後悔
「今日も彼の言ってた7時になったわ。」
無線機の電源を入れ、指定の周波数に合わせる。しかし、何の応答も無かった。
「今日も返事はなかったわね・・・」
あの避難所が盗賊に襲われてから数日、これが彼女の毎日の日課になっていた。
「広一さんから連絡はなかったかい?」
年配の男性が声をかけた。
「孝夫さん。ええ、今日も返事はなかったわ・・・」
とても小さい声で答えた。
「彼をあの時に置いていった事は本当にすまなかった・・・車の事故がおきて気が動転してたんだ。あの時に彼が目が覚めるまで待っていれば・・・」
「あの時は仕方なかったのよ・・・きっと。それがその時は最良の選択だった・・・そう思わないと私・・・」
葵は目に涙を浮かべている。
「自分達も彼が居なかったら一家全員死んでいたかも知れなかったしね。彼がいつ戻ってきても良いように居場所を作ってあげないと。」
無言で彼女は頷いた。
「彼とまず決めた伊東に向かわないとだね。そこに落ち着ける場所があれば良いが・・・」
孝夫の運転で車は出発した。
車は海岸沿いを走っていた。ゾンビはいたが、車で走っていればさほど問題ない位の人数だった。
「向こう側に見える陸地は神奈川かしら?」
「今走っている場所からするとそうだね。向こうは安全なのだろうか?」
「わからない。あれから1ヶ月。少なくも人が集まる地域は危険だというのは経験したわ。他の地域がどうなったのかわからない。電気がない世界がこんなに孤独なものだと思わなかったわ。情報が何もないの不安。」
「そういえば何で伊東なの?」
「広一と島に逃げようって話をしてたの。島なら奴等がいても島内の人口分しかいないだろうって。」
「減らしていけばいつかはいなくなるって事か。確かに間違えてない考えかもしれない。でも船がないじゃないか?」
「だからフェリーのレンタル屋を探してるの。事務所に鍵があるだろうし、燃料も入っていると思うし。」
「なるほどね。彼が来る前にフェリーをチャーターしないとだね、」
孝夫は無理してでも笑うようしにした。
「そうだ、あそこでもらった銃はダッシュボードに入れておくようにするよ。何かの際には誰でも使えるようにしておこう。」
そういって銃をしまった。




