから、そっちに勝ち目なんてあるわけないのに」

 とマルは窓のサッシの埃を爪でふき取り、ふっと吹いた。

 その余裕そうな顔を、カノンは忌々しく思いながらも尋ねる。

「ねぇ――ヴァルフ様は今どこに?」

「あの方は昼間は休んでいますよ。夕方には来られますが――関係ありますか? あぁ、大将戦の不戦勝狙いですか? おあいにく様ですが、ヴァルフ様は太陽の光は苦手ですけれど、それでも全く動けないというわけではないんですよ? もしも自分の出番が来るようなことがあれば、あの方は訪れます。まぁ、そうなってしまえば僕はお仕置きされるでしょうが――」

 そして、マルは――一気にその邪悪な表情を潜めて笑った。

 カノンは黙って彼に背を向ける。

「では、カノンさん。よい勝負ができるように僕も祈ってるニャ」

 マルの言葉を背中で聞きながら、カノンはひとり廊下を歩き去った。

異世界でアイテムコレクターが最終回で終わったため、時間にわずかに余裕ができたので、

次回から毎週火曜日と金曜日の更新になります(次回の更新は5月19日です)


成長無職3巻、来週月曜日――5月22日発売です。

ケンタウロスの秘密が明らかに? さらにヴァルフが裏で暗躍?

大幅書き下ろし内容になっています、ぜひその目でご確認ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ