軽井沢
「落ち着いた?」
川の水で車を流しながら葵に話しかける。
「うん、何とか・・・」
まだダメそうだ。
「今伊香保だから、とりあえず街中通らないルートで行きたいから、榛名山経由で軽井沢に向かってみようかと思うんだ。」
「私は何処でも良いよ。お任せします。」
「じゃあそんな感じでよろしく。さて、車もある程度流し終わったし出発するよ。」
「わかった。」
匂いが無くなり体調が落ち着いてきたのか、彼女が答えた。
榛名山の道中は思いの外軽快だった。山の中で民家が少なかったのも良かったのだろう。途中榛名湖の辺りでゾンビを見かけたか脅威な程ではなかった為避けながら進んで行った。
「このまま行けば楽勝だな。」
だが、軽井沢に入った辺りで雰囲気が変わって来た。観光客であろう人達の車両があちらこちらに乗り捨ててあったのだ。渋滞中に襲われたのか、車のガラスは割れ車内は血で真っ赤になっていた。死体がある車もある。
「アウトレットとかどうなのかしら?何かあるかも?」
「どうだろ?前に入ったファストファッションのショップみたいに服だからゾンビも人もいないんじゃない?」
「せっかくだから見てみたいな。」
「えー?」
「お、ね、が、い」
愛らしくこちらを見てくる。
「うー・・・わかったよー、少しだけな。」
「はい!ありがとうございます!」
とても嬉しいテンションの声で彼女は答えた。
・・・彼らの車が通った後から車内にいた死体が動き出した。別荘の中からも人影が動き出す。皆ゾンビになっていたのだ。
アウトレットの中はとても静かだった。誰もいないんじゃないか?と思う位静かだった。
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
「そうだな。」
(一応武器を持ってきたが要らなかったか?)そう思いながら一緒に歩く。
角を曲がり芝の広場のような場所が見えてきた。
「葵ちょっとまって!」
小さい声で呼び止める。隣に行き、広一は指を指した。
「ほらあそこ。大量のゾンビが見える。買い物は終わり。車に戻ろう。」
そう言うと後ろを振り向き車に戻ろうとした時だった。ゾンビが捕まえようと腕を伸ばして来た。
「キャッ!」
何とか彼女の手を引っ張りゾンビの手から逃れられた。
「くそ!」
声と同時に鉈で頭をかち割った。その後をにはゾンビ迫ってきている。ゾンビの集団に囲まれていたのだ。
「いつの間に!早く逃げなければ。」
「どうやって?」
「俺が囮になるから地面を這ってでも逃げればよいだろ!」
「えっ、でもだって・・・」
彼女が何かを言い終わる前に裕一は車の鍵を渡した。
「大丈夫だから早く!」
「・・・!」
「ほら!こっちだよ、殺してやるからこっちに来いよ!」
バールでゾンビの脳天をぶっ叩いきながらそう叫んだ。泣きそうなのをこらえながら彼女は屈んでゾンビを避けながら走り出した。
「こんな時に大丈夫って・・・典型的な日本人だな俺は。」
この状況に溜め息が出た。
「やっぱり生前人がいる所ってのはそれだけゾンビ化するのも多いよな・・・。」
ーーー
葵は走り出した。彼女には今何もする術が無い。自分達が軽井沢に向けて走ってきた道を見るとどんどんゾンビが押し寄せてくる。(いつのまに?来る時はいなかったのに?)彼女にはもう答えを出す余裕がなかった。
「車まで後少しなのに!」
ゾンビが目の前を遮る。持っていたアウトレットのショップの中から何か使えないのがないか漁る。ゾンビがどんどん近付いてくる。(何か!何か無い?・・・あ、これなら。)何かを袋から取り出してゾンビの頭に叩き込んだ!ナイフだ。アウトレットによく出店している某ショップのナイフを頭に刺したのだった。ゾンビは動かなくなった。
「まだ居る!」
ナイフを構えながら進んで行く。何とか牽制しながらも車内に入れた。ゾンビが中に入ろうとするが網が邪魔で入れない。(助かった・・・でも彼が。)遠くの方でゾンビが彼を囲んでいるのが見えた。
「やだ、そんな・・・やだやだ!」
そう言うと彼女は無意識にエンジンをかけ彼の方に走って行った。停めてある車や看板などすべてぶつかりながらも彼の方に走って行く。(後少しだから。)何とかたどり着きゾンビの1ヵ所に突っ込んだ。
「広一!」
「はは、スゲエな・・・。」
そう言うと彼は車に乗った。足にはゾンビが1体しがみついている。彼女は元来た道を走る。足にいたゾンビは柱に辺り首が変な方に折れ曲がりながら手を話し転がっていった。
「サンキューな・・・。」
「血だらけじゃない!噛まれたの!?」
「多分大丈夫なハズ。奴等力が凄かったから少し引っ掛かれたのかも?俺ゾンビになるのかな?引っ掛かれただけでアウトか?」
「そんな事言わないで!」
目の前に一軒の大型ガレージがある別荘が見えてきた。
「とりあえずあそこに行きましょう?ガラスも割れてないし大丈夫かも?」
ガレージに車を入れ、トレーラーは入りきらなかったのでガレージの前で切り離しシャッターを閉めた。(彼は死なせたくない・・・)そう言うと彼女はボウガンとナイフを持って建物の中に入っていった。
「ホントスゲエ行動力・・・」
扉がしまったのを確認し、そう言って広一は緊張の糸が切れたのか気を失ってしまった・・・




